【自動車用語辞典:燃費その4】クルマの燃費を最も左右する「エンジンの単体燃費」

■一番燃費に影響するのは搭載されるエンジンそのものの燃費

●一般には聞きなれないエンジン単体燃費

エンジンは、クルマの燃費を決定するキーコンポーネントです。「エンジンの単体燃費」を向上させることが、クルマの燃費向上に直接つながります。今回は、エンジンの単体燃費の計測法や改良手法について、解説していきます。

●エンジン単体燃費とは

クルマを一定条件で走行させるとき、エンジンに要求される出力は一定です。このときのエンジンの燃料燃費率は、単位仕事(単位出力×時間)あたりに消費する燃料重量で表し、単位は「g/PS・h(またはg/kW・h)」となります。この数値が小さいほど燃費が良いことを示します。

例えば、あるエンジンが回転速度3000rpm(回転/分)で出力が40PS、燃費率が250g/PS・hの場合、1時間の燃料消費重量は10000g(10kg)です。これはガソリン(比重0.75を仮定)なら、1時間あたり13.3Lの消費量に相当します。

●エンジン単体燃費の計測方法

エンジンの単体燃費の試験は、エンジン試験室のダイナモメーター(動力計)を使って行われます。ダイナモメーターではエンジンのトルク・出力を計測し、同時にそのときの燃費を流量計によって計測します。

燃費率を計測する試験では、エンジンにかける負荷を「無負荷(アイドル状態)」から「部分負荷(スロットルが部分開状態)」「全負荷(スロットルが全開状態)」まで設定して、エンジン回転速度500rpmごとに燃費率を計測します。

計測した燃費率のすべての結果を、横軸にエンジン回転速度、縦軸にエンジン負荷としたグラフ上にプロットし、燃費率を等高線で示した図を「燃費率マップ」と呼びます。もっとも燃費率が良い(小さい)領域は「燃費の目玉」と呼ばれ、通常はエンジン回転速度2000~3000rpmで、全開負荷に近い高負荷の運転領域が目玉です。

なお、最近はシミュレーション技術が進んでいるので、エンジンの単体燃費から、そのエンジンを搭載したクルマの燃費を精度良く推定できます。また、車両運転条件を完全にシミュレートできる高機能なダイナモメーターも開発され、台上試験で実車相当の動力試験や燃費試験、さらに実車のための適合試験もできるようになりました。

●エンジンの燃費を向上するには?

エンジンの燃費を向上するためには、より少ない燃料で多くの仕事をさせる、すなわち熱効率を向上させる必要があります。エンジンの燃費率を向上させる代表的な手法を、挙げてみます。

・高圧縮比化
熱効率は、圧縮比を上げるほど向上します。

・急速燃焼
燃焼を速めると、サイクル効率が向上して熱効率が向上します。

・希薄燃焼(リーンバーン)や大量EGR導入
熱効率を下げるポンピングロス(スロットルを絞ることで発生する損失)を低減できます。

・フリクション(機械損失)の低減
摺動抵抗や駆動ロスの低減や軽量化によって、エンジンにとってマイナスの仕事を減らします。

すでに多くの低燃費技術が採用されていますが、現在の注目技術は、日産の「可変圧縮比エンジン」と、2019年に発売される予定のマツダの「HCCI(予混合圧縮自着火)エンジン」です。両エンジンとも、多くの技術者が長期にわたり、実用化を目指して取り組んできた「画期的なエンジン」です。


クルマがあらゆる環境条件下の定常および過渡状態においてパワフルかつ燃費良く走行できるように、エンジンは設計され開発されます。クルマの燃費を向上させるには、まずは低燃費技術を駆使してエンジンの単体燃費を良くすることが最優先です。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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