BMWのFFバージョンが登場するのでは? というレポートを書きましたが,そうなったときにBMWらしいプロポーションは確保できるのでしょうか? BMWらしいサイドビューのプロポーションとして特徴的なのは、ホフマイスターキンク(Hofmeister kink)と呼ばれる、サイドウィンドウの形状です。Cピラー下部をちょっと切り欠いた形状のことです。これはドイツ語と思われがちですが、キンクは“ねじれ”を表す英語です。ホフマイスターとは60年代のBMWのチーフデザイナー、ウィルヘルム・ホフマイスターさんのこと。このウィンドウ形状は61年のフランクフルトショーで発表されたBMW1500ではじめて採用された手法でした。そこで彼の名前をとってそう呼ばれるようになったのです。(残念ながらバングルズ・エッジなどという言葉は残りませんでしたね…)
BMW1500(1961,フランクフルトショー)で初採用されたホフマイスターキンクと名付けられたウィンドウグラフィックの表現。
それと同時に意識的に表現されているなと感じていたのが、Aピラーの延長線をフロントタイヤの車軸中心に合わせる造形バランスです。これまでは多くのクルマが採用していたこともありますが、長いボンネットを表現しながらAピラーを後傾させバランスよく見せる黄金比であるようです。いまだにBMWはこれをおおむね守り、2009年のコンセプトカーVision Efficient Dynamicsでもそのバランスは保たれていました。(実はそのあとのテストカーではややバランスを崩しているようですが)
BMW X3シリーズ
BMW 5シリーズ
BMW Vision Efficient Dynamics (2009 concept car)
ところがこれは、どちらかというとフロントタイヤが前進しているFRに適したデザインでもあります。そこで、これからFFのBMWが登場してくるとなると、そのバランスはどうなっていくのでしょうか? FFではどうしてもフロントオーバーハングが長くなります。アウディなどは、車軸を前進させてFRのようなフォルムを実現していますが、それはある程度クアトロが主力になり得ているからできることでもあるようです。FFの場合、フル荷重での登坂や発進性能などを考えると、大き目のフロント荷重は必須なのです。
となると技術バランスからいってフロントタイヤは後退しますし、歩行者保護の高いボンネットや室内空間確保の高いヒップポイントを用いるとAピラーの付け根はだんだんフロントタイヤの上あたりになってきます。これではフツーのFF車でしかありません。
こんな形になってしまうのか? あるいはBMWらしさとしてAピラー位置を大事にするのか? それともBMWらしさを別の要素で表現するのか? FF市場でもBMWというブランドが武器になることは明白ですから、このデザイン開発もちょっと目を離せないところではありますね。
(MATSUNAGA, Hironobu)