■答は「超お金持ちの臭いがしない」でした
このところクルマを巡る環境で明るい話題がなく、何となく気持ちがクサクサしているタイミングでアルピーヌのWRCチャンピオン獲得50周年記念イベントに来た。会場を見ているとフェラーリやポルシェなどのイベントと何か違う。皆さんとっても和やかで、クルマを見てニコニコしながら話をしている。オーナーと観客の境が無く、日本人の私にも声を掛けてきます。しばらく理由解らず。
半日くらい居て「なるほど!」と疑問の理由分かりました。この手のヒストリックカーイベント、基本的にお金持ちが自分のクルマを自慢する傾向。日本のイベントだって5千万円級のクルマなど普通。フェラーリやポルシェともなれば億以上のクルマが並ぶ。翻ってアルピーヌのイベントを見ていると、広い会場をアルピーヌが埋め尽くす規模なのに、超お金持ちの臭いがしない。
日本のオフ会もクルマが集まれば、最後はいかに稀少なクルマであり、価値あるかという値踏み会になる。考えてみたらアルピーヌってヒストリカルな名車の割にそれほど高価じゃありません。もちろんWRCで上位に入った車両は稀少だ。でも「だから凄いだろ」ということにならないのだった。皆さん自分のクルマを大切にしていて、見に来る人も全てのアルピーヌを慈しんでいる。
深く考えてみると、かつてフランスは革命を起こし貴族を絶滅させた。その時点で飛び抜けたお金持ちを見て「カッコ良い」と思わない文化が育ったのだろう。初代アルピーヌA110も2代目A310のエンジンも普通の4気筒だったし、A610からはボルボなどと共同開発した実用エンジンのPRVを搭載している。凝った高価なエンジンではなく、メインテナンスだってお金掛からない。
実際、イベント会場に行ったら、たくさんのショップが店を開いていて足回りからエンジンまで全てのパーツが買えると思えるほど。単価だって手頃。イベントに集まった人の大半が、自分のクルマを気軽に扱っており、コストを掛けずに楽しんでいるのだった。気むずかしい空気出すお金持ちは見かけない(いると思うけれどそういった雰囲気はオモテに出してないです)。
新型A110は安いクルマじゃないけれど(特にカーボン使いまくる110Rは1500万円オーバー)、オーナー達や見物客を見ていると、むしろ古いアルピーヌをうらやましそうに見ている。解り易く表現すると皆さんクルマ好きなのだった。老若はもちろん、奥さんを伴い、二人でミニカー見ながら楽しそうに話をしてます。どんな人生を送ってきたのかな、と微笑ましくなる。
日本車でいえばスバル360のようなものかもしれません。スバル360って格段高価ではなく、その気になれば少し頑張ったら買える。オフ会に行くとクルマ自慢というより、どうやって維持していくかの情報交換などが重要だったりして。スバルが太田でスバル360のイベントやったら、きっとアルピーヌのイベントみたいになると思う。集まってくる観客も昔の話に花を咲かせるだろう。
閑話休題。アルピーヌの魅力は普通のエンジンを上手に使い、高価なエンジンを搭載したクルマと勝負し素晴らしい戦績を上げてきた点にある。新型だって搭載されているエンジンは日産が設計した乗用車用の1.8リッター4気筒だ。もちろんアルミボディを使ったり、ミドシップするなど凝りまくってますけど。値上がりしたものの、性能と内容を考えたら800万円スタートはリーズナブル。
私のマシンも手軽な価格で買える量販車ルーテシア(フランスではクリオ)をベースにWRCまで参戦出来るクルマに仕立て、4万5千ユーロ(邦貨約671万円※2023年5月21日時点換算)という価格。走らせたら本格的な武闘派です。ナンバー取れば最高のスポーツカーになる。クルマ好きであり、最後の純エンジン車が欲しいと思っているなら、アルピーヌA110をショッピングリストに載せてみたらいかがか。
ちなみに今回同行しているクリッカーの小林編集長は今年3月にA110のベースグレードのオーダーを入れたそうな。7月の生産で10月あたりの納車になるという。私はフェアレディZをオーダー済み。読者諸兄も最後の純エンジン車をぜひ! 日本車だとロードスターや86/BRZなんかもいいと思う。おそらく10年乗っても良い条件で手放せるだろう。定期預金より楽しい運用です。
(国沢 光宏)