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■車載フラッシュメモリ大手のインフィニオンが世界初の技術を発表
唐突ですが、ドイツに本社を置くインフィニオンテクノロジーズ(以下、インフィニオン)という企業名を目にしたことはあるでしょうか。
一般ユーザーにとってはブラックボックスというイメージの強い、車載マイコンなどに使われている半導体部品の大手として、自動車業界では知られている存在です。
そのインフィニオンが、日本で新製品の発表会を行いました。本社から部門担当のバイスプレジデントが来日するなど、かなり力の入ったイベントでした。
そこで公開されたのは、世界初・業界初となるLPDDRフラッシュメモリ「SEMPER X1」でした。
LPDDR(Low Power Double Data Rate)というのは、名前からも想像できるように省電力を考慮した規格で、SDRAMの派生タイプとして認識されているものです。
インフィニオンの「SEMPER X1」は、NORフラッシュメモリとして初めてLPDDRインターフェイスを採用したことが注目のポイントです。
これにより、従来型インターフェイスのNORフラッシュメモリに対して、5倍高速で、20倍の性能向上を果たし、電力消費を1/8に削減することに成功したといいます。
●NORフラッシュメモリ市場は車載ニーズにより成長している
なぜ、ハイスピード・ハイパフォーマンスなNORフラッシュメモリが必要なのかといえば、クルマに欠かせない電子制御の基本となる「E/E(電気/電子)アーキテクチャ」が進化しているためといえます。
旧来のシステムでは、個別最適化がしやすい、機能ごとに独立制御する分散型やドメイン型のアーキテクチャが採用されていましたが、最近では物理的な距離を基準としたゾーン型アーキテクチャが主流となっています。
将来的には、「セントラル・カー・コンピュータ」になるという未来予想が描かれています。
いわゆる「ソフトウェア定義型自動車(SDV)」というものです。
同社のようなフラッシュメモリを製造している企業にとって、こうしたトレンドは追い風となります。ですが、従来型NORフラッシュメモリではSDVが求める性能を満たせないといいます。
そこで、次世代のSDVが採用するであろうE/Eアーキテクチャにふさわしい安全性とパフォーマンス、さらに柔軟性も実現するべく生み出されたのが、LPDDRフラッシュメモリ「SEMPER X1」というわけです。
NORフラッシュメモリ全般の市場規模というのは、2013年からシュリンク傾向にあったといいます。その理由は、NORフラッシュメモリを使っていた携帯電話(いわゆるフューチャーフォン)が減少していることにあるわけですが、実は2021年から再び成長に転換したといいます。
その原動力となっているのが、車載用途です。
インフィニオンの発表によれば、NORフラッシュメモリはADAS(先進運転支援システム)に欠かせないカメラやレーダーなどに使われているといいますし、電動車両には必須のBMS(バッテリー・マネージメント・システム)にも使われています。エンジンを制御するECUにおいても、NORフラッシュメモリは欠かせないデバイスとなっています。
●タイムダウンゼロのOTAアップデートにも対応
前述したように、LPDDR NORフラッシュメモリは従来型メモリに対して性能アップすることで、E/Eアーキテクチャが進化した次世代車に対応することを目指しています。
ただし、インフィニオンという個社がLPDDR NORフラッシュメモリに注力しても、それだけで普及が進むわけではありません。チップセットメーカーなどの支持が必要です。
ソフトウェア定義型自動車への進化は業界のコンセンサスですので、まさに理想的な新技術を標準化しようという動きは、自動車業界全体で生まれているという説明もありました。
ユーザーメリットとして注目したいのは、OTA(オーバー・ジ・エアー)アップデート、すなわち無線通信による機能向上に関するLPDDRフラッシュメモリの持つアドバンテージです。
業界をリードするインフィニオンは、これまでもOTAアップデートにおける各種課題をクリアするNORフラッシュメモリを生み出していますが、世界初のLPDDRフラッシュメモリ「SEMPER X1」においては、タイムダウンゼロのアップデート対応が可能になるといいます。自動運転時代においては重要な機能といえるでしょう。
インフィニオンの発表した「SEMPER X1」は、すでにサンプル出荷が始まっているといいます。遠からず、この世界初のフラッシュメモリを搭載した車両が公道を走っているかもしれません。そうしたクルマは、利便性と安全性をレベルアップした、次世代自動車に進化していることが期待できるのです。