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■新たに開発した環境対応型リサイクルPP材とは?
バイクの外装など、多くの部品にはプラスチック製品が使われていることはご存じの通り。中でも、ポリプロピレン材(以下、PP材)は軽量で強度も高いなどの理由で、多くの採用例がある素材です。
ところが、石油を原料とするこうしたPP材は、製造過程で多くのCO2を排出してしまうという問題点もあり、カーボンニュートラル実現のためには、対策が急務となっています。
代替策としては、ユーザーが一度使用したPP材でつくられた製品などを再利用する「リサイクルPP材」を使う方法もありますが、品質が一定しないことで、外装の目立つ部品には使いづらいという課題もありました。
そんな背景の中、ヤマハ発動機(以下、ヤマハ)では2輪車の主要外装部品への使用が可能な、高品質の「環境対応型リサイクルポリプロピレン材(以下、環境対応型リサイクルPP材)」の開発に成功したことを発表しました。アセアン市場向けコミューターの2023年型主要モデルから、この原材料の使用を開始されます。
では、この新開発PP材とは、一体どんな原材料で、どんな部品に使われるのでしょうか?
また、日本モデルにも導入されるのか、価格がアップしたりしないのか…なども気になるところ。そんな素朴な疑問を、ヤマハの技術者に聞いてみました。
●目立つ外装にも使える新リサイクルPP材
まず、今回新開発された環境対応型リサイクルPP材とはどんなものなのでしょうか? ヤマハによれば、これは「石油化学メーカーや成形メーカーの工程内で発生するパージ材(樹脂合成切替時に発生する中間材)や端材など」を使ったリサイクルPP材のことです。
ヤマハでは、2010年からいわゆるリサイクルPP材を使っているそうですが、従来は前述の通り、バッテリーケースなど、一度ユーザーが使用し廃棄した製品を再利用した「ポストコンシューマー材」と呼ばれるものでした。
一般的に、2輪車の外装部品には多くの樹脂材が使用されますが、その中でもヤマハ製バイクの場合は、50%強がPP材。さらに、その中でも石油を原料にイチから作る「バージンPP材」を約60%、前述のポストコンシューマー材を約40%使っているのだとか。
ところが、ポストコンシューマー材と呼ばれる従来のリサイクルPP材は、一度ユーザーが使い廃棄した製品がベースのため、品質の劣化にバラツキがあり、紫外線や雨風などの影響を受ける可能性もあります。
そのため、たとえばスクーターのフロントマスクなど、目立つ外装部品には使いづらいのが現状。主に、車体下部など目立たない箇所に使い、見た目も重要な外装部品には、バージンPP材を使っているといいます。
一方、2050年までに、バイクなど製品の原材料を100%サステナブル材へ切り替えることを目標としているヤマハでは、リサイクルPP材をより多くの部品に使うよう拡大することも課題のひとつ。
そこで、新たに開発したのが今回の環境対応型リサイクルPP材。一度ユーザーが使った従来のリサイクルPP材と違い、バージンPP材を工場で製造する過程で出た余分な部分を再利用することで、品質も一定し、見た目が重要な外装部品への使用も可能。強度などもバージン材と同等という、理想的なリサイクルPP材なのです。
●125ccスクーターなどに採用
では、実際に、どんなモデルなどに採用されるのでしょうか? ヤマハでは、「アセアン市場向けコミューターの2023年型主要モデル」から採用すると公表。つまり、インドネシアやカンボジア、シンガポール、タイ、フィリピン、マレーシアといった、新興国向けモデルに採用するのです。
実際に採用されるモデルは、たとえば、日本の原付二種に相当する125ccスクーターの「ギア125(GEAR125)」。ほかにも、同じくスクーターの「GDR125/155」や、オフロードモデルの「WR125R」などの外装部品に使うのだといいます。
これらのバイクでは、外装部品のなかでも、フロントマスクなど、従来のリサイクルPP材では使えなかった部品にも新開発のリサイクルPP材を採用するのだとか。また、今までバージンPP材を使っていた部品の一部にも、可能な限り環境対応型リサイクルPP材へ置き換える方針だといいます。
なお、なぜアセアン市場向けモデルなのかというと、環境対応型リサイクルPP材の原材料は、アセアン地域の海外拠点で調達しており、対応するモデルもそれに合わせているのだといいます。
●価格アップや日本モデルへの導入は?
気になるのは、こうした新材料は一般的にコストが高くなり、価格が上がってしまうこと。また、日本向けモデルにも採用されるのかどうかです。
まず、価格について。ヤマハでは、「コスト自体は上がるが、企業努力で価格アップは行わない」方針だといいます。
また、日本向けモデルへの採用についても、「具体的なモデルや時期などは明かにできないが、計画はしている」と言及。将来的には、日本モデルにも、こうしたエコな材料を使ったバイクが導入されるようです。
ちなみに、ヤマハでは、こうしたリサイクルPP材の拡大に加え、セルロースファイバーやバイオケミカル材など、植物由来材も採用することで、前述した2050年までに100%サステナブル材に切り替えることを目標としているそうです。
ともあれ、こうしたエコな材料で作られたバイクに乗ることは、ライダーにとっても地球環境の保全に貢献することは確か。そんなエコなモデルが、日本の公道を走り回る日も、そう遠くないのかもしれません。
(文:平塚 直樹)