目次
■クリーンと使いやすさをアピールした軽バンEV
2000(平成12)年12月4日、スバル(当時は、富士重工業)はキャブオーバー型の軽バン「サンバー」に電気自動車「サンバーEV」の発売を始めました。走行距離が比較的短く、用途が限定される商用バンに、クリーンなイメージのEVを設定したのです。
●“農道のポルシェ”と呼ばれたサンバーの誕生
サンバーが登場したのは、1961年のこと。1958年に登場した歴史的名車「スバル360」の商用車版で、開発の指揮を執ったのは、同じく百瀬晋六でした。
初代から一貫して変わらないのが、スバル360と同じリアエンジン・リアドライブ(RR)レイアウトと4輪独立サスペンションです。これが、ポルシェ911と同じであることから、“農道のポルシェ”と言われた由縁です。ちなみに、スバルブランドのコア技術である水平対向エンジンは、サンバーには最後まで搭載しませんでした。
その後サンバーは、RRレイアウトと4輪独立サスペンションの組み合わせを頑なに堅持しながら進化し続けます。
1980年の3代目では、軽バン/トラックとしては初の4WDを搭載。1990年の4代目で550cc 2気筒から660cc直4エンジンに変更し、スーパーチャージャーエンジンのモデルも設定。1993年には、5代目サンバーをベースにしたレトロ調の「サンバークラシック」が追加設定され、当時流行ったレトロブームの火付け役となりました。
●国産電気自動車の先駆けとしてデビュー
1999年にサンバーが6代目に切り替わり、追加で設定されたのが電気自動車のサンバーEVです。
2WDのサンバーバンをベースに、エンジンの代わりに直流モーターを搭載し、最高出力25PS/最大トルク7.2kgmで、最高速度は90kn/h。バッテリーは、後席下に密閉型鉛電池10個を搭載して、モーター電源電圧は120V。交流200V電源を用いて8時間でフル充電でき、航続距離は170km、都市部でも75kmが可能でした。
当時、トヨタの「RAV4 EV」や日産の「ハイパーミニ」など市販化されたEVはありましたが、これらは販売目的でなく、技術的アピールや市場調査のためでした。サンバーEVは、パワステやエアコン、運転席SRSエアバッグ、リア3点式ELRシートベルトなどを標準装備して“使える電気自動車”として販売。ただし、実際のところは販売価格300万円、年間販売計画35台と、個人販売でなく法人や自治体向けのモデルでした。
●スバルが軽の自社生産から撤退、サンバーもダイハツのOEM供給モデルへ
スバル360に始まり、数々の軽自動車の名車を投入してきたスバルですが、普通車の開発に専念するため、2008年に軽自動車の自社開発・生産から撤退することを英断。スズキとダイハツの2強に加え、ホンダ、日産・三菱も加わり、軽自動車の競争は激化するばかりの当時。スバルの軽自動車が、この中で存在感を示すのは難しいと判断したのです。
そして2012年の2月28日、ついにサンバーの生産終了式が行われ、これをもって名車スバル360で始まったスバルの軽自動車は、名車サンバーで幕を下ろしたのです。
ただし、自社開発こそ断念したものの、以降もダイハツ・ハイゼットのOEMモデルでサンバーの名前は継続しています。
サンバーは、約50年間生産されてロングヒットを続けました。このような長寿モデルは、トヨタで言えば「クラウン」、日産自動車では「スカイライン」、ホンダでは「シビック」、スズキは「ジムニー」とみんな名車です。軽商用車でありながら、サンバーがロングヒットを続けられた理由は、なんといっても軽商用車らしくない卓越したパフォーマンスでしょう。
毎日が何かの記念日。今日がなにかの記念日になるかもしれません。
(Mr.ソラン)