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■日本の農業ノウハウを守ることがヤマハ発動機の産業用ドローンの使命
意外なところから、日本の農業のノウハウが流出の危機にさらされているということをご存じでしょうか? 農家の人手不足、省力化への対応と、ドローンの進化や普及によって、農業にもドローンが使われるようになってきました。すでに農薬や肥料の散布で活躍しているほか、今後はデータの蓄積や映像の解析によって、生育管理等にも大きな役割を果たしていくことが期待されます。
しかし、そこに問題があります。これまでに普及している農業用ドローンは外国製品が多いのです。そうすると、ドローンの飛行データ、作業データは外国のサーバーに送られてしまいます。実は日本の農業はじつにきめ細かい手の込んだ栽培を行っていて、非常に品質の高い作物を産出しています。そのデータは日本の農業のクオリティの生命線でもあるわけです。
ところが、ドローンのデータが流出すると、各種の作業の内容やタイミングといった栽培ノウハウも外国に流出する可能性があります。
それを防ぐためには、国内のサーバーで管理できる国産の産業用ドローンが必要です。そこで開発されたのが、今回ご紹介するヤマハ発動機の産業用ドローン『YMR-II』です。
そう、ヤマハが作っているのはバイクやボートばかりではありません。産業用無人へリにドローンと、陸・海・空をカバーしているのです。そしていま、このヤマハの産業用ドローンには、日本の農業の生命線を守るという使命が課せられているのです。
●ヤマハは日本における産業用ヘリのパイオニア
先に、ヤマハ産業用無人ヘリの歴史を紹介しておきましょう。1980年に農林省の外郭団体である(社)農林水産航空協会が、農薬散布に使う二重反転ローター式の無人ヘリコプターを開発していましたが、そのエンジンの提供を打診されたことをきっかけに、結局ヤマハが機体全体の製作を受託し、世界初の本格的な産業用無人ヘリコプターの開発が始まりました。
ヤマハは「世界の人々に新たな感動と豊かな生活を提供する」という企業理念を持っていますが、まさにそこに合致したというかたちでしょう。
このモデルは量産には至らず、1987年に試作機が公開されたのにとどまりましたが、そのいっぽうで、1985年からは並行して模型ヘリ業界大手のヒロボー(株)社との協力で、テールローター付き無人ヘリの開発プロジェクトも始まっていました。
これが、1987年にモニター販売、1988年に限定販売され、有効積載量20kgを有する、薬剤散布用無人ヘリコプターとしては世界最初のものとなったそうです。
それ以来、ヤマハは産業用無人ヘリを進化させ続け、2000年には災害観測・調査のために、飛行プログラムに基づいた可視外での自動飛行も実現しました。そして、2014年には高出力で操作性・安全性を向上させた『FAZER』シリーズをデビューさせました。
●無人ヘリより小回りがきく産業用ドローン
いっぽう、産業用ドローン(マルチコプター)は、2019年に発売されました。産業用無人ヘリは、大規模な耕作地で業者がオペレーションすることを想定していますが、より小さな耕作地で農家の人自身が運用できることを目指したのが産業用ドローンです。すでに世の中にはドローンが出てきていた時期でしたが、制御は無人ヘリのほうが難しいので、ヤマハが高性能な産業用ドローンを作ることはそれほど困難ではなかったようです。
もちろん、無人ヘリで培った安全性のノウハウはドローンにもバッチリ生かされています。初期型の『YMR-08』とマイナーチェンジモデルである現行型『YMR-08 AP』は、左右に二重反転ローターを備えるというユニークな作りで、薬剤を作物の株元までしっかり届ける高い散布性能を実現した、ヤマハらしいアイディアとこだわりを持ったモデルです。
そして、この10月に、来春発売される産業用無人ヘリ『FAZER R AP』とともに、新型産業用ドローン『YMR-II』が発表されました。『FAZER R AP』も、自動飛行機能の充実など着実に進化していますが、今回特に注目したいのは、この『YMR-II』です。
●YMR-IIは今後の農業用ドローンのベースとなるモデル
この産業用ドローン『YMR-II』は、単純に一企業の製品として作られたわけではありません。国立研究開発法人 農業・食品産業総合研究機構(農研機構/NARO)が、事業実施主体である国際競争力強化技術開発プロジェクトの「安心安全な農業用ハイスペックドローン及び利用技術の開発」を受諾したハイスペックドローン開発コンソーシアムの事業として開発されたのです。
コンソーシアムとは共同事業体のことで、代表機関はヤマハですが、そのほかにも共同研究機関等としてさまざまな企業や団体が名を連ねています。
この『YMR-II』は、今後の農業用ハイスペックドローンのベースモデルとして、日本の農業のこの分野でのコアになるべく、官民共同体によって開発されたものなのです。その機体の開発を、ヤマハが主体となって引き受けたというのは、やはり産業用無人ヘリから続く豊富な経験の蓄積や、高い技術力、信頼性があるからでしょう。
この『YMR-II』の特徴ですが、まず二重反転ローターをやめて6枚ローターとしたことで、収納時のサイズを約1/2にまでコンパクトにしました。これにより、一般的な農家がより容易に運搬できるようになりました。あわせて、価格を下げることにも成功しています。
いっぽうで、散布ノズルの位置や形状を工夫して、『YMR-08』シリーズ同様の散布性能を確保することにも成功しています。また防水規格IP55に対応し、水洗いが可能になっています。農業用ドローンは薬剤が付着するので、ユーザーとしては容易に水洗いできるとありがたいのです。
そして、冒頭で紹介した農業ノウハウの情報漏洩の防止は『YMR-II』の大きな使命です。『YMR-II』では、日本にサーバーを置き、そこに任意で飛行/作業データをアップロードできるようにしました。あわせて通信のセキュリティ機能を高め、ハッキング等によるデータの流出や、機体乗っ取りを防ぐなど、さまざまな対策を施しています。
『YMR-II』には液剤タンクのほか、粒剤散布用の装置をつけることができたり、各種センサーや障害物検知用カメラ、作物の管理用カメラなどが搭載できるようになっています。
将来的には産業用ドローンのデータで作物の生育を管理したり、エリア全面ではなくキャベツなどの作物1株ずつに薬剤を噴霧するなどの、きめ細かい散布もできるようにと開発が進められています。
●新時代、新分野を切り開くドローンに期待!
ドローンといえば撮影用のものが広く普及しているイメージですが、産業用ドローンは無人ヘリとともに、こういった農業用途のほか、火山の監視、測量、通信系の試験、物流など、さまざまな分野で利用されるようになってきていて、今後もその活躍の場を広げていくことが予想されます。
新時代を切り開く技術ってわくわくしますよね!
産業用マルチローター『YAMAHA YMR-II』製品情報
【主要仕様諸元】
全長×全幅×全高(収納時)※液剤タンク含む:1970×2157×786mm(733×626×786mm)
最大離陸重量:24.9kg以下
ローター枚数/配置:6/6X
ローター径/形式:26インチ/CF強化樹脂(折り畳み式構造)
フレーム形式:ボックスフレーム構造
アーム収納形式:下方折りたたみ方式
バッテリー定格容量:799Wh
定格電圧:44.4V
バッテリーマネジメントシステム:HBMS-SL 2
充電器:通常充電2.5h/急速充電1h
【メーカー希望小売価格】
185万9000円
(文:まめ蔵/写真:前田惠介)
【関連リンク】
ヤマハ発動機無人システム WEB サイト https://www.yamaha-motor.co.jp/ums/
SDGsムービー Field-Born(フィールドボーン)Vol. 5 「父と娘と、農業と」https://global.yamaha-motor.com/jp/stories/field-born/005/
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