BMWの新型4シリーズは6気筒FRを基本としたクルマ好き垂涎のラインアップ

■BMWの始まり&新型4シリーズを深掘り!

●BMWとは:エンジン製造メーカーから始まった

BMWの起源は、1913年に創業された航空機エンジン製造会社の「ラップ原動機製造所」です。ラップ原動機製造所は、ドイツ帝国空軍に航空機エンジンを納入する業者でした。

ラップ社は1917年に社名を「バイエリッシェ・モトーレン・ヴェルケ(Bayerische Motoren Werke GmbH)=バイエルンのエンジン工場という意味」と変更します。1918年にバイエリッシェ・モトーレン・ヴェルケ社は株式会社となりますが、第一次世界大戦後のベルサイユ条約によって、ドイツは軍用航空機エンジンの製造ができなくなっていたため、鉄道用ブレーキやモーターの製造を担うようになり、そうした動きからベルリンのブレーキメーカー「クノール・ブレムゼ社」と合併します。

1922年にはバイエルン航空機製造株式会社(Bayerische Flugzeugwerke AG=BFW)がクノール・ブレムゼ社を買収。社名をふたたび「バイエリッシェ・モトーレン・ヴェルケ(Bayerische Motoren Werke GmbH)」としました。

BMW303
1933年に登場したBMW303。この当時からキドニーグリルを採用。当時のグリルは縦長で、グリルが占める面積は現代の比ではなく大きい

1923年にはオートバイR 32を発売。1933年には自社開発による初のクルマとなるBMW303が誕生します。

BMW501
戦後初のモデルとなるのが501。もちろんキドニーグリルを採用するが、吸入量が足りなかったのだろう、ヘッドライト下にも導入口が設けられている

この後、BMWは第二次世界大戦によって大打撃を受けます。なかでも痛手だったのが、戦後処理で主力のアイゼナハ工場が東ドイツとなったことです。

こうしたなかでもBMWは徐々に生産能力を復活させ、戦後最初のモデルとなる501は、1952年に販売を開始します。現在はBMWブランドとして2輪と4輪、ミニ、ロールス・ロイスのブランドを展開しています。

●4シリーズとは:3シリーズから派生したクーペ系モデル

BMWは、1961年にノイエクラッセと呼ばれる中型の4ドアセダンを世に送り出します。このノイエクラッセはやがて5シリーズとなっていきます。1966年にはノイエクラッセの2ドアセダン版として1600-2が登場、後に1602という車名に変更。1802、2002、1502とバリエーションを広げ、02シリーズとして人気を博します。

この02シリーズの後継モデルとして1975年に登場するのが、3シリーズです。

初代の3シリーズは2ドアセダンと2ドアカブリオレというラインアップでしたが、2代目では4ドアセダンとステーションワゴンを追加、3代目では2ドアクーペ、3ドアハッチバックを追加というようにさまざまなボディタイプを増やしていきます。

そうした中、6代目でセダン系とステーションワゴン系は3シリーズに、2ドアクーペとカブリオレ、4ドアクーペを4シリーズというように分離します。現在では奇数のシリーズがコンベンショナルなセダンやステーションワゴン、偶数のシリーズがクーペやカブリオレなどのモデルという区分けとなっています。

現行モデルは、4シリーズとして用意されるのは2ドアクーペ、2ドアカブリオレ、4ドアクーペの3つのボディとなります。

●新型4シリーズの基本概要:6気筒エンジンも用意するスペシャルな存在

新型4シリーズは、現行3シリーズと共通性のあるCLARプラットフォームを使うモデルです。

現在、日本に導入されている4シリーズに搭載されるパワーユニットは、420i用の2リットル直列4気筒(184馬力/300Nm)、M440i Xドライブ用の3リットル直列6気筒(387馬力/500Nm)の2タイプが基本。さらにM4用として3リットル直列6気筒(480馬力/550Nm)と、M4コンペティション用(510馬力/650Nm)の2種が加わり計4タイプとなります。

組み合わされるミッションは、通常の4シリーズが8速AT、M4が6速MT、M4コンペティションが8速のDrivelogic 付のMステップトロニックとなります。

サスペンションはフロントがダブルジョイント式のストラットとなります。一般的なストラット式のロアアームはAアームと呼ばれる1つのパーツですが、ダブルジョイント式ではロアアームを2本としたタイプです。リヤサスペンションはマルチリンク式となります。

●新型4シリーズのデザイン:縦型キドニーグリルが目立つマッシブなボディ

BMWは1933年に、同社のオリジナルモデルとして303というクルマを発表します。このクルマに採用されたグリルがキドニーグリルと呼ばれるものです。キドニーとは腎臓のことで、今も続く左右対称のグリルは連綿と使われ続けているのです。BMWのグリルが肥大化しているということがよく言われますが、303の時代などはフロント全面がキドニーグリルで構成されています。

そして、このキドニーグリルというアイコンをBMWはつねに使い続けています。ウェッジシェイプのスタイリングを持つスーパーモデルであったM1にも、BMWはキドニーグリルを装着しました。4シリーズ以前のキドニーグリルは横長拡大されてきたのですが、4シリーズでは縦長のデザインに変更、いわば本来の姿にもどったともいえます。

4シリーズのデザインでは、このキドニーグリルがあまりにインパクトが強く、ついついフロントまわりのデザインにばかり目がいってしまいますが、抑揚のあるボディパネルから生まれる躍動感のある力強いボディは、歴代のBMW車のなかでも飛び抜けてマッシブな印象。

クーペ、カブリオレ、そして4ドアクーペのグランクーペと、どのボディタイプもBMWらしく、4シリーズらしいデザインを実現しています。

●新型4シリーズのパッケージング:微妙に異なる2種のホイールベース

新型4シリーズはCLARプラットフォームの採用によって、ホイールベースが先代モデルと比べると約40mm延長されています。4ドアクーペのグランクーペとM4のホイールベースは2855mm、2ドアクーペとカブリオレのホイールベースは2850mmとなります。ボディ全長はM4が一番長く4805mm、ついでグランクーペの4785mm、2ドアクーペとカブリオレは4775mmとなります。

全幅はM4が1885で、そのほかは1850mmです。全高はM4が1395mmで一番低く、2ドアクーペとカブリオレは1395mm、グランクーペは1450mmとM4に比べると55mmも高くなっています。

ボディタイプに関係なく、日本仕様の420iは右ハンドルのみ、M440iとM4は左右ハンドルのチョイスが可能です。グランクーペは5名定員ですが、クーペ、カブリオレ、M4の乗車定員は4名です。もっとも実用性が高いモデルとなるグランクーペのトランク容量は470リットルで、後席を折りたたむと1290リットルにまで拡大します。

クーペでも440リットル、カブリオレで300リットルという容量はなかなか立派なものでしょう。

●新型4シリーズの走り:Mでなくても十分過ぎるスポーティさ

今回の4シリーズが注目されている大きな理由のひとつに、直列6気筒エンジンの存続があります。世界中のクルマのエンジンがダウンサイジング、気筒数減少するなか、BMWはかたくなに6気筒エンジンを守り続けています。

電動化こそ正しい道であるとする急進的なグループからは、6気筒のガソリンエンジンなどけしからん!と言われるでしょうが、エンジンのパワーフィールに魅力を感じるグループにはたまらないものとなります。

M440iクーペエンジン
直列6気筒を表現するエンジンカバーが装着されたM440i。直6・FRのドライビングは格別のものだ

実際、440iに搭載される3リットル6気筒エンジンのフィーリングは実に気持ちのいいものです。低回転から高回転までよどみなく吹け上がり、どの領域においてもタップリと余裕のあるトルクを発生している6気筒エンジンは、クルマ好きの心をつかんで離さない魅力にあふれています。

BMWも単純に6気筒エンジンを存続させているわけではなく、このエンジンには48Vのマイルドハイブリッドシステムが組み込まれています。

もっとも、モーターの存在を感じることはほとんどなく、2ドアクーペで600km程度のドライブを行いましたが、高速道路メインのステージでは14km/L程度の燃費、スポーティに走ったワインディングを含めた全行程で13km/Lの燃費ですから、387馬力/500Nmのエンジンスペックを考えれば良好な数値といえます。

また、440iはXドライブという4WDシステムを搭載していますが、4WDに乗っているという感覚はなく、よくできたFRに乗っているイメージです。

M440iクーペインパネ
シンプルながら、BMWらしい実用性を重視したデザインのインパネ

一方、510馬力/650Nmのスペックを持つM4コンペティションは、迫力に満ちたモデルです。BMWのMモデルはハイパフォーマンスモデルとして知られていますが、現在のMには2種類があります。

M440iのようにMの後ろに3ケタの数字が続くものは、スポーティなロードモデル。M4のようにMの後ろに1ケタの数字が続くものはロードモデルでありながら、サーキット走行も念頭においたモデルという位置付けです。

M4エンジン
標準の6気筒とは異なるデザインのカバーが取り付けられるM4のエンジンルーム。補強パーツもトラス形状で強固なものとなっている

エンジンを始動すると、地の底からわき上がるような迫力のあるエキゾーストノートを響かせ、このクルマがただ者ではないことをうかがわせます。

この音量、住宅地では困った存在になるな…と思ったのですが、Mスポーツエキゾーストシステムという仰々しい名前のついたシステムによって、音量をグッと抑えることができるので安心です。

普通に走らせているぶんには意外や意外、乗り心地はけっこうよく、普段使いでも十分に使えるタイプのフィーリングです。ハイパフォーマンスモデルであっても普段使いに十分に耐えるところは、いかにもBMWらしいセッティングといえます。

そして感動的なのが、Mモードと呼ばれる走行モードの切り替え機能。ロード、スポーツ、トラックの順で制御デバイスの介入を抑えるとともに、エンジンのトルクカーブ、サスペンションの減衰力などを調整、走りをどんどんエキサイティングにしてくれます。

●新型4シリーズのラインアップと価格:クーペの584万円がスタート価格

4シリーズは通常モデルとMモデルの2タイプが存在します。ボディタイプは通常モデルが2ドアクーペ、2ドアカブリオレ、グランクーペの名で呼ばれる4ドアクーペ(5ドアハッチバック)の3種、Mモデルは2ドアクーペと2ドアカブリオレとなります。

4シリーズ価格&バリエーション
もっともリーズナブルなモデルが584万円であるのに対し、トップモデルは1490万円と3倍近い価格となる

通常モデルは3種のそれぞれのボディに、2リットル・ガソリンターボと3リットル・ガソリンターボが用意されます。2リットルはFRの後輪駆動、3リットルは4WDとなります。Mモデルは3リットル・ガソリンターボエンジンを積みますが、M4は460馬力/550Nm、M4コンペティション系は510馬力/650Nmのスペックとなります。

現在のところ、日本仕様は以上のラインアップとなりますが、欧州では2リットル・ガソリンターボにも4WDが用意されるほか、2リットル・ガソリンターボのパワーアップ版 (258馬力/400Nm)のFRと4WD、3リットル・ガソリンターボのFRモデルが用意されます。さらにディーゼルエンジンも2リットルターボが1タイプ、3リットルターボが2タイプ用意されます。

●新型4シリーズのまとめ:実用性以上のものが満載される

セダンとワゴンは3シリーズとして、4シリーズは2ドアクーペ、2ドアカブリオレ、4ドアクーペ(5ドアハッチバック)というラインアップとしたことで、従来の3シリーズとは一線を画した展開となっているのが現行4シリーズです。

3シリーズのクーペという位置付けの場合は、ベーシックなセダンやワゴンと同じシリーズ内に存在するスペシャリティモデルという印象が強くなりますが、シリーズを分離することでよりスペシャリティを強めることが可能です。先代モデルで分離を実行。現行モデルは純粋なる4シリーズとなり、専用のデザインやセッティングの領域が拡大したこともあり、魅力をさらに高めています。

クルマとして実用性以上のものを求めたモデルが、BMWの偶数シリーズです。現行4シリーズは偶数シリーズのなかでもっとも新しいモデルとなり、BMWのスペシャリティを詰め込んでいるモデルとなっています。また、世界でも数少なくなった直列6気筒エンジンを搭載するFRモデルということも、4シリーズの大きな魅力となっています。

(文・写真:諸星 陽一

この記事の著者

諸星陽一 近影

諸星陽一

1963年東京生まれ。23歳で自動車雑誌の編集部員となるが、その後すぐにフリーランスに転身。29歳より7年間、自費で富士フレッシュマンレース(サバンナRX-7・FC3Sクラス)に参戦。
乗って、感じて、撮って、書くことを基本に自分の意見や理想も大事にするが、読者の立場も十分に考慮した評価を行うことをモットーとする。理想の車生活は、2柱リフトのあるガレージに、ロータス時代のスーパー7かサバンナRX-7(FC3S)とPHV、シティコミューター的EVの3台を持つことだが…。
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