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■乗って分かった700cc・2気筒のR7が意外に楽しい理由
ヤマハの新型スーパースポーツ、700cc・2気筒エンジンを搭載する「YZF-R7」が、2022年2月に国内販売されることが正式発表されました。
バイク好きならご存じの通り、スーパースポーツといえば2輪最高峰レース「MotoGP」に出場するレーシングマシンを彷彿とさせる戦闘的スタイルと、圧倒的な動力性能が魅力。一方で、特に1000ccなど大排気量マシンは200psを超えるパワーを持つたため、誰でもが乗りこなすことは難しい存在だといいます。
ところが、新型のYZF-R7(以下、R7)は、レーシングマシンさながらのスタイルを持ちつつも、初心者からベテランまで幅広い層が楽しくスポーツ走行を楽しめるバイクだといいます。
「誰でも楽しいスーパースポーツ」。50代半ばにして、最近サーキットのスポーツ走行にハマった筆者は、その言葉へ敏感に反応し、興味津々となりました。
でも、昔からMotoGPなど2輪レースが好きな筆者としては、ヤマハのフラッグシップモデル、1000ccの「YZF-R1M(以下、R1M)や「YZF-R1(以下、R1)」は憬れの存在。
スタイルはもちろん、1000cc・4気筒というエンジンの排気量やレイアウト、先進の電子制御システムなどは、ヤマハのMotoGPワークスレーサー「YZR-M1」直系だからです。
ここのところ通っている筑波サーキット(茨城県の国際格式コース)でも、上級ライダーがR1で颯爽とコーナリングを決める姿をよく見かけ、「いつかは自分も」なんて夢想していることもあります。
でも、実際に車両重量201〜202kgという軽量な車体に、200psもの最高出力を出すエンジンを搭載する、凄まじいパワーウエイトレシオのマシンを扱いきれるのか? 特に、まだ慣れない(正確には何回走っても上手くならない)サーキット走行では、楽しいのはR7なのかもしれない……。
そんな切実な(?)悩みに答えを出すべく、筆者はヤマハさんが千葉県のサーキット、袖ヶ浦フォレスト・レースウェイで行った試乗会に参加させて頂き、実際に2台を乗り比べてみました。
さて、新型R7とR1、サーキットなどのバイク遊びで、筆者のようなオジさんライダーが楽しめるのは、一体どちらなのでしょう?
●スポーツ走行に適した装備を持つR7
今回試乗した新型R7は、ネイキッドモデルの「MT07」をベースに、よりサーキットやワインディングなどスポーツ走行に適した装備を施したモデルです。
エンジンやフレームはMT-07と共通ながらギヤの2次レシオをロング化したり、車体の剛性アップなどで、走行性能を最適化。
また、フロント接地感に優れる倒立式フロントサスペンションや専用設計のリヤサスペンションを採用。セパレート式ハンドルやバックステップなどによるスポーティなライディングポジション、それにYZF-RシリーズのDNAを継承するスタイリングなどが特徴です。
一方、R1は、前述の通りヤマハ製スポーツバイクのフラッグシップ。ヤマハ独自の「クロスプレーンコンセプト」に基づいて設計されたパワーユニットは、アクセル操作だけで車体の自在なコントロールさえ可能なことが魅力です。
また、より自然なスロットル操作感をもたらすライドバイワイヤー機構の「YCC-T(ヤマハ電子制御スロットル)」、ECUがスロットル開度、点火時期、燃料供給量を制御し、扱いやすいエンジンブレーキ特性を実現する「EBM(エンジンブレーキマネージメント)」など、数々の先進電子制御システムを搭載します。
特に、上級グレードのR1Mには、カーボン素材の軽量カウルやオーリンズ製サスペンションなど、筆者はもちろん、スポーツバイク好き憬れのパーツが満載。ラッキーなことに、今回は、このR1MとR7に試乗することができました。
●サーキットで軽さは正義
まずはR7に乗ってみます。早速バイクにまたがってみると、なかなかの前傾姿勢。筆者が普段乗っているホンダ「CBR650R」と比べると、上体は若干ながら前気味になります。
ちなみに、CBR650R(以下、CBR)は、650cc・4気筒エンジンを搭載するフルカウルモデル。街乗りからワインディング、サーキット走行まで対応し、誰にでも乗りやすいという意味では、恐らくR7のライバルとなるであろうバイクです。
R7は、CBR650Rと比べ、セパレートハンドルのマウント位置が低く、ステップが後ろでやや高い位置であることから、こういった違いが出ているといえます。
筆者的には、CBR650Rのステップは、サーキットではやや前過ぎるため、市販のバックステップを付けて少し後ろに下げたいくらい。その点、R7は最初からバックステップ付き。サーキット走行に限定すれば、R7の方が、よりマッチするポジションだと思います。
ともあれ、エンジンを始動し、2気筒エンジン独特の低い排気音を奏でながらコースイン。直線を加速してみます。R7は最高出力73.4psですから、試乗前は95psの愛車CBRと比べパワー不足を感じるかと思っていましたが、意外に加速がよく、車速も伸びますね。
これは、R7の車両重量が188kgと、このクラスでもかなり軽量なことも大きいのでしょう。ちなみに、CBRは206kgですから、後に紹介するR1Mより重たいのです。それでも、筆者的にはCBRの前に乗っていたスズキの2代目「GSX1300Rハヤブサ」が装備重量で266kgでしたから、十分軽く感じますけどね。
ともあれ、「ライトウエイトマシンは、そこそこのパワーでも俊敏で速い」ことを体感できるのがR7です。特にサーキットでは、ブレーキングやコーナリングなどもそうですが、とにかく「軽さは正義」だということを実感させてくれます。
●減速時はA&Sクラッチが効果を発揮
お次は、減速からコーナーリング。車体が軽いから、制動距離は思ったより短くすみ、フロントサスペンションがしっかり踏んばってくれるため、車体の姿勢変化もあまり前に行きすぎることはありません。
ただし、2気筒だからなのか、4気筒のCBRに比べるとエンジンブレーキはやや強め。シフトダウンをミスしてギアを落とし過ぎると、たまに後輪にバックトルクがかかり振られそうな挙動をみせることもあります。
でも、R7には、A&S(アシストスリッパー)クラッチがついているため、そんな時でも安心。過度なエンジンブレーキの発生を抑止し、大きなバックトルクによる車体挙動への影響を抑えるこの機能のおかげで、ブレーキングがとても安定しています。
しかも、R7には、ブレーキレバーにブレンボ製ラジアルマスターシリンダーを採用していることで、制動時のコントロール性も抜群。MotoGPなどのレーシングマシンにも採用されているこのシステムは、レバー入力に対し制動力がリニアに発生するのが魅力です。
ちなみに、ヤマハでは今後、R7以外のスポーツモデルにも、順次ラジアルマスターシリンダーを採用する予定だとか。見た目もレーシーだし、性能も文句なしのブレーキ機能ですから、スポーツバイク好きには朗報ですね。
●シフト操作なども勉強になるマシン
ブレーキングからのコーナー侵入は、MT-07のフレームを使った細い車体が功を奏し、ひらりと軽快に倒し込みできます。クリッピングポイントを過ぎ、徐々にアクセルを開けていくと、低回転域からトルクが発生する2気筒エンジンのおかげで、これまたスムーズに立ち上がります。
パワーは、出方が唐突でなく、アクセル開度に応じてとてもリニア。コントロール性が高く、加速感もほどよいため、思い切り開けていけるのも楽しいですね。
ただし、タイトコーナーなどの立ち上がりで思い切りアクセルを開けていくと、思いのほかエンジンの伸びが頭打ちすることがあります。サーキットでは、コースや走り方、ギヤ比などによっては、エンジン回転数がレブリミット付近になったためシフトアップした途端に、すぐにコーナーがやってきて減速するといったケースもあります。
愛車のCBRではそんな時、シフトアップせずにややオーバーレブさせながらコーナーに侵入しています。ブレーキングや体重移動などが忙しいため、シフト操作をサボっているのです。
4気筒のCBRでは、そんな時でもパワーの落ち込みは少ないのですが、2気筒のR7はそれを許してくれません。当然ながら、オーバーレブはエンジンによくありませんから、「サボらずちゃんと操作しろよ」とバイクが教えてくれているようです。
そこで、早め早めにシフトアップするように心掛けると、回転が頭打ちすることなくスムーズな立ち上がりが可能に。サーキット走行は、公道を走っているとき以上に、ブレーキやシフトなどの各操作を確実に行わないと上手く走れません。その意味で、R7は、とても勉強になるバイクだと思います。
ちなみに、R7には、オプションでクラッチ操作なしでアクセルを開けたままシフトアップができる「クイックシフター」も設定されています。
今回の試乗車には付いていなかったため、通常のようにアクセルを戻し、クラッチを切ってからシフトアップをしていましたが、クイックシフター付きならそういった操作が不要のため、加速に集中できます。
価格(税込)も1万8700円と比較的安いですから、特に、サーキットを走る場合は、ぜひおすすめのパーツです。
●R1Mは異次元の加速!
お次は、憬れのR1M。ライディングポジションは、R7よりも前傾がきつく、かなり戦闘的。しかも、リヤサスペンションの沈み込み量が少ないため、筆者の体格では片足でもお尻をシートからずらさないと足が着きません。両足では、つま先がようやく着く程度ですから、坂など不安定な場所では立ちゴケしそうです。
やはり、ハイパーフォマンスマシンですね。特に、サーキットでの速さを極限まで追求したR1Mは、跨がるだけで緊張します。
エンジンを掛けると、まるでMotoGPマシンのような排気音が、気持ちをグッと昂揚させてくれます。低速域ではちょっと乾いた低い音質が、アクセルを開けて回転を上げるとともに高音質になっていく感じもたまりません。
思い切ってアクセルを開けてみると、異次元の加速! あっという間にコーナーが近づいてきます。R1MやR1には、前後輪のブレーキ圧力を自動制御する「BC(ブレーキコントロール)」や、扱いやすいエンジンブレーキ特性を実現する「EBM(エンジンブレーキマネージメント」など先進の電子制御システムが搭載されています。
そのため、ブレーキング時の車体姿勢はとても安定しています。加えて、QSS(クイックシフトシステム)も採用するため、シフトダウンやシフトアップもクラッチレバー操作なしで行うことが可能。ライダーは、これらのシステムにより、制動やコーナリング、加速などに集中できるようになっています。
それでも、R1Mは、あまりの速さに目がついていかず、コースを走る際は常に緊張してしまいます。特に、長いストレートからのブレーキング。今回試乗した袖ヶ浦フォレスト・レースウェイでは、最も長いメインストレートでも400mくらいですが、次の右コーナーが90度近く回り込んでいるため、進入時にはハードブレーキングが必須となります。
R7では、筆者の場合、ギヤを4速まで上げ、170km/hを少し超える速度からブレーキングを開始し、2速まで落としコーナーを回る感じ。
一方、R1Mは、あっという間に加速するため3速までしか入れられず、R7の時よりコーナーの手前で、180km/hくらいの速度からブレーキングを開始。しかも、ギヤは1速まで落とし、エンジンブレーキを強くしないと安心してコーナーに侵入できない感じでした。
そんな感じでR1Mは、10分も走るとヘトヘトに。一方、R7は、45分間の走行時間中で、2回ほどピットロードに入りスロー走行して休みましたが、一度もバイクからは降りずに走り続けることができました。
●R7は集中力が続くマシン
長時間走っても疲れにくく、集中力が続く。これは、サーキットはもちろん、公道のワインディングでも、安全に走るために重要な要素のひとつだと思います。その点でいえば、筆者の腕では、R7の方が向いていることが今回ハッキリしました。
また、R1Mは、さまざまな最新の電子制御を持つがゆえ、筆者ではバイクに乗せられているような感じです。それに対し、R7には、さほど多くの電子制御システムは搭載されていません。その分、R7の方が、自分がマシンを操っている喜びを味わえる気がします。
それは、若くてバイクの経験が比較的浅いライダーも同様でしょう。むしろ、筆者のようなオジさん以上に体が動く若い人の方が、R7の良さをより引き出し、さらに楽しいスポーツ走行を実感できるのではないかと思います。
だからといって、筆者はR1MやR1のような1000ccスーパースポーツを諦めたわけじゃありません。
実際に今回乗ってみて、やはりその卓越した動力性能やスタイルには、改めて多くの魅力を感じました。いつか所有してみたい「夢のバイク」であることには変わりないのです。
●もしR7でツーリングに行ったら?
ちなみに、もしR7をツーリングなどで乗った場合はどうか。これは、あくまで想像ですが、R7のポジションは、前傾がきつすぎるということはないため、長距離走行でもあまり疲れないレベルだといえます。
足着き性も、身長165cm・体重59kgと比較的小柄な筆者でも良好でした。シート前方が細くなっているため、片足ならカカトまでベッタリ付くし、両足を着いても車体が不安定になるほどツマ先がツンツンになることはありません。
ただし、あまり沈まないリヤサスペンションは、サーキットではよく踏んばってくれるためいいのですが、筆者くらいの体格の人なら、街乗りやツーリングでは、イニシャルをやや弱めた方がいいかもしれません。
その方が、足着き性が向上し、たとえば、見通しの悪い路地で他の車両が飛び出してきた時などに、フロントブレーキを強く握りすぎて起こる立ちゴケなどのトラブルにも対応しやすいでしょう。
ちなみに、R7は車体が細くて軽いため、押し歩きも楽です。坂があったり、狭い駐車場などでも、あまり苦労せずに取り回すことができます。
なお、R7の価格(税込)は、スタンダード仕様が99万9900円で、2022年2月14日の発売予定。今回一緒に乗ったR1Mが319万円、スタンダードのR1が236万5000円と考えると、かなり低価格であることも魅力です。
また、R7には、ヤマハのWGP(ロードレース世界選手権)参戦60周年を記念した400台限定モデル「WGP 60thアニバーサリー」も設定されます。
1980年代のヤマハワークスカラー、通称「白赤ストロボ」カラーを施した特別仕様で、価格(税込)105万4900円。こちらは2022年3月14日の発売です。
(文:平塚 直樹/写真:奥隅圭之、平塚直樹、ヤマハ発動機)