■システムトータルで27馬力アップ。ライトウェイトパッケージは26.2kgの軽量化を実現
2022年いっぱいでホンダのスポーツフラッグシップNSXが生産終了することが発表されています。
2016年に発表され、日本では2017年から発売開始となった現行NSXですから、この手のスーパースポーツとしてはモデルライフが短くなってしまったという印象もありますが、カブリオレの追加やパワーアップといったパフォーマンス向上につながる改良がほとんどなされなかったことを考えると、5年少々で商品性を失ってしまうのもやむなしといえるのかもしれません。
NSX独自の3.5L V6(バンク角75度)ツインターボエンジンとモーター内蔵9速DCT、フロントに左右独立モーターを組み合わせたSH-AWD(Super Handling All-Wheel Drive)による「駆動で曲がる」性能は非常に新しいものでした。
トルクベクタリングによる新しいハンドリングは、いま現在も最新テクノロジーといえるものですが、いかんせんハイブリッドシステムとして発生できる最高出力が573馬力というのは2020年代のスーパースポーツとしては物足りない印象があります。
NSXは大きな改良がないままモデルライフを終えようとしているわけではありません。最後にひと花、といえる特別仕様車「タイプS」を用意しています。
世界限定300台、そのうち北米向けが300台、日本向けは30台という特別なNSXは、スタンダードとは異なるエボリューションモデルに仕上がっています。
いかにもスーパースポーツといった大きな開口部を持つアグレッシブな意匠のフロントバンパー、GT3レーシングカーとの関係性を感じさせるディフューザーを与えられたリヤバンパーなど、冷却性能と空力性能をレベルアップしたエクステリアとなっていることは、ひと目でわかる特徴といえるでしょう。
冷却性能を上げるのは、パワーアップに対応する必然です。具体的にはスタンダードモデルのシステム最高出力573馬力、最大トルク476lb.-ft.に対して、600馬力、492lb.-ft.へとパフォーマンスアップしているのです。
そのパワーアップ・トルクアップは、エンジンとモーターの両方で行われています。このあたりハイブリッドカーのチューニングとして見ても注目ではないでしょうか。
具体的には次のように発表されています。
エンジン単体では最高出力が500馬力から520馬力へ、最大トルクは406lb.-ft. から443lb.-ft.へと向上しています。そのための改良点は大きく3つあります。
市販レーシングマシンであるGT3仕様から流用されたGT3ターボチャージャーの採用とブースト圧のアップ(約5.6%)という過給機周りが最大の注目点。そして過給した空気をしっかりと冷やして充填効率を高めるべく、インタークーラーの冷却性能が15%増しとなりました。さらにインジェクター容量を25%増としているのもパワーアップには欠かせません。
ただし、システム最高出力としては27馬力アップしているのに、エンジンだけでは20馬力しか増えていません。つまり、ハイブリッドシステムの肝である電動パワートレイン系でもパワーアップをしているというわけです。
電動系でのパワーアップといえば、モーターの大型化…と思うのは間違いです。じつはモーター駆動系の最高出力に大きく影響するのはバッテリーの能力です。
そこで、NSXタイプSではバッテリー容量を20%増やし、バッテリー出力を10%上げたといいます。これにより、モーター駆動のピークパワーをアップさせています。ただし、具体的な数値は現時点では未公表となっています。
ここで、単純に引き算をしてモーター側で7馬力のアップと計算するのは正しい理解とはいえません。ハイブリッドカーにおけるシステム最高出力の場合、エンジンが最高出力を発生しているときに単純にモーターが上乗せしているという風にもいえないからです。
ちなみに、NSXタイプSではフロントの左右独立モーターの減速比をスタンダードの8.050から10.382へとローギヤード化、これにより実質的なフロントの駆動トルクが増しています。つまり、よりSH-AWDによる駆動力で曲がるというNSXだけのアドバンテージが強化されているのです。
そのほか、NSXタイプSには「ライトウェイトパッケージ」が用意されることも発表されました。
このパッケージでは、カーボンセラミックのブレーキディスク、カーボン製エンジンカバー、カーボンインテリアトリムが含まれ、トータルで26.2kgの軽量化につながるといいます。なお、タイプS自体、スタンダードモデルではオプション扱いのカーボンルーフを標準装備しています。
NSXタイプSはエンジンとバッテリーの改良によりシステム出力を向上させただけなく、9速DCTの変速マップも変わりました。パドルの長押し操作でスキップシフトも可能になり、最適なギアまでダウンシフトするようになっています。