横浜で始まったEV充電の実証実験に明るい未来を見た【週刊クルマのミライ】

■欧州では広まっている充電器の公道設置。国内第一号が試験的に開始された

Zero Carbon Yokohama
設置されている急速充電器は最大出力90kWで2台同時充電が可能(2台利用時は56kW)

EV(電気自動車)の課題は航続距離というのは多くのユーザーが口にするところで、その有効な対策として急速充電インフラの整備が必要というのは、EV普及におけるもっとも重要なソリューションとして認識していることでしょう。

実際、高速道路では主要サービスエリアには急速充電器が設置されていることも増えていますし、一般道では街道沿いの日産ディーラーを中心に整備された急速充電インフラはEVオーナーにとっては欠かせないものとなっています。

ショッピングモールでも駐車場にEVの充電設備を用意するところは増えています。道の駅などでも急速充電器を見かけることは多いのではないでしょうか。場合によっては待ち時間も発生しますが、うまく充電網を利用すればけっこうな遠出もできるくらいのインフラは整備されているという見方もあります。

そんな急速充電インフラに新提案が生まれました。

横浜市が実証実験としてはじめた「全国初の公道上に設置された急速充電器」です。

Zero Carbon Yokohama
神奈川県道140号 川崎町田線の青葉区しらとり台69付近に急速充電器が公道設置されている

2021年6月に開始された実証実験の舞台となったのは、神奈川県川崎市と東京都町田市をつなぐ街道である神奈川県道140号の横浜市青葉区しらとり台付近。将来の拡幅を考慮して、路肩に駐車帯のあるポイントに、急速充電器が設置されました。

前述したように、これまで一般道ではディーラーやショッピングモールの駐車場などに設置された急速充電器を利用することが主流でした。つまり、充電するためにわざわざ、どこかの敷地に入る必要があるのです。

今回の、公道設置の急速充電器というのはそうした手間を解消して、もっと気軽に使うことができる充電インフラとして提案されています。

具体的に実証の目的としては次のように公表されています。

EV 普及の進む欧州で一般的となっている充電器の公道設置は、都市部における貴重な充電場所になること、視認性がよく充電インフラが充実しているという安心感にもつながることから、EV 化促進に貢献する有用な施策になりうると考えています。今回の実証では、実際に公道上に充電器を設置して試験的に運用し、交通管理者・道路管理者・設置事業者の課題や有用性について検証を行うことを目的とします。

さっそくEVオーナーの一人として、この実証実験を体験してみることにしました。

あえて大体の場所を調べるにとどめて、実験のおこなわれている県道を自然な感じで走ってみます。そうして走行中に、道端にある急速充電器を見つけたら、サッと駐車帯にクルマを停めて(今回は、EV・PHVの充電時に限定して駐車が認められています)、急速充電器のプラグをクルマに刺し、各種会員カードで認証して暗証番号をセットするだけです。

普段、一般道で急速充電を利用しようと思うと、ディーラーやコンビニの駐車場に入ることにひと手間かかると感じていましたし、充電のためだけに駐車場に停めておくのは少々気が引けるところもあります。しかし、こうして充電専用の駐車帯になっているとそうした引け目を感じることはありません。サッと停めてすぐに充電開始できるので、時間ロスも最小限になった印象です。

実際、今回設置されている急速充電器は最大90kWという高出力タイプなので、充電スピードも速いのですが……。

そして、利用してみて思ったのは「こうした道沿いの充電インフラが整備されたら時間の無駄もなくなるだろう」ということでした。

このような充電器が道沿い数km毎に設置されている世の中になれば、バッテリー残量が心もとないときだけでなく、電話やメールをしないといけないときなどには空いている急速充電器の前に停まって、充電しながら連絡を済ませれば時間の無駄もなくなります。

普段EVを利用されていないユーザーからすると一回の充電に30分くらいかかるイメージかもしれませんが、実際にはバッテリーの充電率が半分程度の状態から10分程度の急速充電という”ちょい足し”が効率よく、個人的はそうした充電の仕方がトータルでの時間ロスを減らすと感じています。

サービスエリアなどでは充電器につないだまま食事などをすることもあって、充電が終わっているのにクルマがそのままで次のユーザーが困ってしまうという問題も起きていますが、こうしたソリューションであればパッと停まってサッと充電して、すぐに移動するという風に利用することになるでしょう。

ギリギリまでバッテリーを使うよりちょい足し充電のほうが時短になるという認識が広まれば、このような公道設置の急速充電器は利用価値が高いとニーズが高まること必至です。

自動車コラムニスト・山本 晋也

この記事の著者

山本晋也 近影

山本晋也

日産スカイラインGT-Rやホンダ・ドリームCB750FOURと同じ年に誕生。20世紀に自動車メディア界に飛び込み、2010年代後半からは自動車コラムニストとして活動しています。モビリティの未来に興味津々ですが、昔から「歴史は繰り返す」というように過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰的に見ることを意識しています。
個人ブログ『クルマのミライ NEWS』でも情報発信中。2019年に大型二輪免許を取得、リターンライダーとして二輪の魅力を再発見している日々です。
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