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■ちょっと新しいクルマの販売スタイル現る!
すぐにクルマを買い換える予定はないけど、そのときのために、いまどきのクルマの先進技術が実際にはどんなものなのかをよく知っておきたいという人は多いと思います。ところがクルマを見ようと販社に出向き、自動ドアをくぐれば、即そのひとは新規顧客のターゲット!? セールスマンにしてみれば「契約にこぎつけたい!」と顧客について回ろうとするのも人情なわけですが、これが「まずは自分のペースでクルマを見ておきたい」と願う顧客にとっての重荷となり、販売店めぐりへの足かせになっている人も多いでしょう。
こういった声なき声を汲み取ったのでしょうか、日産自動車は2021年3月25日、クルマの販売を目的とせず、ブランドの周知、および先進技術を顧客に体験してもらうことに重点を置いた「ブランド体験型店舗」を本格導入することを発表しました。日産ではこれを「セールスを目的としない先進技術体験プログラム『HELLO NISSAN』」と称しています。
日産が説明する、このプログラム導入のねらいは、「まずは日産車を知ってもらい、検討候補に入れてもらうことから始めよう」というものです。日産のクルマを知ってもらわなければ検討候補にすら入れてもらえないのは当然なわけで、「知ってもらおう」「候補に入れてもらおう」という願いがこの「HELLO NISSAN」に込められているような気がします。初対面の相手に、フレンドリーに「やあ!」と挨拶するイメージでしょう。
ターボ、HICAS、アテーサ、4輪マルチリンク式サスペンション・・・過去の日産が、技術の先進性を主に「走り」の分野で示していたのに対し、いまの日産が走りの技術以上にアピールしたいのは、自動運転を核とする先進電子デバイス&安全技術・・・「インテリジェントモビリティ」です。この呼称は、いまやNISSANの「ブランド」にまで昇華しています。しかし、これらをいくら訴求したところで顧客にはピンとこないのが実情です。なぜなら顧客は本当の意味でそれら機能を体感できるチャンスが与えられてこなかったからです。やはり目で見て肌に触れ、体感するに及ぶものはありません、それもじっくりと・・・。
●新チャンネル追加ではなく、2タイプの新店舗形態を導入
顧客はもとより、売る側も不完全燃焼の思いでいた? ブランド&商品周知の不足を解消しようという新たな展開がこのブランド体験型店舗であり、「HELLO NISSAN」です。
これらがどういったものなのかを整理しながら説明していきましょう。
まず新たに、2系統の新店舗形態を採り入れ、日産車ユーザー以外の顧客へのブランドアピール、購入意向の向上をめざします。
1.ウォークイン店舗(WI:Work In)
・顧客との接点拡大
・日産ブランドへの理解と親しみの醸成
・周辺店舗への案内
日産最新の先進技術搭載のモデルを展示するとともに、「日産アンバサダー」と命名された専門スタッフの接客で日産ブランドを知ってもらうことが目的です。したがってウォークイン店舗はクルマを売りません。いわば日産ブランドの世界へ顧客をいざなう最初の扉のような位置づけです。ここを訪れた顧客が新しい日産車に興味を抱き、もっと詳しく知りたいと思えば、近隣の日産販売店を紹介してくれます。
2.ブランド体験型店舗(BES:Brand Experience Store)
・日産ブランド・フィロソフィの理解
・濃密なブランド体験の提供
・商圏のハブ店舗
これまで販売店の試乗といえば、セールスマンを横に、店舗周辺を10~15分の間に数キロぐるりとひとまわりというものでしたが、日産は、クルマを買うまでの1ステップに過ぎなかったこの「試乗」をクローズアップ、「試乗」を3つのコースにメニュー分けし、3メニュー3様の試乗ができるようにしました。これが先進技術体験プログラム「HELLO NISSAN」です。
【先進技術体験プログラム・HELLO NISSANの3メニュー】
1.電気自動車まるごと体験コース(90分:試乗前後の説明15分ずつ+試乗時間60分)
電気自動車・リーフで日産の先進技術が体感できる。
対象車種:リーフ
2.お好みの1台じっくり体験コース(90分:試乗前後の説明15分ずつ+試乗時間60分)
日産の先進技術を搭載したモデル1台に、じっくり時間をかけて試乗できるコース。
対象車種:キックス、ルークス、セレナ(e-POWER車のみ)、新型ノート
3.ハンズオフドライブ体験コース(120分:試乗前後の説明15分ずつ+試乗時間90分)
スカイラインで高速道路を試乗。プロパイロット2.0を体験できる1番人気のコース。
対象車種:スカイライン
どうです? リーフ、キックスからノート、そしてスカイライン・・・どのクルマも、売りの先進機能を体感するには、試乗時間10~15分では短すぎるでしょう? だからといって90分なり120分なり触れたところですべてがわかるわけでもないのですが、少なくとも新車契約を前提としないで、そのクルマの素性や機能を自分のペースで知ることができるようになったのは、おそらくは1960年代からのままだったクルマの売り方・買い方手法にちょっとした変革が起きたといってもいいかも知れません。
接客は「日産ブランドクルー」と呼ばれる専任スタッフが担当、日産ブランドおよび先進技術についての情報提供や商品説明を行い、試乗時には同乗します。もともとは、(後述の神奈川日産 百合ヶ丘店を除き)新築または大規模改装を施した既存のディーラーですからお店自体はクルマを売りますが、日産アンバサダー同様、日産ブランドクルーもセールス業務を行いません。最新モデルの体感で購入意欲が芽生えた顧客が商談を望んだら、日産ブランドクルーは同じ店内の販売セールス氏にバトンタッチするという流れとなります。
この「HELLO NISSAN」プログラム、希望するには予約が必要ですが、これは専用サイトによるWEB予約に限られています。また、現時点ではウォークイン店舗もブランド体験型店舗も数が限られており、全国でそれぞれ2店舗、5店舗のみとなっています。
筆者は2000年に最終U14型ブルーバード、2008年にティーダを買う際、どちらのときも、1泊2日(24時間)でレンタカーを借り、400kmほど走り込んでじっくり検証したものです。前後左右の視界や死角はどれほどか、車両感覚は把握しやすいか、各部の操作性に乗り心地、燃費、車庫入れも含めた駐車性、洗車のしやすさなど・・・まあ、24時間は無理にしても、この「HELLO NISSAN」プログラムは、細かいことまで確認できるようになったかも知れないという点で、筆者が行っていたことに少しだけ近いことができるようになったと思います。
●約1年余の試験運用で大好評、晴れて本格稼働へ
冒頭で「本格導入」と書きましたが、実は日産は、2019年秋から、神奈川日産自動車 百合ヶ丘店(神奈川県川崎市)にてブランド体験型店舗の試験運用をしていました。
約1年余の間に600人ほどの顧客が体感し、そのうちの95%の人が「ワクワクする体験だった」と述べ、84%の人が「日産車を購入したいと思う気持ちが強まった」と回答したといいます。
自動車技術は年々進化しながらも、クルマの販売手法は、(いまは行われていない訪問販売はあったにせよ)モータリゼーション黎明期からほとんど変わらず、これまでの「試乗」以上にクルマの素性を知るチャンスが顧客にはありませんでした。この「HELLO NISSAN」プログラムは、知らぬ間に逃していた日産車ユーザー予備軍を招き入れる、新たな販売手法になるかも知れません。
できれば、最新の先進安全技術搭載モデルをメインとしながら、登場から時間が経過している他のモデルや、乗用モデルばかりか、NV350キャラバンやNV150ADといった商用モデルまでをも体感ラインナップに入れ、「HELLO NISSAN」プログラムそれぞれにひとつずつ、試乗が120分できるコースも加えたら、顧客もより綿密な検討ができるようになると思いますが、いずれブラッシュアップされるかも知れません。
クルマはユニクロで服を買うのと違い、「自分に合っていなかったから」といって、すぐに返品が利くという商品ではありません。購入費用も段違いで、買った後には維持費もかかる。「家に次ぐ耐久消費財」といわれるとおり高い買いもので、数年単位に渡って生活をともにする移動のツールです。クルマは外から眺めるよりは、車内に入ってシートに身を沈め、外を見ながらハンドルを握る時間のほうが圧倒的に長いのですから、クルマは見た目のデザインだけにとらわれず、できるだけ細かいところまで確認し、納得した上で買いたいものです。
最後に、専用予約サイトのアドレスと、現在稼働しているウォークイン店舗、ブランド体験型店舗と予約方法を載せておきます。
いまのところウォークイン店舗が2箇所、ブランド体験店舗は5箇所ですが、日産は今後、順次全国に展開していく構えです。
★専用予約サイトURL : https://www.nissan.co.jp/EVENT/HELLONISSAN/
■ウォークイン店舗(WI)
・NISSANイオンモール大曲店(秋田県大仙市和合坪立177)
・日産サティオ湘南 ららぽーと湘南平塚店(神奈川県平塚市天沼10-1)
■ブランド体験店舗(BES)
・神奈川日産自動車 百合ヶ丘店(神奈川県川崎市麻生区古沢80 ※2019年秋より稼働中。)
・群馬日産自動車 Kit-R太田店(群馬県太田市飯田町143番地5)
・松本日産自動車 松本店(長野県松本市高宮北3番6号)
・浜松日産自動車 和田西店(静岡県浜松市東区和田町761)
・愛知日産自動車 春日井インター店(愛知県春日井市十三塚町1-1)
(文:山口 尚志/写真:日産自動車)