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■スロットルで出力を制御するガソリンエンジンには、必ずポンプ損失が発生
●可変バルブ機構、ダウンサイジング、リーンバーンなどはポンプ損失低減を狙った技術
スロットルバルブの開度で空気量を制御するガソリンエンジンでは、ポンプ損失を低減することが燃費改善につながります。バイクでも、ポンプ損失低減をねらった可変バルブタイミング機構が採用され始めています。
ポンプ損失の発生メカニズムと低減手法について、解説していきます。
●エンンジンの熱勘定とは
ガソリンエンジンは、ガソリンをシリンダーの中で燃焼させてピストンを押し下げ、その力をクランクシャフトで回転運動に変換して動力として取り出します。言い換えると、エンジンはガソリンの持つ燃焼エネルギーを機械エネルギーに変換する熱機関です。
この変換効率は熱効率に相当し、熱効率が高いほど出力が上がり、燃費が良くなります。
エンジンの燃焼による発熱量を100%として、エンジンの出力として取り出される有効仕事と、さまざまな損失(冷却損失、機械損失、ポンプ損失、排気損失、燃料の未燃損失)の割合を示すのが、熱勘定です。
一般的なガソリンエンジンの場合、有効仕事として取り出せる割合(熱効率)は、最高で40%程度、残りは熱などによって捨てられます。通常の運転では、損失の割合は大きく、有効仕事の割合は15~30%程度と少ないため、出力や燃費を向上させるにはこれらの損失を減らすことに他なりません。
この中のポンプ損失に関して、その発生メカニズムと低減手法について以下に解説します。
●ポンプ損失とは
ガソリンエンジンでは空気量をスロットルバルブの開度で調整するので、吸気行程では絞り損失、排気行程ではシリンダーの中で燃焼したガスを排出する際の押出損失が、いずれもポンプ損失として発生します。
これは、注射針の付いた注射器で空気を吸い込むときと吸った空気を押し出す時に大きな力が必要なことに例えられます。注射針を外して空気の取り込み口を大きくすれば、空気を吸い込むとき、空気を押し出すときの力は小さくてすみます。ポンプ損失を低減するとは、ちょうど注射器の注射針を外すことに相当します。
燃焼行程でピストンを押し下げる正の仕事に対して、ポンプ損失は吸気行程と排気行程で発生する負の仕事なので、ポンプ損失を減らすことが熱効率向上、燃費改善につながります。ポンプ損失は、スロットル開度に依存するのでスロットル開度が全開の場合はポンプ損失がほとんどないので、全開出力への影響は微小です。
●ポンプ損失低減手法
燃費改善のためのポンプ損失低減として、さまざまな手法が採用されています。以下に代表的な技術を示します。
・可変バルブタイミング機構
運転条件に応じてバルブタイミングを最適化しますが、燃費を重視する実用運転領域では、吸気弁を遅閉じすることによって吸気圧力を上げてポンプ損失を低減させます。最近バイクでも採用するモデルが登場しています。
以下の2つはクルマでは一般的な技術ですが、バイクではまだ採用されていません。
・ダウンサイジング
排気量を小さくすると、同じ出力を得るためにスロットル開度を大きくする必要があるので、ポンプ損失が減少します。ダウンサイジング過給エンジンは、この原理で燃費を改良して、出力低下を過給で挽回するコンセプトです。
・リーンバーン
リーンバーンは、少ない燃料で燃焼させることが前提なので、同一出力を得るための吸入空気量は増えます。したがってスロットル開度が大きくなるため、ポンプ損失が低減します。
ポンプ損失は出力向上手法ではありませんが、燃費改善手法としては一般的な技術です。クルマでは、ほとんどのエンジンは可変バルブタイミング機構を採用してポンプ損失の低減を実現していますが、バイクではまだ採用が限られています。バイクでも燃費がもっと重視されるようになれば、ポンプ損失低減の重要性が注目されるようになると思われます。
(Mr.ソラン)