■車検証で確認した車両重量は1980kg、しかしコーナリングの軽快感は1.5t級で思いのままに駆け抜けられる
2020年12月4日にビッグマイナーチェンジを実施した三菱のクーペスタイルSUV「エクリプスクロス」にさっそく公道で乗ってきました。
試乗したのは、今回のマイナーチェンジで新設定されたPHEV(プラグインハイブリッド)仕様の最上級グレード「P」です。
世界一売れているプラグインハイブリッド車である同社のアウトランダーPHEV譲りといえる電動パワーユニットの構成は、2.4Lエンジンと2つの駆動モーターを持つツインモーター4WDで、エクリプスクロスではハンドリング重視のセッティングとなっている点が試乗での注目ポイントです。
今回のマイナーチェンジでは、エクリプスクロスはフロントマスクやテールゲートを大きく変え、全長も伸ばしています。
フロントはダイナミックシールドというデザインフィロソフィーに基づき「Daring Grace(大胆にして、優雅)」というコンセプトで生み出されたもので、通常ではヘッドライトに見える部分はシグネチャーとターンランプ、ヘッドライト本体はバンパーの左右に埋め込まれているのは最近の三菱車ではおなじみの処理です。
テールゲートはマイナーチェンジ前はダブルウインドウでしたが、SUVらしい背面タイヤをモチーフとしたマッシブな形状となり、シングルウインドウのオーソドックスなスタイルに変わりました。
マイナーチェンジ前のエクリプスクロスにはクリーンディーゼル仕様も用意されていましたが、今回プラグインハイブリッドを追加設定したのを機にディスコンとなり、1.5Lガソリンターボと2.4LのPHEVのラインナップに変わっています。
ディーゼルが廃止されたのは、世界的なディーゼル離れの影響もあるようですが、もっとも大きな理由は2030年の電動車比率を50%にするという三菱自動車の中期計画に基づく部分が大きいといいます。つまり、今後はエクリプスクロスの主流はPHEVになるともいえるのです。
さて、いよいよ新型エクリプスクロスPHEVの初試乗となります。
試乗車には電動パノラマサンルーフや本革シート、ミツビシパワーサウンドシステム、電気温水式ヒーターなど70万円相当のメーカーオプションが装着された豪華仕様で、車両重量もカタログスペックは1920kgながら車検証では1980kgまで重くなっていました。
総電力量13.8kWhのリチウムイオンバッテリーを床下に積むプラグインハイブリッド車ですからガソリンターボ車(1450kg~1550kg)に対して重くなるのは致し方ないことですが、もともとの設計が1.5tクラスのボディで、ここまで重くなってしまったらハンドリングを味わう以前に、いろいろと破綻してしまっているのではないか…と心配する部分もありました。正直言って、さほど期待していませんでした。
しかし、かなりタイトなワインディングに持ち込んだエクリプスクロスPHEVの走りは驚くほど俊敏でした。ドライブモードは5種類(エコ・ノーマル・スノー・グラベル・ターマック)用意されていますが、基準となるノーマルであってもステアリング操作に対して車体はしっかりと向きを変えていきますし、コーナリングの途中で切り増したときもしっかりとレスポンスしてくれるのが確認できました。
乗り心地についても重量増のネガはなく、各部の容量がしっかりとアップされて対応していることが感じられました。そして、この段階での印象は「意外に軽快で、1.8L級の重さ感だなぁ」というものでした。
いよいよエクリプスクロスPHEVのセールスポイントである「ターマック」モードを試してみます。
シフトレバー脇にあるダイヤルを動かしてターマックモードにすると、いきなりアクセルの反応が変わったことに驚きます。電動車両らしいハイレスポンスを遠慮なく発揮したセッティングになっていると感じます。そのため加速も鋭くなり、2t近いボディとは思えないほど。ますます車重が気にならなくなってきます。
アクセルオフからステアリングを切り込むと、さらに驚かされます。操作に対して驚くほど俊敏にクルマが曲がろうとする意志を感じるのです。それも曲がりたがるわけではなく、ドライバーの狙い通りのラインをきっちりとトレースするといったキャラクターで、コーナリング性能が高まっているのです。思い通りに動かせるという感覚は非常に出来のいいホットハッチ的であり、車重的にいえば1.5tを切ったモデルのフィーリングそのものです。
狙ったラインにしっかりと乗せることができますから、1805mmという全幅をネガに感じることもありません。なんの不安もなく、舗装の切れ目ギリギリを狙ったコーナリングにチャレンジすることができるほどです。
しかもこの走りはタイヤグリップに頼ったものではありません。試乗車に装着されていたのはブリヂストンの「エコピアH/L422Plus」、エコタイヤのハイウェイテレーンというSUVらしい選択であって、いわゆるスポーツタイヤではないのです。
では、こうした走りは車体の好バランスによるものかといえば、それだけではありません。三菱が長年にわたり培ってきた四輪制御技術「S-AWC」が、エクリプスクロスPHEVの軽快なハンドリングを実現しています。
具体的には前後方向の加速度と横方向の加速度から理想的な前後駆動トルク配分を算出し、それに応じて適切な駆動トルク比を前後モーターが発生することで、このコーナリング性能を生んでいるといいます。前後の駆動トルク配分といいますが、前後独立モーターですからその比率は自由自在ですし、瞬時に制御することが可能です。
はっきりいって、エンジン車に電子制御デフなどを組み合わせた仕様では不可能なレベルに、エクリプスクロスPHEVの前後駆動トルク配分制御は到達しているのです。
参考までに、理想的な前後駆動トルク配分はリヤ寄りになるそうです。リヤ駆動によってヨー(車体が回る力)を生み出すので、それは当たり前ともいえるのですが、そのために三菱のプラグインハイブリッドシステムでは、フロントモーターよりリヤモーターのほうが最高出力を大きくしているのが特徴です。
というわけで、ワインディングを楽しむレベルでいえば、まったく欠点がないように思えたエクリプスクロスPHEVのターマック・モード。あえて気になるところをいえば、ブレーキ性能についてはドライビングモードとはリンクしていないので、どのモードでも変わらないことが挙げられるでしょう。
ノーマルやエコ・モードで走っているときには非常に扱いやすくて制動力に不満を感じないブレーキなのですが、ターマック・モードを選んだときにはアクセルペダルの反応が鋭くなるのに対して、ブレーキペダルの反応がそのままなのは、少々気になります。たとえば、ターマック・モードを選んだときにはブレーキの油圧を高めておいてレスポンスを良くするような工夫がされていると、よりドライビングが楽しめそうです。
もっともエンジニアの方に伺ったところ、エクリプスクロスPHEVのブレーキシステムではそうした制御を入れ込むことは難しいというでした。
ルノー日産三菱アライアンスにおいて、三菱自動車はプラグインハイブリッド4WDシステムの開発を担うことになっています。今回、エクリプスクロスPHEVで味わったシステムのノウハウが、未来のプラグインハイブリッドにも投入されることは間違いなく、次世代のツインモーター4WDの走りに期待が高まります。
(自動車コラムニスト・山本 晋也)