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■始動時にはクランクシャフトにつながるギヤを介してセルモーターでエンジンをクランキング
●昔はキック式、現在は大きなトルクを発生する直流モーターのセルモーター式
エンジンは自力で始動することはできないので、外部の力でクランクシャフトを回転させる必要があります。この始動機構として採用されているのは、バッテリーの電力で直流モーターを使って始動させるセルモーター式です。
ほとんどのバイクが採用しているセルモーター式の構造と機構について、解説していきます。
●セルモーターを使った始動
始動のために、スタートボタンを押すとスターターリレーに電気が流れます。セルモーターを回すには大電流が必要なため、スターターリレーという電磁石を利用したスイッチを使います。
スターターリレーからセルモーターへ電気が流れると、回転を始めます。すると、セルモーターのギヤがクランクシャフトに取り付けられた一連のギヤと噛み合ってクランクを回転(クランキング)させます。
始動時には、クランクやカムシャフト、ピストンなど摺動部に大きなフリクション(摩擦)が働くため、スターターにはそれらに打ち勝ってエンジンを回す大きなトルクが要求されます。特にエンジン油温が低い時には、フリクションが大きくなるのでセルモーターにはより大きなトルクが必要です。
●セルモーターの構造
セルモーターは、バッテリ電圧12Vで駆動する直流モーターです。駆動時には100Aもの電流が流れ、大きなトルクが発生します。
セルモーターのヨーク(外枠)の内周部には、N極とS極の永久磁石を交互に装着。ヨークの内部には、回転するアーマチャコイル(電機子:鉄芯に巻き付けたコイル)やコイルに電流を流すブラシ、コンミテータ―(整流子)などが収められています。アーマチャコイルのシャフトの片側の先端にはスプラインが切られ、ピニオン(減速)ギヤとワンウェイクラッチを介してクランクシャフトとつながっています。
アーマチャコイルは電気を通すと電磁石となり、周りのN極とS極の永久磁石に対して吸引と反発を繰り返すことで回転し、クランクシャフトに回転力を伝えます。
●オーバーランニングクラッチ
エンジンが起動(燃焼を始める)すると、エンジン回転はモーターの回転より速くなり、一気にアイドル回転(1500~2000rpm程度)まで上昇します。そのため、エンジンの起動と同時にスターターはクランクシャフトから切り離す必要があります。この切り離しを行うのが、オーバーランニングクラッチです。
オーバーランニングクラッチは、セルモーターと連動して回転するアウターレースと、スプラグ式のワンウェイクラッチ機構を介して連結するインナーレース(ピニオンギヤ)で構成されています。モーターがクランクシャフトを回す始動(クランキング)時は、アウターレースとインナーレースが締結状態で、モーターの回転がリングギヤに伝わります。
エンジン起動後は、回転が上がりアウターレースとピニオンの連結が解除されるので、ピニオンが空転してスターター側に回転が伝わることはありません。
昔のバイクは、人の踏力でクランクシャフトを回すキック式スターターが使われていましたが、現在はほとんどがセルモーター式を採用しています。セルモーター式は、バッテリーで駆動する直流モーターでギヤを介して安定してクランクシャフトを回転させるので、始動に苦労するということが随分減りました。
(Mr.ソラン)