潤滑の役割とは?エンジンオイルで摺動部の摩耗と摩擦抵抗を抑える【バイク用語辞典:潤滑編】

■オイルは血液のような存在だが問題も起こす

●適切な交換によるオイル性能の維持が重要

高負荷高回転で摺動するバイクのエンジン部品は、部品同士の摩擦抵抗によって高温となります。エンジンやトランスミッションの内部を循環する潤滑(エンジン)オイルは、部品間の摩擦抵抗を減らし、同時に冷却することでエンジンの焼き付きなどのトラブルを防止します。

高速で摺動するエンジン部品の潤滑の役割について、解説していきます。

●潤滑はなぜ必要?

エンジンは、ピストンやシリンダー、クランクシャフト、カムシャフトなど高速で往復運動や回転運動を行う多くの部品で構成されています。

これらの部品間の接触面は、摩擦抵抗を減らすため、滑らかに表面仕上げされています。しかしそのままでは、摩擦熱によって接触面が摩耗や変質、溶解を起こし、最終的には焼き付きに至ります。

潤滑システムの役割は、エンジンオイルをエンジンとトランスミッション内部の摺動面に供給することで摩擦抵抗を減らし、同時に冷却することです。一方で、エンジンオイルは部品間の摩擦抵抗に大きな影響を与えるので、潤滑方法やオイルの性能よって燃費や出力が左右されます。

●流体潤滑と境界潤滑の違い

2つの潤滑状態
2つの潤滑状態

エンジンオイルによって摩擦抵抗が減少するのは、摺動面の間に薄い油膜が生成して、お互いが浮き上がって金属接触しないためです。このような理想的な潤滑状態を「流体潤滑」、オイル不足やオイル劣化などが原因で潤滑不良を起こして金属接触となる潤滑状態を「境界潤滑」と呼びます。

・流体潤滑(完全潤滑)
金属間の摩擦面に油膜が保持され、金属面同士が直接接触しない潤滑状態。摩擦や摩耗を抑える理想的な潤滑状態です。

・境界潤滑(不完全潤滑)
オイル粘度が下がったり、高負荷低速度域で油膜が薄くなり保持できなくなった潤滑状態。最悪の場合、油膜が破れて金属接触となり、損傷や焼き付きが発生します。

●潤滑オイルのその他の働きとは

エンジンオイルには、基本となる潤滑作用(摩擦抵抗の低減)と冷却作用のほかにも、密閉作用や防錆、緩衝、清浄作用などがあり、それらの総合的な働きによって摩擦や摩耗が軽減され、エンジンの耐久信頼性が確保されます。

潤滑の働き
潤滑の働き

・潤滑作用
摺動部や回転部の金属間に油膜を確保して、摩擦や摩耗を軽減

・冷却作用
燃焼や摩擦によって発生する熱を吸収して、外部へ放熱

・密封作用
ピストンとシリンダー間の油膜によって、圧縮ガスや燃焼ガス漏れを抑えて出力損失を抑制

・緩衝作用
10MPa以上の燃焼圧による衝撃荷重や局所的な圧力上昇を油膜で分散して吸収

・防錆と清浄作用
油膜によって金属部品から酸素を遮断して錆の発生を防止し、また内部生成した汚れを洗い落す

●4ストロークエンジンと2ストロークエンジンの潤滑方式の違い

4ストロークエンジンと2ストロークエンジンでは、その燃焼方式に起因する構造の違いによって潤滑方式が異なります。

4ストロークエンジンは、シリンダーヘッドとシリンダーブロック、およびトランスミッションを同じオイルで潤滑します。通常エンジンオイルは、エンジン下部のオイルパンに溜められ、オイルポンプで各部に圧送されます。

2ストロークエンジンのクランクシャフトやシリンダーは予め混合気に混ぜ合わされたオイルによって、トランスミッションは専用のギアオイルによって、潤滑されます。


エンジンにとっては出力や燃費などの基本性能とともに、安心して長く運転できる耐久信頼性が重要です。特にバイクは自動車に比べて常用エンジン回転が高いので、高速高温時の潤滑性能を重視した潤滑システムが必要です。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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