ホンダのパワーユニットを使ったマシンで初心者がレースをしたら、いくらかかる? 【K-TAI参戦記】

■2023年のF1はホンダPU搭載車が22戦中21勝という快挙!

かつて、バブルど真ん中の1988年。ホンダエンジンを搭載したF1マシンの「マクラーレンホンダMP4/4」が年間16戦のうち15勝する記録を打ち立てたことがありました。

その活躍は今でも伝説となっていますが、実は2023年のF1において、(実質的に)ホンダ製のパワーユニット(PU)を搭載したF1マシンがそれを上回る記録を残したことをご存じでしょうか。

なんと22戦中21勝。

「K-TAI」参戦
レースデビューはホンダエンジン、「K-TAI」参戦の筆者

とんでもない成績です。シンガポールGPにおいて、新規投入されたフロアとコースの相性が合わず、1位でチェッカーフラッグを受けられなかったのがなんとも悔やまれますが、1年を通じて「シンガポール以外はすべて1位でゴールした」って、ちょっと、いやとんでもなく凄いこと(勝率95.45%ってそんなのある?ってくらいの数字)。

これ、ホンダはもっと大々的にアピールしたほうがいいんじゃないか…って思います。余計なお世話でしょうけど。

そんなF1で(実質的な)ホンダ製パワーユニットが大暴れした2023年。筆者もホンダエンジンで人生初の公式レースにチャレンジしたのでした。

●レーシングカートは気軽にできるモータースポーツ

「あのさあ、カートやってみない!?」

とある先輩自動車ライターからの誘いで、ボクの「カートチャレンジ物語2023年夏」は始まりました。

カートというのは、遊園地のゴーカートとかマリオカートをイメージしてもらえばいいのですが…、ボクが誘われたのはもうちょっと本格的なやつ。いわゆる「レーシングカート」というタイプで、270ccエンジンを積んだマシンで「モビリティリゾートもてぎ(旧ツインリングもてぎ)」のロードコースを走ろうというのです。

気軽にモータースポーツを楽しめるレーシングカート
気軽にモータースポーツを楽しめるレーシングカート

えっ、もてぎのロードコース!?

そこにピンときた人は、なんと鋭い!

1周が約4.8kmでコーナー数14。もてぎのロードコースはスーパーフォーミュラやスーパーGTマシンが走る、国内屈指の国際規格サーキットです。そこを小さなカートで走るなんて、普通に考えれば荒唐無稽。そんなレースにチャレンジしようというわけです。

国際格式のレースもおこなうモビリティリゾートもてぎのロードコースを走る!
国際格式のレースもおこなうモビリティリゾートもてぎのロードコースを走る!

参戦するレースは「K-TAI」という毎年の恒例イベントで、出走台数は約100台。

身の丈に合わないコースで行われるそんなレースに、自動車ライターながらこれまでレースというものにほぼ縁がなかったボクがチャレンジすることになったのです。

●公式レースなのでけっこう本気。準備するものは?

実はこの「K-TAI」、ちゃんとしたJAFの公認レースでルールは結構厳格。だから、エントリーするにはそれなりの装備を揃えなければいけません。

最高速度は100km/h+α
最高速度は100km/h+α

たとえば、ヘルメットはFIAなどの規定をクリアしている本格的なタイプが必要で、ボクが持っているサーキット走行会用(とはいえちゃんとしたブランドだけど…)ではNG。

同様に、レーシングスーツやグローブなども、きちんと基準をクリアしたものを揃えないといけません。シューズだって必要。そのうえ、強烈な横Gから肋骨が折れたりひびが入るのを防ぐためのプロテクターなんかも必要(これはレース中に複数人で使いまわしもできますが)。

というわけで、それなりに諭吉さんがボクのもとから飛び立っていくわけですが、筆者の場合はレーシングスーツ&プロテクターを知り合いから借りることができたため、ヘルメットとグローブ、シューズを購入するだけで済んだので助かりました。とはいえ、諭吉さんは10人以上いなくなってしまいましたが…(編集部註:お分かりかと思いますが上記・諭吉さんは1万円札)。

●どこを走ればいい? 初のサーキット走行

どこを走ったらいいか分からんよ!

コースが広すぎて…
コースが広すぎて…

それがカートで本格サーキットを走った率直な感想です。

だって、本格的なレーシングカーが走るコースなんですよ。車幅がそれらの半分しかないカートで走って(っていうかたぶん車で走っても)ライン取りが分かるようで分からない。広すぎて。

約100台が出走するので、時にはこんな状態も
約100台が出走するので、時にはこんな状態も

でもまあこれは、2回の練習走行をしてレース本番になる頃にはすっかり慣れたわけですが(「分かった」とは言わない)。

●なかなかタイムが伸びない

逆に慣れなかったのが、コーナーの進入スピード。ついつい市販車の感覚で減速しそうになるのですが、車両重量がその数分の1しかないカートだと、もっともっと速く走っていいらしい。

とはいえ突っ込みすぎて曲がり始めてからブレーキをかけるとスピンするし(カートはリヤタイヤにしかブレーキがないので、横Gがかかった状態だとサイドブレーキを使ってドリフトのきっかけにするのと同じことが起きてすぐスピン)、コースアウトなんてした日にはチームメイトに迷惑がかかる。

ドライバーの体重も……けっこうものをいう
ドライバーの体重も……けっこうものをいう

1コーナーなんて、先輩たちに言わせると「ホームストレートを全開で駆け抜けてそのままノーブレーキで曲がれ」なんて言われるのですが、慣れるまではなかなか難しい。というか怖い。

正直なところ、コーナー進入時の速度コントロールは、レースが終わってもなかなか答えが出ませんでした。こんなんじゃあプロレーサーへの道のりは険しいなあ(笑)。

●楽しさとプレッシャーの間で

5人のドライバーでバトンをつなぐ
5人のドライバーでバトンをつなぐ

とはいえ、ひとたびレースが始まってしまえば「楽しい」のひとこと。ボクの乗るマシンは、ストイックなトップチームのようにしっかりコンディションを突き詰めたエンジンではないうえに、ドライバーウエイト(笑)もあってそれほどの速さはないのですが、だだっ広いサーキットを小さく開放感あふれるカートで走るのは本当に楽しすぎる。

270㏄エンジンともなれば、ハンドルを切っている状態で不用意にアクセルを踏むと簡単にスピン
270㏄エンジンともなれば、ハンドルを切っている状態で不用意にアクセルを踏むと簡単にスピン

ただ、7時間の耐久レースで5人のドライバーがバトンを繋ぐので、自分のミスでリタイヤしないようにというのはちょっとしたプレッシャー。

初心者ドライバーも多いチームで速さを求めるわけではないとはいえ、運転しているとそれなりには速く走りたいし、そのあたりの自分自身との戦い(というほど大きなものではない…笑)ですね。


●ゴールして得たもの

初心者ドライバーの多いボクらのチームも、リタイヤすることなく7時間を戦い抜きました。順位は…(ナイショ!)ですが、完走できたことはやっぱり感動です。

みんなで楽しむことの楽しさもある。というかそれが楽しい
みんなで楽しむことの楽しさもある。というかそれが楽しい

今回のレースで何を得たか…。個人的にはみんなで何かを成し遂げる楽しさではないかと思います。

チームは3台の車両をエントリー
チームは3台の車両をエントリー

5人のドライバーはもちろん、状況に応じて適切な指示を出してくれたチーム監督、マシンを整えてくれたメカニック、そしてチームマネージャー、さらにはバックアップしてくれたスポンサー。大学のサークル活動のような感覚で楽しめ、カート参戦を通じて多くの仲間ができました。

今回の真夏のカートの経験は、夏が来るたび、そしてモビリティリゾートもてぎを訪れるたびに思い出すことでしょう。

●ところで、費用はどのくらい?

やっぱり気になりますよね、費用面。

前出のように、ボクの場合はレーシングスーツ&プロテクターを知り合いから借りることができたため、ヘルメットとグローブ、シューズの購入でだいたい10万円強。規格に対応したカート用レーシングスーツとプロテクターを買えば、最低でプラス10万円強といったところでしょうか。

あとはカートの購入費(レンタル代)やメンテナンス費用ですが、これはチームの状況により大きく異なると思います。自分たちでメンテをすれば安く上がりますし、プロの本格メンテならそれなりに費用もかかります。

メンテナンスもしっかり行う必要があるので、そのぶんの費用もかかる
メンテナンスもしっかり行う必要があるので、そのぶんの費用もかかる

ボクが参加したチームはカートを持っていたので購入費用は掛かりませんでしたが、それでもメンテ費用や消耗品代でひとりあたり数万円かかりました。

そのうえ、練習走行や本番でモビリティリゾートもてぎまで3往復した交通費や、本番レース前日の宿泊代なども含めると…やはりそれなりにお金がかかりましたね。

ただ、これは参加初年度の話。レーシングギヤを一式揃えてしまえば、2年目からはそれなりにリーズナブルにカートを楽しめそうです。カート購入費用とレーシングギア代を除いて考えれば、ある程度大人数のチームでリーズナブルに済ませれば、ひとりあたりの総費用10万円台前半でレースを戦うことも可能でしょう。

入門用レースだけど楽しさは上位のレースと変わらない?
入門用レースだけど楽しさは上位のレースと変わらない?

カートはF1に比べると地味なレースです。

でも、本格的にレースをやりたいと思ったときには、まずレーシングカートを経験することが最初の大きなステップになるカテゴリーですよね。ここで速くなることがレーサーとして必要な、大事なカテゴリーといえるでしょう。

だから、ボクらのようなサークル活動レベルであっても、参加する側にとっては熱い戦い。

そして余談だけど、猛暑の真夏だけに気温も暑かった!

来年もやるかって? もちろんやりますよ(誘ってもらえれば)。

そして全く関係ないけれど、2024年のF1は(実質的な)ホンダ製パワーユニット搭載のレッドブルに24戦24勝を期待します!

(レポート:工藤 貴宏/写真:クラブレーシング[森山 良雄/伊藤 毅/西川 昇吾/井上 悠大])

この記事の著者

工藤貴宏 近影

工藤貴宏

1976年長野県生まれ。自動車雑誌編集部や編集プロダクションを経てフリーの自動車ライターとして独立。新車紹介、使い勝手やバイヤーズガイドを中心に雑誌やWEBに執筆している。現在の愛車はルノー・ルーテシアR.S.トロフィーとディーゼルエンジンのマツダCX-5。
AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。
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