メルセデス・ベンツのチャレンジマシン「W125ストリームライナー」が公道の世界最速記録432.7km/hを達成【今日は何の日?1月28日】

■V12エンジン搭載のモンスターマシンが公道最速記録を樹立

1938年1月28日、公道の世界最速記録を樹立したW125ストリームライナー
1938年1月28日、公道の世界最速記録を樹立したW125ストリームライナー

1938(昭和13)年1月28日、メルセデス・ベンツのチャレンジマシン「W125ストリームライナー」が、ドイツのアウトバーンで公道上の最速432.7km/hを記録しました。

ドライバーは、当時のトップドライバーであるルドルフ・カラツィオラでした。


●メルセデス・ベンツ創立当時のレース活動

1926年、カール・ベンツが設立したベンツ社と、ゴットリープ・ダイムラーが設立したダイムラー社が合併して誕生したのが、ダイムラー・ベンツです。当初から、積極的にレースに参戦し、レース界をけん引しました。

背景には、アドルフ・ヒトラーが国策として自動車の生産に積極的に取り組み、またレースを通してドイツの技術の高さを国内外に誇示するために、メルセデス・ベンツに対して資金援助をしたことが大きく影響しています。一方で、メルセデス・ベンツはモータースポーツ活動で磨き上げた先進技術を市販車にフィードバックして、冠たるメルセデス・ベンツのブランドを築き上げていったという側面もありました。

W125ストリームライナーのベースとなったレースで活躍したW125((C)Creative Commons)
W125ストリームライナーのベースとなったレースで活躍したW125((C)Creative Commons)

ダイムラー・ベンツとなって、フェルディナンド・ポルシェが開発を支援した「メルセデス・ベンツSシリーズ(S、SS、SSK、SSKL)」が数々の栄光を獲得し、1934年には常勝GPマシン「シルバー・アロー」もデビューしました。

さらに1937年には、F1発足前のグランプリなどで活躍した「W125」が登場。エンジンは、5.66L直列8気筒DOHCルーツ・スーパーチャージャー付きで、最高出力は595PSを発生し、同年の13レース中7回の優勝を飾ったのです。

●初めて400km/hの壁を突破したのはアウトウニオンのストリームライナー

メルセデス・ベンツは、レースでの勝利とは別に最速記録にも果敢にチャレンジしました。ライバルは、アウディの前身であるアウトウニオンで、ともに世界記録を狙ったチャレンジマシンを製作していました。

当時のアウトバーンでの公道最速記録は、1937年にアウトウニオンの5.577LのV16エンジンをミッドシップに搭載した、流線形ボディを纏ったレコルトワーゲン「ストリームライナー」でのもの。トップドライバーだったローゼマイヤーがドライブして、初めて400km/hの壁を破り406.4km/hの大記録(国際B級:5L~8L)を達成したのです。

この車の開発を指揮したのはポルシェ博士でしたが、新記録達成後にポルシェ博士はアウトウニオンを辞めて、再びコンサルタントとしてダイムラー・ベンツに復帰しました。

●W125ストリームライナーで巻き返して432.7km/hを達成

メルセデス・ベンツがアウトウニオンの記録を破るために製作したチャレンジカーは、W125を改造した「W125ストリームライナー」でした。

W125ストリームライナーは、直進安定性と空気抵抗を考慮した平べったく低い車体で、前後輪を流麗なボディで覆い、後部も流れるような長いフォルムで形成。エンジンは、5.58L V型12気筒で、5800rpmで736PSを発揮したモンスターマシンでした。

ドライバーは、アウトウニオンのローゼマイヤーと双璧だったトップドライバーのカラッチオラ。そして1938年のこの日、フランクフルト~ダルムシュタット間の完全に平坦なアウトバーンで、フライングキロメーター432.7km/hとフライングマイル436.36km/hの世界最高記録を樹立しました。

ちなみに、フライングキロメーターおよびフライングマイルの計測は、加速した上で計測を始め、計測開始地点から1km地点、1マイル地点の平均速度を測定したものです。


メルセデス・ベンツとアウトウニオンのチャレンジマシンの両方に、ポルシェ博士は関与していました。数々の名車を世に送り出しただけでなく、レースでも偉大な貢献をした、まさしく天才技術者です。

毎日が何かの記念日。今日がなにかの記念日になるかもしれません。

Mr.ソラン

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Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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