5000億円を投資、電動化が加速するホンダの二輪事業に大注目【バイクのコラム】

■2030年の電動二輪販売は400万台が目標

2024年には、ジャパンモビリティショーに出展した「SC e: Concept(エスシー イー コンセプト)」をベースとした電動スクーターをグローバルに発売予定。
2024年には、ジャパンモビリティショーに出展した「SC e: Concept」をベースとした電動スクーターをグローバルに発売予定。(写真提供:ジャパンモビリティショー事務局)

若干旧聞に付す話題となりますが、2023年11月にホンダが「電動二輪事業」のロードマップ説明会を開催しています。

ご存知のように、ホンダは「2050年カーボンニュートラル達成」を目指しています。これはホンダのリリースするモビリティに限った話ではなく、工場を含めた全社的な目標です。

すなわち、2050年より前の段階でホンダの主力商品である陸上モビリティの電動化・ゼロエミッション化は完了していなければいけません。

四輪については、2040年までにEV(電気自動車)とFCEV(燃料電池車)の比率をグローバルで100%にするという目標を掲げています。

では、ホンダの主力事業といえる二輪部門の電動化は、どのような目標を掲げているのでしょうか。2022年9月の発表では「2030年におけるグローバルで電動二輪車350万台を販売する」という目標でした。しかし、冒頭で記した2023年11月の電動二輪事業説明会では、2030年のグローバル販売目標を400万台(年間)へと大きく引き上げました。

目標の引き上げは、電動二輪車を大量生産する目途が立ったことを意味しています。

●10年で5000億円を投資、車体コストを半分にする

2021年から2025年の5年間で約1000億円。2026年から2030年には約4000億円の投資を計画している。
2021年から2025年の5年間で約1000億円。2026年から2030年には約4000億円の投資を計画している。

2030年に電動二輪車を400万台販売するためには「売れるモデル」を作らなければいけません。顧客目線でいえば「買える価格帯の電動二輪」がリリースされなければ、買いたくても買えないのです。

そのために、ホンダは現在ラインナップしているバッテリー交換タイプの電動二輪車と比べて製造コストを半減することを目指していくということです。そのためのキーワードが「モジュール化」です。

今回発表された『モジュールプラットフォーム』という考え方は、バッテリー・パワーユニット・車体という機能単位によって設計を分割することで、容易に組み合わせられるようにするというもの。これにより、電動二輪車の開発コストを抑えながら、豊富なバリエーションが期待できるというわけです。

従来のエンジンで走る二輪車においても、ホンダはプラットフォームを上手に共用することで様々なバリエーションのモデルを展開するノウハウに長けていますが、電動二輪車においてはそうした知見をより活かすことでコストダウンを図るということも、2030年400万台という目標実現の手法となるでしょう。

2027年以降に稼働予定という電動二輪専用工場は、もちろんモジュールプラットフォーム技術を前提としてのもので、一工場あたりの投資額は約500億円、生産能力は100万台/年を想定しています。

2021年から二輪電動化に向けた大型投資は始まっていますが、2030年までの累計投資額は約5000億円に達する見込みということです。投資額がすべて生産設備向けというわけではありませんが、2030年までには累計30モデルの電動二輪車を市場投入するという目標は、現実味のある話なのです。

●バッテリー交換式にこだわらずプラグインタイプも開発

ジャパンモビリティショー2023にてホンダが展示した小さな電動バイクコンセプト。超近距離ユースであればバッテリー搭載量を減らしてコストダウンすることも考えられる。
ジャパンモビリティショー2023にてホンダが展示した小さな電動バイクコンセプト。超近距離ユースであればバッテリー搭載量を減らしてコストダウンすることも考えられる。

電動モビリティの大量生産においては、バッテリーの調達も重要です。

現時点で、ホンダの電動二輪はバッテリー交換タイプが主であり、バッテリーには三元系リチウムイオン電池を採用していますが、それ以外の選択肢がないわけではありません。

バッテリーについては、リン酸鉄リチウムイオン電池も進み、2025年には量産モデルに搭載される予定です。高いエネルギー密度や優れた安全性が期待される全個体電池の開発も進んでいます。

さらに、バッテリー交換型にこだわることなく、車体に充電ケーブルをつなぐプラグイン方式の採用も視野に入れているといいます。

ファン領域のスポーツモデルでは、バッテリーを最適配置してパフォーマンスにつなげるための設計自由度も、プラグイン充電であれば高めることができるでしょう。近距離ユースメインのモビリティであれば、交換式バッテリーよりも小さい電力量のバッテリーとすることで車体の小型化も可能になるかもしれません。

2020年代後半に向け、電動化を加速させるホンダの二輪ラインナップの変化に注目です。

自動車コラムニスト・山本 晋也

この記事の著者

山本晋也 近影

山本晋也

日産スカイラインGT-Rやホンダ・ドリームCB750FOURと同じ年に誕生。20世紀に自動車メディア界に飛び込み、2010年代後半からは自動車コラムニストとして活動しています。モビリティの未来に興味津々ですが、昔から「歴史は繰り返す」というように過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰的に見ることを意識しています。
個人ブログ『クルマのミライ NEWS』でも情報発信中。2019年に大型二輪免許を取得、リターンライダーとして二輪の魅力を再発見している日々です。
続きを見る
閉じる