ダイハツの不正は「自動車認証制度の根幹を揺るがす行為」である【週刊クルマのミライ】

■現行生産・開発中の全車種において不正があった

現行型ミライースでは、他車種の試験結果に差し替えるといった不正などが見つかっている。
現行型ミライースでは、他車種の試験結果に差し替えるといった不正などが見つかっている。

1907年創業、現存する日本の自動車メーカーではもっとも長い歴史を持っているのがダイハツ工業。明治時代に内燃機関を製造、戦後ではミゼットなど時代を象徴するモビリティを生み出してきました。まさに日本の自動車史における生き証人とさえいえる、老舗企業です。

しかし、ダイハツ工業は型式指定における申請業務において174の不正を犯していました。そのニュースが明らかとなった2023年12月20日から、自動車業界全体が大きく揺れ動いています。

あらためて不正の概要を整理すれば、調査対象となったのは基本的に「型式指定のための申請」業務に限られます。これは第三者委員会による調査リソースを考えれば妥当であり、むしろ広く調査したといえます。

とはいえ、調査範囲は限定されますから、他の部門において不正がなかったという証明ではありません。

174個も見つかったという不正の多くは、型式指定のために必要な衝突試験において発生しています。それも、現行生産・開発中の全車種(28車種)において不正行為が確認されています。

一部車種に限った話であれば、担当者の特性などに原因を求めることができるかもしれませんが、全車種において異なる複数の不正が確認されたということは、問題の根深さがうかがえます。

国土交通省は、『ダイハツ工業(株)の型式指定申請における不正行為の報告について』という報道発表の冒頭において、以下のように厳しい表現を用いています。現行モデル全車種における不正という事実は、それほど深刻な事案といえます。

自動車ユーザーの信頼を損ない、かつ、自動車認証制度の根幹を揺るがす行為であり、今回更なる不正行為が明らかになったことは極めて遺憾です。

●旧型モデルでは不正行為が見つからなかった車種もある

2021年にフルモデルチェンジした現行アトレーについてはいくつかの不正が確認されたが、写真の先代アトレーワゴンに関する不正はなかった模様。
2021年にフルモデルチェンジした現行アトレーについてはいくつかの不正が確認されたが、写真の先代アトレーワゴンに関する不正はなかった模様。

第三者委員会の調査報告書を見ていると、サイドエアバッグをタイマー着火(人為的に作動)させたり、立会試験時に結果を事前試験でのデータに差し替えたりといった、悪質な不正が散見されます。国土交通省の報道発表における厳しい表現は、ダイハツ工業への不信感を感じさせます。

もっとも、内容的には衝突試験に合格できない車を、数字を誤魔化してクリアさせた…というわけではなさそうです。実際、ダイハツの社内調査によれば「1件を除いて、基準適合性、諸元値の妥当性を確認」しているといいます。

こうした言い分を信用しつつ、独自の視点で調査をしているのでしょう、自動車メディアなどには「ダイハツ車がただちに危険とはいえない」というレポートも掲載されています。

前述の調査報告書によれば、旧型車種の中には不正が確認できなかったモデルも少なくありません。ひと世代前のモデルであれば、今回の不正とは無関係である可能性も高いといえそうです。その意味では、すべてのダイハツ車オーナーが不安に思う必要がないといえるでしょう。

●国土交通省が基準適合性を確認するまで出荷停止は続く

2023年12月に生産終了となったミラトコット。左右で試験をすべきところ片側だけで済ませたという不正などが明らかとなっている。
2023年12月に生産終了となったミラトコット。左右で試験をすべきところ片側だけで済ませたという不正などが明らかとなっている。

現状は「国土交通省が基準適合性を確認するまで、現行生産車の出荷を停止する」といったフェイズです。

国土交通省および(独)自動車技術総合機構において、全ての現行生産車の基準適合性について、技術的に検証を行った上で、基準を満たしており安心安全というお墨付きが出るまでは、(特に現行型の)ダイハツ車オーナーが不安を覚えるのは自然なことだと思います。

また、冒頭でも触れたように、不正が発覚したのはすべての現行車種だけでなく、開発中の車種も含まれます。

ダイハツのラインナップでは、2023年内にムーヴ(6月)やミラトコット(12月)などの軽自動は、ダイハツ・ブーンとトヨタ・パッソの姉妹車などが生産終了となっています。

こうした車種においては後継モデルが「開発中」なこともあるでしょうし、その中には量産間近だったケースもあるでしょう。今回の不正発覚により、フルモデルチェンジを楽しみにしていたファンや販売店は肩すかしを食らったカタチになってしまったケースがあるかもしれません。

いずれにしても、国土交通省による調査や技術検証が終わらない限り、ダイハツの生産再開スケジュールは見えてきません。国土交通省による安心安全のお墨付きが出るまで、この問題における将来像を描くことはできないといえるでしょう。

自動車コラムニスト・山本 晋也

この記事の著者

山本晋也 近影

山本晋也

日産スカイラインGT-Rやホンダ・ドリームCB750FOURと同じ年に誕生。20世紀に自動車メディア界に飛び込み、2010年代後半からは自動車コラムニストとして活動しています。モビリティの未来に興味津々ですが、昔から「歴史は繰り返す」というように過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰的に見ることを意識しています。
個人ブログ『クルマのミライ NEWS』でも情報発信中。2019年に大型二輪免許を取得、リターンライダーとして二輪の魅力を再発見している日々です。
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