季節製品であるオートバイの多品種少量生産を大変革する「スマートファクトリー」への転換【ヤマハ発動機ニュースレター】

■従来のコンベア方式からAGVバイパス方式に変更し、生産ラインを半減

ヤマハ発動機の広報グループが発信しているニュースレターは、ものづくりの現場からOBの挑戦まで多様な事業や活動が盛り込まれています。今回は、静岡県磐田市の本社オートバイ組立工場が舞台で、DX(デジタルトランスフォーメーション)を活用し、スマートファクトリーへの転換を目指す挑戦がレポートされています。

「AGVバイパス方式」で二輪車組立工場にイノベーションを起こした生産課と組立技術部のメンバー
「AGVバイパス方式」で二輪車組立工場にイノベーションを起こした生産課と組立技術部のメンバー

次々と出荷場にやってくる完成車だけを目にすると、単純な流れ作業のように見えるかもしれないそうですが、そこには規模や変動する各種要件など複雑な背景が裏側にあります。流れるような生産現場は、じつは高度な計算によって成立しているわけです。

組立技術部の曽貝健司さんは、「意外に思われる方も多いのですが、オートバイは季節商品です。需要変動に合わせてたくさんの種類を少しずつ生産する多品種少量生産という難しさがあります。

同じものを常に同じ量つくるなら設備や仕組みをもっとシンプルにすることも可能ですが、多品種少量生産だと不可能です。需要変動によってあるラインでは昼夜問わずフル稼働する一方、隣のラインは休眠中という非効率な状況が生まれてしまいます。

また、作業者の皆さんにとっても変化が大きく、働きやすい職場ではありません」と、オートバイならではの製造現場の難しさを説明しています。

連結したラインから外れ、バイパスを通って次の工程に移動する
連結したラインから外れ、バイパスを通って次の工程に移動する

そこで、今春、本格的に稼働した「AGVバイパス方式」は、従来のコンベア方式に代わる画期的な生産システムで、長年にわたる課題を解消する革新的な設備として、大きな期待を集めています。

新方式の主役を担うのは、135台の特殊な自動搬送車(AGV)。作業台を載せたAGVが複数連結することで組立ラインを形成し、列をつくったり、列から外れたりして工場内を走っています。

この独創的なシステムを開発した小林篤史さんは、「たとえば、複数のモデルを同時に流す場合、各工程で組み付ける部品点数や作業時間がそれぞれ異なります。前に並ぶ製品の工程に時間を要する時や工程自体が不要な場合、後ろに並ぶAGVはラインを外れて、定められた次の工程に自ら移動します。渋滞路を外れて目的地まで直行するという意味で、バイパス方式と呼んでいます」と解説しています。

車両を載せたAGVは、人やモノの情報を携えて組立工場内を移動し、作業者の身長や作業部位でリフターの高さや向きを最適化
車両を載せたAGVは、人やモノの情報を携えて組立工場内を移動し、作業者の身長や作業部位でリフターの高さや向きを最適化

さらに、車両を載せたAGVは、各製品や各工程、作業者ごとの情報を携えて移動します。向かった先のツールや設備に組立情報の指示を出し、作業者の身長や作業部位によってリフトの高さも最適化されます。

突然舞い込んでくる1台の生産要請にも応える対応力と汎用性を備え、多品種少量生産という長年の課題の解消に向けて大きな革新を起こしているそうです。

先述の曽貝さんは、「AGVバイパス方式は、生産の効率化や働き方改革、省エネなどにも効果を発揮しています。今後、EV化をはじめ、モノづくりの多様化にも柔軟に対応する仕組みとして作り上げました」とも。

技術によって、人がいきいきと働くスマートファクトリーの実現を目指して、組立工場の風景が大きく変わろうとしています。

なお、同工場で扱うオートバイ部品の点数は、1日あたり約9,000種、計60万点に達するそうです。一見、ダイナミックな印象を受ける組立工場ですが、こうした繊細な計算の積み上げによって成立しています。

約5年前まで8本あった常設の車体組立ラインは、「AGVバイパス方式」の導入などによって現在までに4本と半減。生産DXの進捗により工場の姿は急速に様変わりしています。

(塚田勝弘)

この記事の著者

塚田勝弘 近影

塚田勝弘

1997年3月 ステーションワゴン誌『アクティブビークル』、ミニバン専門誌『ミニバンFREX』の各編集部で編集に携わる。主にワゴン、ミニバン、SUVなどの新車記事を担当。2003年1月『ゲットナビ』編集部の乗り物記事担当。
車、カー用品、自転車などを担当。2005年4月独立し、フリーライター、エディターとして活動中。一般誌、自動車誌、WEB媒体などでミニバン、SUVの新車記事、ミニバンやSUVを使った「楽しみ方の提案」などの取材、執筆、編集を行っている。
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