スクランブラー風のヤマハ「XSR125」がカフェレーサーに変身。同じネオレトロでもルーツが異なるノーマルと純正カスタム

■ノーマルでもカスタムでも楽しいXSR125の世界観

ヤマハ発動機(以下、ヤマハ)が原付二種クラスに投入する、新型のネイキッドスポーツ「XSR125 ABS(以下、XSR125)」。

レトロな外観とパフォーマンスを調和させた「XSR」シリーズの125cc版として登場するこのモデルは、丸目一灯ヘッドライトやワイドなバーハンドル、ブロックパターンのタイヤなどにより、1960年代などに一斉を風靡した「スクランブラー」と呼ばれるスタイルを彷彿とさせます。

ヤマハ・XSR125のノーマル車
ヤマハ・XSR125のノーマル車

一方、ヤマハの純正アクセサリーを手掛ける「ワイズギア(Y’S GEAR)」が手掛けたカスタム車では、ビキニカウルやシングルタイプ風シートなどの装備により、やはり1960年代などに人気を博した「カフェレーサー」をイメージさせるスタイルに生まれ変わっています。

スクランブラーとカフェレーサー。いずれも、クラシカルな雰囲気を持つことは同じなのですが、これらはそもそも生い立ちやルーツが異なるスタイルだといえます。

では、それぞれは、どんな特徴や時代背景を持つのでしょうか? ちょっと紹介してみますね。

●ノーマル仕様に漂うスクランブラーとは?

まずは、XSR125のノーマル車にテイストを感じるスクランブラーについて。

1960年代や1970年代に人気を博したスクランブラーとは、ロードバイクをベースに、オフロードでの走破性を高めた装備を持つモデルのことです。

XSR125ノーマル車のリヤビュー
XSR125ノーマル車のリヤビュー

あまりオフロード専用モデルがなかった当時、ロードバイクを使い、マフラーをアップタイプにしたり、サスペンションのストローク量を増やすなどで、悪路走行向けにモディファイしているのがこのスタイルを採用したバイク。現在でいうオフロードバイクの元祖といえるモデルなのです。

当時は、1962年に発売されたホンダ「ドリームCL72スクランブラー」や、1968年登場のヤマハ「トレール250DT1」など、国産メーカーでも数多くのモデルを市場投入。

いずれも、大径のブロックパターンタイヤやエンジンガードなど、オフロード走行に焦点を絞った技術や装備が高い評価を受け、オフロードスポーツが盛んな米国を中心に大ヒットを記録しました。

エンジンガードも装着した124cc・水冷4ストロークSOHC単気筒
エンジンガードも装着した124cc・水冷4ストロークSOHC単気筒

その後、1980年代頃には、ヤマハの名車「SR400」などをベースにスクランブラー的な要素を採り入れたカスタムも流行。2010年代頃になると、国内外のメーカーが往年のスクランブラーを現代的なアレンジで復刻させた新型車を次々と発表し、今や世界的に人気が高いジャンルのひとつとなったのです。

XSR125も、ブロックパターンのタイヤを装備するほか、エンジンガードも採用。マフラーはアップタイプではありませんが、やはりワイルドな雰囲気のマフラープロテクターが装着されていることで、まさにスクランブラー的な要素が盛り込まれていることが分かります。

ワイルドなブロックパターンタイヤを採用するXSR125
ワイルドなブロックパターンタイヤを採用するXSR125

ちなみに、ヤマハのXSRシリーズには、900ccの「XSR900」や700ccの「XSR700」もありますが、XSR900は、シングルタイプ風のシートや低めのバーハンドルなどにより、どちらかといえば、後述するカフェレーサー的なテイストの方が強いのではないでしょうか。

また、XSR700のバーハンドルはやや高めですが、タイヤはオンロードタイプですから、カフェレーサーとXSR125のようなスクランブラー的スタイルの中間といった感じがします。

つまり、ヤマハは同じXSRシリーズでも、共通のネオレトロさを維持しつつ、それぞれのモデルで異なる個性を演出しているといえます。

●純正カスタム車に投入されているカフェレーサーとは?

一方、純正カスタム車のXSR125では、カフェレーサー風のスタイルが採用されています。

このカフェレーサーとは、1960年代にイギリスで生まれたカスタムバイクのスタイルで、こちらはオフロードではなく、主にオンロードを走るレーシングマシンが源流となっています。

XSR125純正アクセサリー車のリヤビュー
XSR125純正アクセサリー車のリヤビュー

カフェレーサーを流行させたのは、当時、毎晩のようにカフェへ集まり、そこを起点に公道レースを楽しむ「ロッカーズ」と呼ばれる若者たちだといわれています。

そうした若者たちの特徴は、レザー製のジャケットやパンツを履き、カスタムバイクに乗っていること。しかも、彼らが乗る愛車の多くが当時のレーシングマシンを模倣したスタイルに改造されていたそうです。

ベース車両の多くは、トライアンフやBSA、ノートンといった、当時のレースシーンで大活躍した英国メーカーのモデルたち。

公道レースなどでバイクのスピードやスリルを味わうことを好んだ当時の若者たちは、マン島TTレースなどバイクの世界選手権シリーズでダイナミックに走るレース用マシンに憧れ、それらを参考にしたカスタムを愛車に施すようになったといわれます。

純正アクセサリーのビキニカウル
純正アクセサリーのビキニカウル

当時の主なカスタム内容は、ハンドルをセパレートタイプやフラットなバータイプなど、低く幅が狭い仕様にし、ステップを後方にするバックステップなども装着。シートも車体後方に座れるようなシングルタイプにするなどで、上体を伏せるライディングポジションになるようなモデファイが施されていたそうです。

さらに、当時のバイクは、ほとんどがカウルレスのネイキッドでしたが、やはりレーシングマシンのようなフロントカウルを装着するカスタムバイクも出現。先端が突き出て丸味を帯びた形状がロケットに似ていることから、「ロケットカウル」という愛称で親しまれていました。

そして、こうしたかつての「公道レーサー」スタイルも、現在では世界的に大きな市民権を得たことで、やはり国内外のバイクメーカーが、往年のカフェレーサーをイメージさせる新型車を続々と発売。スクランブラーとは起源は異なりますが、こちらも世界的に人気が高いジャンルのひとつとなっています。

XSR125の純正カスタム車も、丸味を帯びたビキニカウルやシングルタイプ風シートを採用するほか、フェンダーレスキットの装着でリヤまわりをシンプルかつレーシーな雰囲気に演出。さらに、アクラポビッチ製フルエキゾーストマフラーやアルミクランクケースカバーなどの装備により、現代風の雰囲気とヘリテイジなテイストを融合させた、ネオクラシックなカフェレーサーに仕上がっているといえます。

純正アクセサリーのカスタムシート
純正アクセサリーのカスタムシート

ちなみに、ワイズギアで販売するXSR125の純正カスタムパーツは全10点で、総額(税込)は31万9440円です。ノーマルのXSR125は、本体価格(税込)50万6000円ですから、合計すると82万5440円とちょっとお高くなってしまいます。

でも、予算的にいきなり全部が無理でも大丈夫。それぞれ単体でも購入できるので、ちょっとずつ買い足していき、徐々にカスタムしていくといった楽しみ方もできます。

いずれにしろ、街から郊外のワインディングまで、幅広いシーンで走りを楽しめるほか、クラシカルでオーセンティックなスタイルにより、様々なファッションにも対応するのがXSR125です。

しかも、ノーマルで乗るのもよし、カスタムを楽しむにも最適だという、バイク好きの心をくすぐる奥深さを持つことも魅力のひとつですね。

(文:平塚 直樹/写真:奥隅 圭之)

この記事の著者

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平塚 直樹

自動車系の出版社3社を渡り歩き、流れ流れて今に至る「漂流」系フリーライター。実は、クリッカー運営母体の三栄にも在籍経験があり、10年前のクリッカー「創刊」時は、ちょっとエロい(?)カスタムカー雑誌の編集長をやっておりました。
現在は、WEBメディアをメインに紙媒体を少々、車選びやお役立ち情報、自動運転などの最新テクノロジーなどを中心に執筆しています。元々好きなバイクや最近気になるドローンなどにも進出中!
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