■「インパクト加重会計」で創出価値を経済的効果で測定、評価
ヤマハ発動機の広報グループが発信しているニュースレターは、同グループやOBまでも含めた多彩な事業や活動がレポートされています。今回の舞台である「ヤマハクリーンウォーターシステム(YCW)」も、ヤマハ発動機が幅広い事業領域を展開しているのが分かります。
以前お伝えしたように、「YCW」は緩速ろ過という自然界の水浄化の仕組みを応用したコンパクトな浄水装置で、専門家によるオペレーションや大きな電力、特別な薬品などが不要だそうです。
住民による自主メンテナンスが可能なことから、水道設備のない新興国や途上国の小さな集落などで有効なウォーターシステム。蛇口をひねれば当たり前のように飲料水が出てくる日本にいると実感はなかなか沸きませんが、新興国などでとても大きな課題になっています。
「安全な水」へのアクセスは「SDGs」にも掲げられた重要な課題のひとつ(目標6)。現在も世界人口の26%にあたる約20億人が「安全に管理された飲み水を使用できていない(ユニセフ/2020年)」状態になっています。
ヤマハ発動機では、国際機関やNGO、現地の日本大使館などと協力しながら積極的に「YCW」の普及・導入を進めています。同社は、「水が変われば暮らしが変わる」という思いを共有し、約20年間の活動で設置された浄水装置は、アフリカや東南アジアに計50基にのぼるそうです。
こうした実績に対し、ヤマハ発動機の海外市場開拓事業部の今井久美子さんは、「社会課題への有効なアプローチとして、内外から高く評価をいただいています。一方で経済効果が不明瞭だったり、どの程度の生活改善につながっているのかつかみにくかったりする課題がありました。事業継続の基盤を高めていくためにも、もう一歩踏み込んで創出している価値を定量化する必要があると考えました。今回、試みたインパクト加重会計は、ひとつの手法としてとても有効だと感じています」と説明します。
インパクト加重会計とは、企業活動が環境や社会にどのような影響をもたらしたのか、そのインパクトを貨幣価値に換算して開示する取り組み。
今井さんは、「測定自体が難しいのですが、今回は浄水装置の設置でどれだけ水汲み時間が削減されたか、どれだけ下痢などが減少したか、という2点にフォーカスしてフレームワークを組みました」と続けます。
結果は、2011年以降に設置された37基の総計で、約1,540万ドル。受益者は、11ヵ国合わせて約3万9,000人におよび、水汲み労働に割かれる時間や下痢などで仕事ができない時間が削減されたことで、期待される1人あたりの年間収入は5~8%改善すると算出されたそうです。
今井さんは、「この数字は、事業を進めている私たちの肌感覚としても妥当と感じました」と、受け継がれてきた水が変われば暮らしが変わる、という思いが裏付けられたことになります。
さらに、「インパクトには一次的なものだけでなく、二次、三次的なものも存在します。算出された数字は、次なる適切なアクションについて考える機会にもつながっています。人びとの生活の質向上をゴールに、さらにこの活動を深めていきたい」と締めくくっています。
広報担当者によると、近年は投資家だけでなく広く社会から「企業がどのような社会貢献をしているか」ということが問われるようになっているそうです。企業も財務指標だけでなく、重要な要件を連動させた様々な試算を行う必要があると感じているとのこと。
「インパクト加重会計」は、ロジカルかつ納得性の高い有効な指標のひとつとして期待されています。
(塚田 勝弘)