ホンダ自動運転専用タクシー「クルーズ・オリジン」は2026年都内で試験運用開始【これだけは見逃すなジャパンモビリティショー2023】

■手を上げて「タクシ~!」はもうなくなる?

「東京モーターショー」から「ジャパンモビリティショー」に名称が変わり、内容も4つからの車輪を持つ「自動車」に限らない、乗りもの全体の未来像や提案をディスプレイするショーに変わりました。

とはいえ、SUBARUなどは「空飛ぶ自動車」と称した、巨大ドローンみたいな乗りものを展示しているものの、実際はまだまだ「車」が中心。乗りものなら何でもということで、いずれは新しい考え方の船などを提案する企業も出てくることでしょう。

いや、当のホンダとて「HondaJET」の実物大モックを展示していたっけ。

「モビリティ=mobility」・・・移動しさえすればいいので、「運転席」は必須ではありません。何らかの手段で「運転操作」は必要ですが、「運転」は、古いいい方なら「電子頭脳」、いま風にいうなら「AI」が受け持てばいい。仮にひとの手や監視がまだ要るとしても、(故障や誤作動が起きないことが前提で書きますが)いまなら外部から遠隔操作もできます。

現実には両者の合わせ技で行うのでしょうが、少なくともこれまでの「運転席」スペースまでをも「座席」にしてしまい、「運転者不在」「全員が乗員」「移動そのものを主体とする空間」という乗りものがちらほら展示されていました。

クルーズ・オリジンのフロントビュー。デザインはホンダ、プラットホームをGM、センサー類をオリジン社が担った3社による共同作品だ
クルーズ・オリジンのフロントビュー。デザインはホンダ、プラットホームをGM、センサー類をオリジン社が担った3社による共同作品だ

そのうちのひとつがホンダの「クルーズ・オリジン」です。

サイドのスライドドアを前後にフルオープンにして展示されていました。

これは完全自動運転のタクシーで、シートは3人+3人を向かい合わせで座らせるレイアウトになっています。フロント側を後ろに向けての向かい合わせなので運転席はなし。

これまでの「東京モーターショー」時代なら「ほんとに実現するのかネ?」と見る側がしらけるだけの単なる夢でしかありませんでしたが、心機一転「ジャパンモビリティショー」と改称されようものなら展示する側の意気込みも変わってくるのか、何とホンダは2026年初頭から、まずはこのタクシー運用を東京都心部から実験的に開始するのだと。

リヤビュー。赤いランプからこちらがリヤとわかるが、形としてはどちらが前で後ろなのかがわからない、前後対照のスタイリングとなっている
リヤビュー。赤いランプからこちらがリヤとわかるが、形としてはどちらが前で後ろなのかがわからない、前後左右対称のスタイリングとなっている

客はやってきた乗務員不在のクリーズ・オリジンに乗り込んで目的地まで送ってもらう・・・この類の話は小学生の頃に活字かまんがかの「未来はこうなる!」といった記事で読んだことがありますが、説明を聞けば聞いたでにわかには信じられず、「本当にうちまで迎えに来てくれて送り届けてくれるのですか? 本当にドアtoドアなのですか?」と聞いたら、ホンダ説明員の方は「車が入れないほどのせまい道でなければ家の真ん前まで迎えに行きます。」とニッコリ。

ただし、客側からの配車要請や運賃支払い(決済)はスマートホンのアプリで行うのだと。

ということは、タクシーに乗るとき、電話で呼ぶよりも流れている空車タクシーを拾うことのほうが多い主要都市では、右手を上げて「ヘイ! タクシー!」はできません。

いつぞや大きな仕事を終え、左手に資料の入った紙袋をぶら下げていた筆者が歩行者信号の青を待っているとき、「ふあ~、終わったぁ~」と右腕だけ上げて伸びをしたら、「お、客だ!」と早とちりしたクラウンのタクシーが目の前に「ぴたっ!」と止まってドアが開いたということがありましたが、このようなうそみたいなほんとの話もなくなるわけです。

この「クルーズ・オリジン」は、ホンダ、GM(ゼネラル・モーターズ)、クルーズの3社による合作で、デザインはホンダ、走行メカのためのプラットホームはGM、そして内外のセンサー類をクルーズが担当したといいます。

思えば2021年3月、ホンダはリース限定100台ながら、レジェンドで「自動運転レベル3(Honda SENSING Elite)」をイチ早く実現にこぎつけた会社。対して「クルーズ・オリジン」は3社共同プロジェクトによるタクシー車両であるにしても、そのホンダが無人の自動運転の実証実験を最初にやってのけるのはホンダらしいと思いました。

この手の先進技術というと、われらが日本の行政は「危険」「時期尚早」など、保守的なことをいって立ちはだかるのが常ですが、そのあたりをさきの説明員の方にたずねてみると、「いやいや、行政のほうもむしろ『いいね』とか『早くやって!』とそそのかしてくるくらいで・・・」とまたまたニッコリ。

「自動運転」と聞くと「おお、すげえ!」「ナイトライダーが現実に!」と思っていた筆者も、いざ形になって見え始めると「事故のときの責任の持ち分はどうなるのか?」「ゆずり合いのときは?」「法律はどう変わる?」など、考えなければならないことが出てきたので最近では面倒くさくなり、「自動運転」の話題を敬遠しがちになっていたのですが、この「クリーズ・オリジン」は、実物を目にし、話を耳にして久々に「おお、すげえ!」と思うばかりか、2026年の実験の様子を早く見てみたいと素直に思うことのできた1台でした。

もっか2026年の都内での実験開始を待つタイミングですが、この実験で安全性や利便性が実証された暁に本格稼働したとき、アプリによる要請~配車~目的地着というタクシーの使い方がほんとうの意味で喜ばれるのは、移動手段が困難の一途をたどる地方都市のひとたちからでしょう。

本クリッカーの「リアル試乗」でいつも行政に苦言を呈している筆者も今回ばかりは行政と同じスタンス。

「早くやれ~。」

(文・写真:山口尚志