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■いよいよマイチェン版が発進か? GRヤリスの8段AT車をS耐もてぎに実戦投入
2022年の夏から受注を止めているトヨタGRヤリスですが、今年2023年春ごろからマイナーチェンジの噂が流れていて、マイナーチェンジの本命は8段ATの採用だと言われています。
その噂の8段ATを搭載したGRヤリスが、2023年9月2日~3日にモビリティリゾートもてぎで開催された「ENEOS スーパー耐久シリーズ2023 Supported by BRIDGESTONE 第5戦 もてぎスーパー耐久 5Hours Race」に参戦しました。
エントリー名を「ORC ROOKIE GR Yaris DAT concept」としています。このDATが「ダイレクト・オートマチック・トランスミッション」の略で、ただの8段ATではなく、Dレンジに入れっぱなしでMTと相当のタイムを出すという代物。ドライバーがMTを操作している際に選ぶであろうギア比にDATが合わせてくれるので、パドルやレバーの操作無しにATでレースを走れるというものです。
今回は水素カローラをお休みして、そのゼッケンである32番をつけての参戦。
今年のスーパー耐久では、7月のSUGO戦にもGRヤリス、ORC ROOKIE GR Yarisが出場しましたが、ORC ROOKIE GR Yarisは昨年のカラーリングのMT車で、ORC ROOKIE GR Yaris DAT conceptは今年の水素カローラと同じカラースキームとなっており、全く別の車となっています。
SUGO戦のMT車、ORC ROOKIE GR YarisとAT車のORC ROOKIE GR Yaris DAT conceptでの外観上の違いはフロントのバンパーです。
MT車は市販車とは違う、バンパーの両サイドを塞いでカナード上のジェネレーターを形作っていますが、AT車はGRMNヤリスに近い形状のエアロバンパーにラジエターやインタークーラー、オイルクーラーなどに風が当たりやすいように開口部を増やしています。
●冷却系に苦しんだもてぎ戦
もてぎ戦に登場したORC ROOKIE GR Yaris DAT conceptですが、DATの初出しはこのもてぎ戦というわけではありません。実は、2022年からTGRラリーチャレンジに参戦し、公道でのデータを取っており、またサーキット走行は富士スピードウェイでのテストも重ねてきているとのことです。
そんなORC ROOKIE GR Yaris DAT conceptが、スーパー耐久もてぎ戦に実戦投入されました。ところが、これまで順調だったDATが、9月1日のフリー走行で不具合が発生。
モビリティリゾートもてぎのレーシングコースは、全開からのフルブレーキングというようなストップ&ゴーの繰り返しが多く、スリックタイヤを使うスーパー耐久では、その負荷が想定の1.5倍かそれ以上に達してしまったとのこと。
この負荷はDATに対して熱というカタチで降りかかり、オーバーヒートを引き起こしてしまったのです。
ORC ROOKIE GR Yaris DAT conceptのエアロバンパーの内側には、これまで見たことが無いようなラジエター、オイルクーラー、インタークーラーなどが複雑に重なり合っており、これまではこれらを走行時に車体に受ける風量で冷却していました。しかし、もてぎの激しい負荷による発熱にはそれでは足りなかったのです。
エンジンルームに隙間がないことも冷却の妨げとなっているとのことで、現場合わせでボディやフェンダーに風抜きの穴を開け、また軽量化のために取り外していた電動ファンを再び取り付けるなどして熱対策をしていきました。
これら熱対策が完了する前に行われた予選では、オーバーヒート寸前となってしまったために計測アタックが出来ず、最後尾からのスタートとなってしまいます。
●ドライバーによってはタイムが一気に短縮するDAT
熱対策が施されての決勝となったORC ROOKIE GR Yaris DAT concept。スタートから順調にラップを重ねていきます。
熱対策が完ぺきだったのか、一切のトラブルなくレースが進んでいきます。
ドライバー交代やタイヤ交換、給油以外でピットインすることもなく、かなりのハイペースでレースが進んでいきます。
開発車用のクラスであるST-QクラスからのエントリーとなるORC ROOKIE GR Yaris DAT conceptですが、排気量や駆動形式から見るとST-2クラスと同等となり、そのクラスで比べると、表彰台に登れるレベルの130周という周回数を5時間で走り切っています。
また、リザルトを確認しベストラップを見てみると、豊田章男会長のドライバーネームであるモリゾウ選手が2分11秒953、プロドライバーである佐々木雅弘選手が2分11秒939で、ジェントルマンドライバーとプロドライバーが全く遜色ないラップタイムで走ることが出来ています。
変速操作での微妙なタイム差を機械側の制御で一気に削り取ってしまうことで、ラップタイムが0.5秒から1秒も短縮するという、驚異のトランスミッションシステムともいえるDAT。
1.6Lターボで4WDのGRヤリスの楽しさを、AT限定免許の方やATに好んで乗っているという方にも届けたい、という豊田章男会長が社長時代に発した思いが、もうすぐ手の届くところにやって来るようです。
(写真・文:松永 和浩)