「日本の電気自動車の充電インフラは遅れている?」という質問へのメルセデス・ベンツ会長の回答は?

■今秋の「ジャパンモビリティショー2023」でGクラスのEVコンセプトモデルを披露へ

以前お伝えしたように、メルセデス・ベンツの新型バッテリーEV(BEV)のSUV「EQE SUV」が発表されました。

メルセデス・ベンツの電動化戦略を説明するため、メルセデス・ベンツ グループ社のオラ・ケレニウス取締役会長が来日。メルセデス・ベンツ日本の上野金太郎社長とともに、電動化戦略を説明する場が設けられました。

メルセデス・ベンツEQE SUVのプレス発表会が行われた
メルセデス・ベンツEQE SUVのプレス発表会が行われた

電動化、中でもBEVに注力しているのは、もちろん、メルセデス・ベンツだけでなく、中国勢の新規プレイヤーも含めて数多くのメーカーが参入しています。そんな中でも同ブランドのBEVの充実ぶりと急加速ぶりは際立っていて、日本市場でもすでに最も多くのBEVを発売しています。

電動化戦略について説明するメルセデス・ベンツ グループ社のオラ・ケレニウス会長
電動化戦略について説明するメルセデス・ベンツ グループ社のオラ・ケレニウス会長

オラ・ケレニウス会長は、「世界でもっとも魅力的な車を作る」というメルセデス・ベンツの姿勢をまず説明した後、「この10年間、BEVをはじめ、デジタル化、AIの活用、自動運転など、テクノロジーの進化による大変革期を迎えています。そんな中でも。メルセデス・ベンツを初めて購入した際は、オーナーがプライドを持てるはずです」と、電動化時代でも世界のプレミアムブランドとしての自負を披露。

メルセデス・ベンツ日本の上野金太郎社長
メルセデス・ベンツ日本の上野金太郎社長

EQS(セダン)、EQS SUV、EQE(セダン)に続き、BEV専用プラットフォームの「EVA2」では、4モデル目となったEQE SUVは、美しいデザインだけでなく、パッケージングの良さなどにも自信を見せています。

また、これから10年間は、パリ協定に基づき、カーボンニュートラル化を目指し、さらに、それを10年前倒しして実現したいと表明。10年後は、全カテゴリーで上から下のモデルまで完全な電動化ができると説明しています。

具体的には、2022年に生産工程におけるカーボンニュートラル化、2030年までに市場が許す限り100%電気自動車化、そして、バリューチェーン(価値連鎖)全体での脱炭素化は、2039年を目標に掲げていると表明。

メルセデス・ベンツは、2030年までに世界の主要市場で急速充電器を1万基以上設置する予定
メルセデス・ベンツは、2030年までに世界の主要市場で急速充電器を1万基以上設置する予定

メルセデス・ベンツの電動化の現在地は、前年比123%増(全世界での販売実績。第2四半期BEV販売。前年比)と、着実に増えていると説明。

同発表会では、日本にも専用の充電インフラ網の導入を検討していると明かしました。加えて、世界に先駆けて日本市場に「V2H」「V2L」の給電機能を導入した点もアピールされていました。

世界に先駆けて日本向け仕様で「V2H」「V2L」対応としている
世界に先駆けて日本向け仕様で「V2H」「V2L」対応としている

今回、発表されたEQE SUVを含めEQSシリーズ、EQEシリーズは、車外に電力を供給できる双方向充電が可能になっています。太陽光発電システムを導入している家庭であれば、停電時に車から家庭に電気を送る予備電源として利用できます。

さらに、オラ・ケレニウス会長は、カーボンニュートラル化について、自社生産拠点のCO2排出量を2030年までに80%減らすこと、そのため、太陽光発電(ヨーロッパでは風力発電も)などを活用するそうです。BEVの課題であるバッテリーのリサイクルでは、蓄電池のリサイクル工場(ドイツ・クッペンハイム工場)でのバッテリーリサイクル率目標を96%以上と掲げています。同工場は、2023年終盤には立ち上がるそう。

バッテリーリサイクル戦略も説明された
バッテリーリサイクル戦略も説明された

また、2024年には、トップエンドモデルを中心に、魅力的な新型モデルを継続して導入するとしています。その中には、「2+2」のAMGスポーツカー(メルセデスAMG GTのフルモデルチェンジか?)を2024年にも日本に導入予定と明らかにしました。「IAA Mobility 2023」では、次世代の戦略などを発表するとしています。

EQE SUVのプレス発表会の様子
EQE SUVのプレス発表会の様子

『なぜ会長は来日したのか?』という問いに対し、日本市場はイノベーションの源であり、有力なサプライヤーも揃っていると説明。日本市場で成功すれば、ほかの市場でもEVが成功する(可能性が)高いため、重要視しているそうです。

質疑応答で、『日本の充電インフラの整備が遅れているのでは?』という質問に対して同会長は、「日本市場の充電インフラは遅れているとは思っていない、スタートラインに立っています。これからメルセデス・ベンツも投資をしますが、政策決定者が決断するのが重要です」と説明しています。

なお、2025年、2026年までには、ロングレンジのPHEVを含めた電動化(100km以上のEV走行が可能なPHEV)、SUVのラインナップを拡充させたいとしています。

メルセデス・ベンツEQE SUVのリヤビュー
メルセデス・ベンツEQE SUVのリヤビュー

また、トヨタなど日本勢の中には、脱炭素化戦略で全方位戦略ともいえる「マルチパスウェイ」を取っています。こうした主旨の質問に対して、同会長は、メルセデス・ベンツがBEV(短期的にはPHEVも含む)に注力しているのは、すでに充電インフラの整備も始まっていて、2020年代はBEVが、乗用車においては、現実的な選択肢と判断したとしています。ただし、ダイムラーでは水素を使う燃料電池トラックを開発していて、大型車では燃料電池を活用しているとも説明していました。

「IAA Mobility 2023」では、次世代BEVの発表もある?
「IAA Mobility 2023」では、次世代BEVの発表もある?

中国勢などの新規のライバルについては、新しいプレイヤーも既存のライバルも含めて観察しながら、自分たちのブランドがやるべきことに注力する、としています。中国市場は、100以上のプレイヤーがいるなど、信じられないほどの競争が繰り広げられていて、同市場でメルセデス・ベンツから価格競争を仕掛けるつもりはなく、ラグジュアリーブランドのトップとして君臨するとしています。

質問に答えるオラ・ケレニウス会長と、メルセデス・ベンツ日本の上野金太郎社長
質問に答えるオラ・ケレニウス会長(左)

上野金太郎社長は、日本市場で7車種12モデルと国内最大のラインナップになったことで、さらなる成長を狙う構えです。メルセデス・ベンツEQE SUVは、528kmの航続距離により、毎日充電する必要はなく、1年間無料で充電できるとしています。

さらに、先述したように、独自の急速充電システムの導入も検討しているそう。また、「ジャパンモビリティショー2023」には、GクラスのBEVコンセプトモデルを披露すると明らかにしました。

(文・写真:塚田 勝弘)

この記事の著者

塚田勝弘 近影

塚田勝弘

1997年3月 ステーションワゴン誌『アクティブビークル』、ミニバン専門誌『ミニバンFREX』の各編集部で編集に携わる。主にワゴン、ミニバン、SUVなどの新車記事を担当。2003年1月『ゲットナビ』編集部の乗り物記事担当。
車、カー用品、自転車などを担当。2005年4月独立し、フリーライター、エディターとして活動中。一般誌、自動車誌、WEB媒体などでミニバン、SUVの新車記事、ミニバンやSUVを使った「楽しみ方の提案」などの取材、執筆、編集を行っている。
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