■富士24時間以来の参戦はオートポリス戦
7月29日(土)〜30日(日)に大分県日田市のオートポリスで開催された、ENEOSスーパー耐久シリーズ2023 Supported by BRIDGESTONE第4戦『スーパー耐久レース in オートポリス』。
TOYOTA GAZOO RACINGは29日の予選前に、ST-Qクラスに参戦するORC ROOKIE GR Corolla H2 concept、いわゆる「液体水素カローラ」の進化についての説明会を行いました。
「水素カローラ」ORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptは、2023年の富士公式テストから使用燃料を液体水素に変更。
液体水素と言えば日本では宇宙ロケットの燃料として使われるもので、自動車用としての使用は世界的にも類を見ないものです。
そして、その液体水素を燃焼させるエンジンを使った「液体水素カローラ」は、世界で初めての液体水素仕様レーシングカーとして公式レース「第2戦富士SUPER TEC 24時間レース」に参戦。24時間をトラブルなく完走しました。
その後はさらなる開発のために、第3戦SUGO3時間レースでは「液体水素カローラ」は参戦せず、かわりにGRヤリスがGT4マシンで競われるST-Zクラスのマシンを追いかけまわすなど、とんでもないスピードパフォーマンスを披露して話題を集めました。
そして第4戦のオートポリス戦では、さらなる進化を遂げた「液体水素カローラ」が参戦。それに先立っての説明会となりました。
●進化のカギは超低温でも動く燃料ポンプ
「第4戦までの2ヶ月のスパンで、いろいろな進化を遂げて参りました。水素社会実現に向けて、みんなで水素に取り組んでいくトーンがTOYOTA GAZOO Racingだけでなく、トヨタ全体の活動になってきていますし、地域の皆さま、いろいろな仲間の皆さまと進んできた中で今回の進化があります」と、GRカンパニー高橋智也プレジデントは語ります。
富士24時間レースでは2回の交換を行った液体水素ポンプですが、同じ使用条件で耐久時間が30%向上。液体水素の供給のために使用されるポンプですが、ガソリンなどを供給する通常のポンプは潤滑油が使用されているところを、液体水素ポンプの場合は水素に潤滑油が混ざってしまうため、潤滑油を使用することができないとのこと。
潤滑をしない場合、摩耗や振動に対してのショックなど使用環境の条件が厳しくなりますが、オートポリス戦ではポンプギヤ駆動部の負荷を低減する緩衝構造を採用して、ポンプやクランクの負荷を減らしながら、今回の5時間レースをポンプ交換なく完走する、ということを目標にしているとのこと。
この燃料ポンプや、これまでのテストやレースで収集したデータを分析して、安全バルブや配管などさまざまな液体水素システムの最適化を進めたことで、ポンプ駆動モーターのバッテリーを軽量化。
GRカンパニーの伊東直昭水素エンジンプロジェクト統括曰く、「エンジニアたちの細かい積み重ね」の結果として、ORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptの車重は、5月の富士24時間での1,950kgから40kgの軽量化を実現し、1,910kgとなりました。最終的な目標重量は、気体水素カローラと同等の1700kg台を目指すとのことです。
また、給水素時間の大幅な短縮と、液体水素のエネルギー密度などを考えると、給水素1回あたりの周回数は気体水素の水素カローラよりも多いということは十分に期待できるとのことで、目標値としては給水素1回あたり17周を掲げていました。
30日に行われた実際のレースでは、4時間経過のあたりで水素とは関係ないエンジンオイル漏れにより、周回数91周でリタイアしてしまいました。しかし、給水素1回あたりの周回数は目標の17周を超えて19周で走行するなど、大きな成果を上げていきます。
カーボンニュートラルの選択肢の一つとして取り組むトヨタの水素エンジン。これからの進化をもっと注目していきましょう。
(写真・文:松永 和浩)