終戦の前日、米軍による空襲でトヨタの拳母工場の1/4が破壊【今日は何の日?8月14日】

■戦時中軍需企業に指定されたトヨタ拳母(本社)工場が空爆被害

終戦直後の拳母工場(出典:トヨタ自動車75年史)
終戦直後の拳母工場(出典:トヨタ自動車75年史)

1945(昭和20)年8月14日、トヨタ自工(現、トヨタ)の拳母工場が空襲を受け、工場の約1/4が破壊されました。拳母工場は、現在の豊田市トヨタ町にあるトヨタ本社工場で、トヨタ最初の自動車量産工場です。空爆の復旧工事を行っていた翌8月15日、玉音放送で太平洋戦争の終戦が告げられました。


●トヨタのクルマづくりは戦前の豊田自動織機から始まった

トヨタ自動車のルーツは、1926年に豊田佐吉氏によって、現在の愛知県刈谷市に設立された豊田自動織機製作所です。自動車の将来性に注目した長男の豊田喜一郎氏が、1933年に自動車製作部門を設置し、完全オリジナルの純国産車を作るという理念のもと、エンジンからボディまで完全オリジナルの乗用車の開発を目指したのです。

トヨタ初の自動車となった1935年に生産されたG1型トラック
トヨタ初の自動車となった1935年に生産されたG1型トラック

最初の自動車組立工場は、自動織機から1kmほど離れた場所に建設され、1934年にシボレーのエンジンを参考にしたA型エンジンの試作機が出来上がり、1935年5月にはA型エンジンを搭載した試作車「乗用車A1型」が完成。ところが、当時は戦時中であり、政府が求めたのは軍事用に使えるトラックでした。

トヨタは、急遽トラックの生産を優先させ、同じA型エンジンを搭載した「G1型トラック」の生産を1935年に開始。翌1936年には、少量ながらA1型を改良した「AA型乗用車」の生産も始めました。

●本格的な自動車量産工場を拳母町に建設

トヨタは、自動織機の組立工場が手狭になったことから、1938年に本格的な量産工場を拳母町(現、愛知県豊田市トヨタ町)に建設しました。

拳母町が選ばれたのは廉価な広大な土地があり、三河鉄道を利用して資材の運搬が可能なこと、良質・豊富な地下水があり、矢作川の水力発電の電力が受電可能、そして近隣の土橋に建設された衣ヶ原飛行場が飛行機事業に好都合だったことが上げられます。

1940年代に入ると、トヨタはトラックと一部乗用車の生産を続けましたが、軍の要望で航空機エンジンを製造したり、1943年には2人乗りヘリコプターも試作しました。1944年1月には、トヨタは軍需企業に指定されて軍需省の統制下に入りました。

そして1945年のこの日、米軍の爆撃で拳母工場の約1/4が破壊されたのです。

●戦後、乗用車の生産が解禁されてトヨペットクラウンがデビュー

第二次世界大戦後、日本はGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)から乗用車の生産を禁止されたため、トヨタもトラックの生産から再開しました。

1947年にデビューしたトヨペットSA
1947年にデビューしたトヨペットSA

その間も、トヨタは乗用車の開発を継続し、1947年6月に“排気量1500cc以下の乗用車なら年間300台限定の生産が許可”されたため、同年10月に戦後初の乗用車「トヨペットSA」を市場に投入します。トヨタSAは、耐久信頼性に課題があり、生産台数は約4年間で197台と成功とは言えませんでした。

1955年に誕生した初代クラウン(トヨペットクラウン)。日本初の純国産車
1955年に誕生した初代クラウン(トヨペットクラウン)。日本初の純国産車

そして1955年、トヨタは満を持して完全オリジナルの本格的な乗用車「トヨペットクラウン」を世に送り出します。初代クラウンは、純国産車のパイオニアとして日本の自動車発展の重要な役割を果たし、現在まで68年間の長きに渡り日本を代表する高級車として君臨しています。


戦前に起業した自動車メーカーのほとんどは、戦時中に軍需企業となり、戦闘機やそのエンジン、軍用部品の製造を強いられたため、結果として空爆の標的になりました。拳母工場は、トヨタの本格的な自動車生産が始まった歴史的な工場ですが、現在はトヨタ本社工場として、主に鍛造部品やハイブリッドトランスアクスルを製造する部品工場になっています。

毎日が何かの記念日ですが、本日と明日は平和を祈念する日ですね。

Mr.ソラン

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Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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