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■SUBARU 大崎体制の新経営方針を発表
2023年8月2日、SUBARU(以下、スバル)が新経営体制における方針について発表しました。
6月の株主総会にて大崎 篤さんが代表取締役社長に就任したわけですが、その新しい経営体制が目指す方向を明確にするプレゼンテーションといえます。
結論からいえば、スバルが主戦場としている北米市場のトレンドを受けて、電動化を加速させるということです。それもハイブリッドではなく、エンジンを積まないバッテリーEVを主軸に据えるという内容でした。
すでにSUVタイプのバッテリーEVを2026年までに4車種ラインナップするという計画を発表していましたが、2028年までにさらに4車種を追加、あわせて8車種を用意するというようにバッテリーEVの商品計画を加速させています。
スバル全体の商品ラインナップにおいてもバッテリーEVが中心になります。なんと販売比率においてバッテリーEVを50%にするというのです。
プレゼンテーションから、その部分を引用してみましょう。
従来公表の2030年時点での電動車比率は、ハイブリッド車とバッテリーEVを合わせて「40%以上」としていました。
今回、2030年の電動車販売比率を「バッテリーEVのみで50%」へ引き上げ、120万台の全世界販売台数に対して「60万台のバッテリーEVを販売することによって実現する」という目標に大きく見直します。
●バッテリーも確保。電動化シフトをスピードアップ
ご存知のように現時点で販売されているスバルのバッテリーEVは、トヨタと共同開発した「ソルテラ」だけです。これはトヨタが生産を担っていますから、スバルが生産したバッテリーEVは量産されていません。
それでいて、5年後には8車種のバッテリーEVをラインナップ、7年後には60万台を販売しようというのは無茶な計画に感じるかもしれません。
しかしながら、スバルはバッテリーEVのために組立工場を新設する計画を進めています。さらに日本と北米という2大拠点において同時進行でバッテリーEVの生産を進めていくといいます。
また、新たな経営方針の発表に先立ち、パナソニック エナジーと「車載用円筒形リチウムイオン電池の供給に関する中長期的パートナーシップの構築に向けて協議を開始」したことを発表しています。
バッテリーEVを作るには、設計して組立工場を整備するだけでなく、バッテリーの調達が重要といわれますが、そうした点においても着実に歩みを進めているのです。
●スバル愛のベストシナリオとワーストシナリオ
気になるのは、新経営方針ではスバルの販売規模を120万台と設定している点です。これは現時点でのマイルドハイブリッドを含むエンジン車の生産能力に、新設するバッテリーEV工場をプラスしたものと理解できます。
この数値目標は、スバルというブランドの価値はバッテリーEVが半数を占めるようになっても維持されることを前提としています。
アイサイトやAWDに象徴される「安心・安全」というブランド価値についてはバッテリーEVへシフトしても有効でしょう。モーター駆動になれば、より緻密に駆動力をコントロールできますから、スバルが鍛えてきたAWD技術はさらに高みを目指すことが期待できます。
ですが、スバルというブランドを愛するファンの中にはBOXERの愛称で知られる水平対向エンジン、レヴォーグなどボンネットにインテークを持つスタイルに象徴されるターボエンジンこそスバルの価値と捉えている層がいるのも事実です。
今回のプレゼンテーションで示された商品計画を見ていると、ハイブリッドも増やしつつ、しばらくはエンジン車が残るようにも読み解けます。
そこにボクサーターボが含まれているのであれば、古くからのスバル愛にあふれるスバリストのニーズを満たすことになるでしょうが、バッテリーEVとボクサーターボという両雄を並び立たせるブランディングは絶妙なバランス感覚が求められる難しいチャレンジになるかもしれません。
ブランディング面でのベストシナリオは、ボクサーエンジン+シンメトリカルAWDのイメージを上手にバッテリーEVにシフトして、今のままロイヤリティの高さを維持することでしょう。
一方、ワーストシナリオとしては、バッテリーEVとボクサーターボが同時に存在することでユーザーレベルでのブランドイメージが混乱してしまいブランド価値を毀損してしまうことが考えられます。
はたして、ユーザー愛に支えられてきたスバルというブランドは、どんなシナリオで電動化シフトを実現するのか大いに気になります。
目前の話でいえば、バッテリーEVの販売比率を高めることで、少数ながらハイパワーなボクサーターボを生き長らえさせる余地が生まれる可能性にも期待したいと思います。