■タイヤが全てBS製となったSUGO戦
2023年7月8日(土)~9日(日)に、宮城県のスポーツランドSUGOで開催されたENEOS スーパー耐久シリーズ2023 Supported by BRIDGESTONE 第3戦 SUGOスーパー耐久3時間レース。このSUGO戦で、レースに使われる全てのタイヤがブリヂストン製となりました。
スーパー耐久シリーズでは2023シーズンのオフィシャルタイヤサプライヤーは韓国のハンコックタイヤが行うことになっていましたが、2023年3月12日、韓国の大田市大徳区にあるハンコックタイヤの工場で大規模な火災が発生し、レーシングタイヤを製造するラインと在庫のタイヤを焼失。
このため、第2戦の富士SUPER TEC24時間レース以降、ハンコックタイヤからのタイヤ供給が困難となってしまい、スーパー耐久シリーズ自体の存続も危ぶまれました。
ここで、2024シーズンのオフィシャルタイヤサプライヤーとして契約していたブリヂストンが急遽、富士SUPER TEC24時間から、ドライ用レーシングスリックタイヤと、ST-4、ST-5クラスについてはスポーツラジアルタイヤの供給を開始します。しかしこの時点では、レインタイヤはハンコックのものを使うということになっていました。
7月8日~9日に開催されたSUGO戦では、レインタイヤもブリヂストン製となり、全てのS耐使用タイヤがブリヂストン製となったのです。
●ラジアルタイヤ指定のクラスにレインタイヤは必要か?
タイヤフォローを進めているブリヂストンではありますが、このSUGO戦では、GR86やトヨタ86がメインのST-4クラスと、1500cc相当のコンパクトカーのST-5クラスにおいては、ブリヂストンのスリックタイヤ生産体制が間に合わず、ドライのレース用タイヤとしてPOTENZAの公道用スポーツラジアルタイヤが指定されていました。
そこで、富士SUPER TEC24時間レースやスーパー耐久公式テストなどでST-4クラス、ST-5クラスの様々なチームの方々に、スーパー耐久でPOTENZAのスポーツラジアルタイヤを使うことについての意見をうかがいました。
コメントは概ね好評で、ハンコックのレーシングスリックタイヤよりもグリップがいいというドライバーもいるほど。
ブリヂストンから割り当てられたこの2クラス用のタイヤは、86/BRZレースなどのナンバー付き車両のレースでも指定タイヤとなっていた実績があり、性能的には過不足の無いものだと言えるようです。
公道走行用のタイヤのため、グリップ重視の設計とはいえ、トレッド面には排水のための溝も彫られており、雨の日の走行もできるようにはなっています。
そんなST-4、ST-5クラスにも、SUGO戦ではレインタイヤが割り当てられます。それもしっかりとしたレーシングレインタイヤです。
溝入りのラジアルスポーツタイヤが指定されているこのクラスに、果たしてレインタイヤは必要なのでしょうか?
富士SUPER TEC24時間レースのST-5クラスで優勝した17号車 DIXCELアラゴスタNOPROデミオのエンジニア、メカニックで、自身も37号車 DIXCELワコーズNOPROデミオのドライバーもこなしている野上達也さんに話をうかがうと、「ヘビーウェットではレインタイヤを使います」とのこと。
「スリックタイヤでタイムが落ちそうな路面状況、たとえば、小雨程度ながらウェット宣言がギリギリ出されるような状況なら、ラジアルタイヤでそのまま行けますが、コースに川ができるような路面ではレインタイヤを使います」とも。
「スーパー耐久」のタイヤ指定は、ドライタイヤとレインタイヤの2種類しかありません。これは、FIA GT3車両を使うST-Xクラスから1500cc相当のST-5クラスまで同じ条件となります。
ドライタイヤとしてスリックタイヤを使うST-XからST-3クラスまでは、路面がぬれている状況の場合、競技運営側からウェット宣言が出された場合は、ウェット用のレインタイヤを履かなくてはいけません。
「スーパーGT」などの場合は路面状況に合わせて浅溝、深溝などのレインタイヤが選べますが、スーパー耐久の場合はレインタイヤは1種類のみ。
翻って、今回のSUGO戦でST-4、ST-5クラスの場合は、公道用のスポーツラジアルタイヤのため、ウェット宣言が出ても「直ちに」タイヤを交換するということはなく、むしろ浅溝レインタイヤの用途までは、そのまま走れてしまうと言われていました。
ST-4クラスでGR86を走らせているあるチームでは、「ドライタイヤとして使うPOTENZA RE-12Dのウェットでの適用範囲が、スリックタイヤに比べるとかなり広すぎて、どのタイミングで交換するのがいいかの判断が難しい」とも語っています。
7月8日午前中に行われた、スーパー耐久参戦車によるフリー走行では、第3コーナー立ち上がりや6番ポスト前などでは川になるような路面でしたが、そこまでのヘビーウェットであればレインタイヤを装着する必要があるとも。
SUGO戦は、現段階でスリックタイヤが用意できないための暫定措置としての、公道用スポーツラジアルタイヤでの参戦でしたが、それゆえの難しさが露呈してしまった形でもあったのです。
なお、決勝は午前のGr.2、午後のGr.1のレースともに、ドライコンディションだったためにレインタイヤの出番がありませんでした。が、やはりそこは耐久レース。5時間レースなどでは急激な天候の変化もあり、レインタイヤはいつでも出番が来てもいいように準備だけは行われていました。
現地サーキットやYouTubeなどでスーパー耐久をご観戦の場合は、ウェット時のタイヤ交換のタイミングもチェックしてみてください。エキサイティング度も増し、楽しいと思います。
(写真・文:松永 和浩)
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https://supertaikyu.com/news/20230424a.html
朝鮮日報日本語版 韓国ハンコックタイヤ工場で大規模火災、タイヤ21万本焼失…工場完全ストップ
https://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2023/03/14/2023031480030.html