■夜間のドライブを安全にしてくれるはずのALH!
前回はCX-60のi-ACTIVSENSEが持つ前後ランプまわりおよびアダプティブ・LED・ヘッドライト(ALH)の持つ機能の概要について解説しました。
今回はいよいよそのALHの実践編。
●周囲状況の認識精度が高いALH
前回のおさらいで、ALHは以下の機能を持っています。
1.グレアフリー(防眩)ハイビーム
ハイビーム時、前車や、反射すると眩しい標識への、照射を減光する。
2.マーキングライト
ロービーム時は歩行者をハイビームで照射し、ハイビーム時は歩行者への照射光を点滅させる。
3.ワイド配光ロービーム
ロービームの照射範囲を拡大する。
4.ハイウェイモード
高速走行時、ヘッドランプの照射角度を上に向ける。
前回載せたのと同じ、作動速度域を示すグラフとALH操作を示す写真を再度載せておきます。
先にお断りしておくと、今回のリアル試乗でCX-60を選んだのは、「ロービーム時は歩行者をハイビームで照射し、ハイビーム時は歩行者への照射光を点滅」させるマーキングライト機能がどれほどのものかを試したかったためなのですが、「自車と衝突する可能性がある歩行者」が都合よく(?)現れなかったのと、そもそも現れても困るわけで、擬似的に試そうとしたのですがうまいシチュエーションが見つからず、断念しました。
したがって、今回の解説はマーキングライトを除く3機能についてとなります。
●実践・ALH!
さておき、住宅路を含む市街地、高速路、山間道のあらゆるシーンで試してみましたが、このALHはよく機能していました。
住宅路や市街地で先行車や対向車の存在をキャッチしても、青いハイビーム灯は緑のALHランプとともに点灯しっぱなしで、前のクルマや対向車のドライバーに幻惑を与えている様子はなさそうでした。「なさそう」なのは、本当のところはクルマを降り、ドライバー個々に尋ねなければわからないためです。
「オヤッ」と思ったのは、街頭が少なめの住宅路ではロービームの光量がやや他車に比べて落ちるかなということです。たぶん光の全体量は不足ないのに、広い車幅のハシから光が広範囲に散らばるゆえに落ち気味に感じるのと、そもそも筆者が日ごろ使っている自前のクルマは、思っていた以上に暗かったハロゲン球から、思っていた以上に明るい市販LEDに変えているため、顕著に感じたのかも知れません。気づくひとは気づくでしょうが、気づかないひとは気づかないままでしょう。このへん、ひとそれぞれだと思われます。
斜め先の照射に配慮が少ない国産車が多い中、さきに述べた光るビー玉ランプのワイド配光ロービームは、斜め前方をきちんと照らしています。ただ、もうちょい明確な明るさであるとありがたみが増すと思いました。現状は明るさがやや中途半端に感じます。
他社のこの種のランプと同様、点灯が約40km/h未満にとどまるのも理解できないところで、どのクルマも斜め前方の視界アシストを夜の住宅路と山間道に重点を置いているようです。筆者はどこをいかなる速度で走るのであれ、ドライバーから180度、できりゃあ180度プラスアルファの範囲を照らすべしと思っている人間なので、約40km/h未満という速度制限を廃し、高速路でも点灯させてほしいと考えています。車速制限は法規的制約かと思って保安基準を調べてみたのですが、それらしい規制は見当たりませんでした。
ターンシグナルを点滅させた側の進行先を専用のランプで照らすコーナーリングランプを、日本で最初に導入したのはマツダルーチェレガートの最上級機種ですが(1977・昭和52年)、その老舗としてか、CX-60のワイド配光ロービームは停車時でもターンシグナルを入れれば点灯します。「停車時」の条件を入れてくれたおかげで、交差点での信号待ち時点で進行先が見えるようになるわけ。つまりはコーナーリングランプと同じです。
高速道路も都市寄りでは道路照明が豊富ですが、郊外に入ったとたん少なくなるばかりか、皆無になる区間すらあるものです。ここでは当然、車線変更で移りたい先のレーンだって暗くなる・・・このランプを停車時のターンシグナルで灯す考えがあるなら、高速路or幹線路での車線変更に配慮し、ターンシグナル点滅による点灯だけはいっそ車速とは無関係にしてほしいところで、ここでも車速制限をかけることへの疑問がふたたびチラつきます。このようなシーンでもワイド配光ビームが光ってくれれば存在意義は大いに高まるでしょう。
その高速走行は、毎度おなじみ関越自動車道の練馬ICから沼田ICまでの区間で試していますが、高崎ICあたりまでの区間では、ハイウェイモードの働きは控えめです。いや、ALHがサボっているのではなく、ビームの形状が変わっていることはわかるのですが、道路照明が多くなったり少なくなったり、周囲にクルマがあったり・・・何かしらの光が常に存在する場では光の形の変位量が少ない(のだと思う)ため、働きが控えめに見えるのです。光のうごめきがはっきりわかるのは高崎ICから先で、道路照明がなくなる区間に入るとALHが積極的に動きます。
暗闇を淡々と走っているときに横をクルマが通り過ぎると即座にロー寄りに落とす。はるか先のカーブから対向車光が見え隠れし始めればすぐさまロー気味に・・・その間も青いハイビーム灯は点きっぱなしなので、ロー以上ハイ未満の光で正しい配光を行っていることがわかるというものです。
プロジェクターランプが上下するのは運転視界からはっきりわかりますが、「まぶしい標識への照射を減光」は、取扱説明書の記述ほどの効果は感じませんでした。以前試したトヨタ系のクルマのような、「看板のほうがハイビームを放っているのではないか」と思うほどの眩しさではないものの眩しくないわけでもなく・・・まだどっちつかずの域にあることは否めません。
この種のランプの本領発揮はやはり山間道。
いつも試す群馬県赤城山でALHはフル稼働してくれました。
料金所跡とその次のクランクを通過すると、目を開けていても閉じている気分になる真っ暗闇のエリアにまず突入するわけですが、ここではいきなり最大限のハイビームに切り替わります。試しにALHをOFFにし、手動ハイビームにしても明るさが変わらないのがその証拠。筆者は結構なスピードで登っているつもりでいたのですが、実際には40km/h以下で走っているらしく、ワイド配光ランプもほとんど点灯を続けていました。
前方車両の把握も敏感で、カーブ先から対向車が現れれば即ローに落とし、すれ違えばまたハイに。月が見えていてもその光さえ吸いこんでしまうような暗がりでは、住宅路で感じたローの光量の落ち気味(光量不足ではない)は感じませんでした。
ワイド配光ランプはカーブの先をよく照らしますが、ここでももうちょい光が強ければと思ったのと、右カーブ先を大きめサイズの右ドアミラーが邪魔をしていました。ドアミラーのサイズを採るか、いっそフェンダーミラーにしてサイド視界を最優先するか・・・いまのところ功罪相半ばとなっています。
●マツダのALH、そして国産全LEDライト車への要望あれこれ・・・
全体的によく出来たALHだと思います。
LEDライトは点消灯の「パッ、パツ」が早すぎ、人間の目の生理に合わず、じんわり点消灯できないかと書いていますが、先般採り上げたダイハツ車に続き、マツダ車もじんわり型になっていました。リアル試乗でまだ採りあげていない日産車、SUBARU車はどうだろう。加えてCX-60では、ターンシグナルも電球時代を模した点消灯をします。
ただ、ワイド配光ランプだけはパッと点灯してくれたほうがいいと思います。というのも、このランプの点灯は運転視界の端でわかるため、正面を見ているときは、じんわり点灯ではわかりにくいものでした。
ここから先は、他のクルマでも共通する要望点。
夜、エンジンを始動するなりライトが点灯するのは相変わらずです。
したがって、先にクルマに乗り込んでエンジンをかけ、後から来るひとを空調を効かせて待つときなど、いちいち消す操作が必要になります。新オートライト規制の主旨は「走行中に消灯できない構造であること」であり、何も「夜のエンジン始動時は即点灯」を求めてはいません。シフトPを外してから、または車速0km/h超で初めて点灯でも問題はないはずです。
それとは別にもうひとつ、これは保安基準を司る監督官庁への注文。これを文字で書くと「何だ、そのていどのことか。」と思うひともいるでしょうが、「あるある、そんなとき。」というドライバーは多いのではないでしょうか。
俗にヘッドライトのことを「目玉」といいますが、まさに「目は口ほどにものをいい」で、ライトの点消灯を他車への合図に使うことがあります。
車道に出ようとしているクルマ、ターンシグナルを灯しながら車線変更のタイミングをうかがっているクルマ・・・彼らに道を譲ろうとするとき、その意思表示をいったんライト消し(=スモール落とし)のパッシングで行うひとがいますが、いまはそれができない道理です。
走行中でもライト消灯をある一定時間だけ許し、その時間が経過したら再点灯をするくらいの柔軟さはあってもいいのではないか。その時間が3秒なのか5秒なのかの議論は要るでしょうが、いまは保安基準を守ろうとするあまり、とにかく夜は「ライト! ライト! ライト!」の一辺倒で、クルマが使いにくいものとなっています。
それもこれもライト点け忘れのクルマが多いためです。確かに無灯火のクルマは多く、そりゃあ義務化の流れになるわなあとも思います。
無灯火といえば自転車の無灯火も警察は何とかしろよ。
同時に、いまどきペダルに負担をかけなくとも発電&点灯するライトや、太陽電池で後部リフレクターを赤く灯すランプがあるのに、これらをすべての自転車につけずに販売しているのは自転車メーカーの怠慢だと思っています。
話を戻して。
機能面でいいことずくめに見えるLEDランプは価格以外にもデメリットはあり、夜の雨天下走行では、濡れて黒に変わったアスファルトが光を吸収してしまい、黄色味がかったハロゲン光の場合よりも視界が劣るのは白LEDの弱点です。前方ビームはもとより、交差点でのワイド配光ランプは点灯させても点けていないのと同じくらい光が弱い。
いまのところ、保安基準では、「ライト光は白または淡黄色」と定められてはいても、「光の色を変えてはならない」とはなっていません。ならば晴れの日は白、ドライバー任意かワイパー連動でハロゲン色に変わるようにしてもいいのでは・・・筆者は自動車用ライトのLED化に反対する者ですが、光の色を自在に変えられるLEDにしかできない工夫があればありがたいと思います。筆者のような素人が思いつくならプロはとっくに気づいているはずで、タッグを組んだどこかの自動車メーカーとどこかのランプメーカーが、いずれ実現してくれることを望みます。
ではではライト編2部作はここまで。
お次は「車庫入れ編」で。
(文・表:山口尚志 モデル:星沢しおり 写真:山口尚志/モーターファン・アーカイブ )
【試乗車主要諸元】
■マツダCX-60 XD-HYBRID Exclusive Modern〔3CA-KH3R3P型・2022(令和4)年8月型・4WD・8AT・ロジウムホワイトプレミアムメタリック〕
★メーカーオプション
・ドライバー・パーソナライゼーション・システムパッケージ 5万5000円(消費税込み)
・パノラマサンルーフ 12万1000円(同)
・ロジウムホワイトプレミアムメタリック特別塗装色 5万5000円(同)
●全長×全幅×全高:4740×1890×1685mm ●ホイールベース:2870mm ●トレッド 前/後:1640/1645mm ●最低地上高:180mm ●車両重量:1940kg ●乗車定員:5名 ●最小回転半径:5.4m ●タイヤサイズ:235/50R20 ●エンジン:T3-VPTH型(水冷直列6気筒DOHC24バルブ直噴ターボ) ●総排気量:3283cc ●圧縮比:15.2 ●最高出力:254ps/3750rpm ●最大トルク:56.1kgm/1500~2400rpm ●燃料供給装置:電子式(コモンレール) ●燃料タンク容量:58L(軽油) ●モーター:MR型 ●最高出力:16.3ps/900rpm ●最大トルク:15.6kgm/200rpm ●動力用電池(個数/容量):リチウムイオン電池 ●WLTC燃料消費率(総合/市街地モード/郊外モード/高速道路モード):21.0/18.0/21.2/22.4km/L ●JC08燃料消費率:- ●サスペンション 前/後:ダブルウィッシュボーン/マルチリンク ●ブレーキ 前/後:ベンチレーテッドディスク/ベンチレーテッドディスク ●車両本体価格:505万4500円(消費税込み・除くメーカーオプション)