SクラスのBEV! EV専用プラットフォームを使った3列シートSUV【メルセデス・ベンツEQS SUVとは?】

■メルセデス・ベンツ電動車の歴史/本格的に始まったのは2019年のEQCから

メルセデス・ベンツは初代Aクラスで、フロア下にバッテリーを収められるサンドイッチ構造というプラットフォームを採用し、EV化への発展を模索しましたが、大きな成果とはなりませんでした。

その後、グループ内のスマートを使って、スマートフォーツーエレクトリックドライブなどを製造、北米でも少ない台数のEVを製造しましたが、これも大きな波とはなりませんでした。

2019年/EQC
2019年/EQC

メルセデス・ベンツのEVが本格化したのは2019年に登場したEQCからです。とはいえ、EQCはGLCのプラットフォームを発展させたものを採用したモデルでした。その後、商用モデルのEQVを本国で発表。

2021年にはEQAとEQBそしてEQSを発表。2022年にはEQEを発表。そして、今回試乗したEQS SUV、EQE SUVへと続きます。

「EQ」というブランドネームはメルセデス・ベンツの電動テクノロジーに冠するものですが、今後、電動が当たり前になってくると、EQのブランドネームは使われなくなるという噂もあります。

●メルセデス・ベンツEQS SUVの基本概要 パッケージング/電動車専用プラットフォームのEVAを採用

EQS SUVのプラットフォームは、EQSやEQE SUVと同じく、EVA(Electric Vehicle Architecture)と呼ばれるもので、EQCのようにエンジンが搭載されることも想定しているモデルとは異なります。

EQS SUVのフロントスタイル
EQS SUVのフロントスタイル

EQS SUVのホイールベースは3210mmで、セダンタイプのEQSと同一。EQE SUVよりも180mm長いホイールベースを持ちます。ボディ全長は5130mm、AMGラインパッケージを装着した場合は5135mmです。全幅は2035mm、全高は1735mmです。

EQS SUVの3列シート
EQS SUVの3列シート

最大の特徴とも言えるのが3列シートで、7名の乗車定員を持つことです。サードシートの座面-ルーフの寸法は900mmが確保されています。

EQBではサードシート乗員の安全性の確保のために、乗員の身長は165cmまでという制限が設けられていましたが、EQS SUVではサードシート乗員の身長制限はありません。EQBの座面-ルーフの寸法は870mmでわずか30mmの差ですが、ルーフサイドなどとのクリアランスの関係もあるのでしょう。

EQS SUVの駆動系配置透視図
EQS SUVの駆動系配置透視図

EV専用プラットフォームということで、バッテリーは床下に配置されます。EQS SUVは4WDなので、モーターは前後に配置されます。フロントセクションは大きくスペースが空きますが、ここにはA2用紙(420×594mm)大のHEPAフィルターを設置。

サッカー場約150面分の面積に相当するという微細粉塵フィルターによって、PM2.5~PM0.3 クラスの微粒子(粒径2.5μm 以下)含め、粒子状物質を最大99.65%以上除去することができるといいます。

ラゲッジルーム容量は、定員乗車時で195リットル。セカンドシートが前後130mmのスライドが可能なため、50対50分割のサードシートを左右共に収納した場合、最小で645リットル、最大で880リットルのラゲッジルーム容量を確保。セカンドシートを倒せば、最大2100リットルのラゲッジルームを確保できます。

●メルセデス・ベンツEQS SUVの基本概要 メカニズム/500kmを超える一充電走行距離を誇る大容量バッテリーを採用

EQS_SUVの充電口。もちろんCHAdeMO対応
EQS_SUVの充電口。もちろんCHAdeMO対応

EQS SUVは床下にリチウムイオン電池を搭載、前後車軸にモーターを配置する4WD方式の電動EVです。現在、日本で販売されているモデルは、標準タイプとなるEQS 450 4MATIC SUVと、ハイパワーモデルのEQS 580 4MATIC SUVスポーツの2種があります。

EQS 450 4MATIC SUVの駆動用バッテリーは、グレードに関わらず107.8kWh。フロントモーターは450が88kW/260Nm、580が135kW/290Nm。リヤモーターは450が178kW/540Nm、580が265kW/568Nmです。

WLTCモード電費は450が221Wh/km、580が225Wh/km。一充電での走行可能距離は、450が593km、580が589kmです。

回生ブレーキはパドルスイッチによって3段階に調整可能ですが、さらにインテリジェント回生というモードが用意されています。インテリジェント回生は、状況に応じて回生力を調整するモードで、普通に走っている状態ならこのインテリジェント回生が一番使いやすいモード。

特に、ACCを使って走っているときにインテリジェント回生としておけば、車間距離を調整しつつ停車に至るまで追従し続けるのは、日本のように渋滞の多い状況では使いやすいものとなっています。

ボンネットの中には巨大なフィルターが装備される
ボンネットの中には巨大なフィルターが装備される

前後に独立したモーターを持つ4WDシステムは、それぞれのモーターへのトルク配分を毎分1万回の頻度でセンシングし、理想的なものとしています。走行モードや回生モードの選択によって、エネルギー効率を生かす、回生電力を最大に確保する、トラクションや加速を重視する、雪道や凍結路面である、オフロード走行である、といった状況に合わせた駆動力配分が行われます。

ボンネットオープナーは備えず、ワイヤーがむき出しで車内にあるだけ
ボンネットオープナーは備えず、ワイヤーがむき出しで車内にあるだけ

サスペンションはフロントが4リンク、リヤがマルチリンクです。ドイツ勢の4リンクは、ダブルウィッシュボーンの上下AアームをそれぞれIアームとして独立させたもので、リヤサスに使われることが多い4リンクの固定式サスとは異なるものです。

スプリングは金属バネではなく、空気バネが用いられます。この空気バネ方式を採用したことで乗員数や荷物の重さに関係なく、姿勢が一定に保たれるセルフレベリング機構が働きます。

コンフォートモードとスポーツモードでは110km/h以上の高速走行時には10mm、または15mm車高をダウンし空気抵抗低減するとともに、操縦安定性を向上。車速が落ちて80km/h以下となると、元の車高に戻ります。

また60km/h以下では、ボタン操作により車高を25mmアップすることも可能。この車高アップ時も速度が70km/h以上になると、車高はデフォルト状態に戻ります。

低速時はリヤタイヤが逆位相に10度切れ、最小回転半径を短縮する
低速時はリヤタイヤが逆位相に10度切れ、最小回転半径を短縮する

3210mmという長いホイールベースながら、最小回転半径を縮めるため、リヤタイヤが逆位相に10度ステアするリアアクスルステアリング(4WS)も採用。最小回転半径は5.1mと、かなり小回りの効く設定となっています。


●メルセデス・ベンツEQS SUVのデザイン/キャブフォワードレイアウトと各所にちりばめられたスリーポインテッドスター

EQS_SUV真正面スタイル
EQS_SUV真正面スタイル

EV専用プラットフォームを採用したEQS SUVは、運転席を前に配置したキャブフォワードデザインを採用。フロントまわりでは、左右のヘッドライトをライトバンドと呼ばれる細いイルミネーションで連結されています。従来、グリルが存在した場所にはブラックパネルを装着、センターには大きなスリーポインテッドスターが配置されます。

EQS_SUVの真横スタイル
EQS_SUVの真横スタイル

サイドビューは、緩やかな傾斜を持つAピラーと、ルーフから流れるようにリヤスポイラーへと続くラインがエアロダイナミクスの良さを感じさせます。リヤスポイラーはブラックで、サイドビューでの車高を低く見せるのに役立っています。

ホイールは20インチまたは21インチと大径。ホイールのデザインも、空力特性を重視したものです。ドアミラーはエアロダイナミクスとエアロアコースティスク(空気音響学特性)を高めるため、ベルトラインからアームが伸びる配置となっています。

EQS_SUV真後ろスタイル
EQS_SUV真後ろスタイル

フロント同様に、リヤも左右のコンビランプがライトバンドで連結されます。フロントとは異なり、赤いライトバンドで、従来からよく見られるガーニッシュに似たものとなっています。真後ろから見ると、よりウエストラインより上が絞られたシルエットであることがわかり、どっしりと落ちついたフォルムを感じられます。

EQS_SUVのインパネ
EQS_SUVのインパネ

インテリアは、セダンのEQSと共通性のあるもので、EVらしさを強調したものとなっています。インパネは3枚の高精細パネルで構成され、ダッシュボード全体を1枚のガラスで覆うワイドスクリーンとされていて、非常に未来感を感じるものです。

左右のエアコンアウトレットは、ジェットエンジンのタービンのような形状を採用。センターコンソールのフロントセクションはダッシュボード連結、リヤセクションは宙に浮いたような構造として、フロアトンネルが不要なEVであることを演出しています。

●メルセデス・ベンツEQS SUVの走り/重量級モデルだからこその快適な乗り心地は3列目シートでも実現

EQS_SUV走りのイメージ
EQS_SUV走りのイメージ

試乗車は、標準タイプの450で3トンに迫ろうかという車重。前後モーターを統合したシステム最高出力は360ps、システム最大トルクは800Nmです。

アクセルを踏んだ際のグッと前に押し出す感覚はEVらしいもので、ストレスなく力強い加速を得られます。欧米系スポーツEVほどの爆発的加速ではありませんが、3トンの質量がグイグイ加速していく様子はかなりの迫力です。

2m超えの全幅、5m超えの全長をもつボディを都内で試乗するのはちょっとストレスがあるかな?と思ったのですが、意外なほどにボディの見切りはよく、大きさを感じることなく走れます。キャブフォワードでドライバーズシートが前方にあること、Aピラーの角度などがいい方向に働いているのでしょう、首都高の料金所などでも不安なく通過できました。

EQS_SUVのフロントシート
EQS_SUVのフロントシート

エアサスと聞くと、ちょっとブワブワした落ち着きのない乗り心地を想像しがちですが、そんなことはまったくありません。乗り心地はフラットでしっかりしています。

軽い車重のクルマを空気バネで支えようとすると、空気圧を低くしなければなりませんが、クルマが重いと空気圧を上げることが可能です。そこのバランスが取りやすいのでしょう。車重が重いほどエアサスとの相性がいいといつも感じます。

このしっかりしたエアサスのおかげで、コーナリングも安定したもの。試乗コースが首都高と一般道でしたが、グッと踏ん張る感じのコーナリングは十分に感じられました。

EQS_SUVのセカンドシート
EQS_SUVのセカンドシート

アクセルを緩めた時の回生力は、ステアリングに装備されたパドルスイッチで調整可能。強弱、オフの他に、インテリジェント回生というモードがあり、それを選ぶとACC走行時などは追従から停止までをオートで行います。通常の走行ではインテリジェント回生を選んでおけばストレスなく走ることができるでしょう。

EVならではの走行方法としてワンペダル走行がありますが、EQS SUVもワンペダル走行が可能です。通常では、アクセルをオフにしてもAT車のクリープモードのように惰性走行を続けますが、車両設定でクリープをオフにすればワンペダルモードで走ることが可能(回生無しでは不可)です。

ただし、一時停止時などはブレーキペダルを踏んでブレーキランプをしっかりと点灯させないと、一時不停止で取り締まりを受ける可能性があるので注意が必要です。

EQS_SUVのサードシート
EQS_SUVのサードシート

乗り心地はフラットで快適です。クルマは軽いほどいいと言われることが多いのですが、それは運動性能に限った話であって、乗り心地となると車重は重いほどいい方向に働きます。

ロールス・ロイスのたぐいまれなる乗り心地には、その車重も大きく影響しています。EQS SUVはそのロールス・ロイスよりも重い車体であり、さらに床下にバッテリーを積んでいます。床下バッテリーは重心高を下げるとともに、遮音などの効果も発揮するので、静粛性も含めた乗り心地のよさを実現します。運転席はもちろん、サードシートに乗っても乗り心地は快適でした。

EQS SUVのステアリングまわり
EQS SUVのステアリングまわり

サードシートへの乗り込み時は、セカンドシートが電動で前方に移動するので楽々と行えるのですが、この際にスペースを確保するため、フロントシートも前傾してスライドします。

先にフロントシートに乗ってしまうと、電動シートに押しつぶされるようになるため、サードシート使用時は、まずサードシートに乗ってから、2列目、1列目と順番に乗っていく作法が必要になります。


●メルセデス・ベンツEQS SUVのラインアップと価格/日本で販売されるグレードは4WD仕様が2種

EQS SUVのフロントスタイル
EQS SUVのフロントスタイル

EQS SUVは、システムトルク800NmのEQS 450 4MATIC SUVと、同858NmのEQS 580 4MATIC SUVスポーツの2タイプが用意されます。どちらも搭載されるモーター、バッテリーは同一となっています。一充電走行距離はEQS 450 4MATIC SUVが593km、EQS 580 4MATIC SUVスポーツが589kmとなっています。

価格は、EQS 450 4MATIC SUVが1542万円、EQS 580 4MATIC SUVスポーツが1999万円です。

タイヤサイズは、EQS 450 4MATIC SUVが265/50R20、EQS 580 4MATIC SUVスポーツが275/45R21が標準で、EQS 450 4MATIC SUVも21インチをオプションで選べます。

また、AMGラインのエクステリア、MBUXハイパースクリーン&ARヘッドディスプレイ&アンスラサイトライムウッドセンタートリムも、EQS 580 4MATIC SUVスポーツに標準、EQS 450 4MATIC SUVにオプションです。

●メルセデス・ベンツEQS SUVのまとめ/100万円オーバーの優遇が受けられる税の減免と補助金制度

EQS SUVリヤスタイル
EQS SUVリヤスタイル

5mを超える全長、2mオーバーの全幅、3トンに迫ろうかという車重と、圧倒的なボディサイズを持つEQS SUVは、住環境や生活環境に大きく影響されるモデルです。国産車のなかではかなり大きなモデルとなるランドクルーザー300ですら、ボディ全長は5m以下、全幅は2m以下なので、EQS SUVの大きさがかなりのものであることがわかるでしょう。

リアアクスルステアリング(4WS)のおかげで、最小回転半径はかなり小さくなり小回りは効くのですが、絶対的なサイズは小さくなりませんので、ボディサイズについてはある程度の覚悟は必要です。

約1500万円と約2000万円のクルマですが、税金の減免や補助金も大きな額が適用されます。東京都と愛知県を除く各道府県では、環境性能割が非課税、重量税が免税、登録翌年度の自動車税が75%軽減で44万1900円の減免で、さらに国の補助金が68万円支給されるので、112万1900円の優遇。

東京都と愛知県の場合は、自動車税が5年間免除となるので、合計で122万8400円の優遇です。

また、東京都在住で個人の場合、V2H導入で上限50万円まで補助、V2H導入+太陽光発電システム、対応車両購入が揃えば100万円の補助も受けられます。

CHAdeMO方式で、V2Hにも対応している
CHAdeMO方式で、V2Hにも対応している

EQS SUVは保証関係の充実が素晴らしく、新車購入から5年間または10万kmのいずれか早い方まで「EQケア」が適用されます。EQケアは一般保証修理と定期メンテナンス(点検整備の作業工賃・交換部品)、24時間ツーリングサポートが無償で提供される保証プログラムです。

高電圧バッテリーについては10年または25万km以内で、サービス工場の診断機により高電圧バッテリー残容量が70%に満たないと診断された場合に保証されるとのことで、バッテリー劣化を心配することなく乗ることができるでしょう。

試乗車はAMGライン装着車で21インチのタイヤ&ホイールが装着されていた
試乗車はAMGライン装着車で21インチのタイヤ&ホイールが装着されていた

EQS SUV購入には、乗れる環境であること、イニシャルコストが掛かること、という2つの大きな壁が存在しますが、それを乗り越えれば保証も充実しているので、少なくとも5年間はあまりコストを掛けずに乗ることができるでしょう。

気になるのは、5年後のリセールバリューで、EVがまだ黎明期にあるだけに、そこがはっきりしないところが大きなネックとなっています。

(文・写真:諸星 陽一)

【主要諸元】

●メルセデス・ベンツEQS 450 4MATIC SUV(〈 〉内はEQS 580 4MATIC SUVスポーツ)

・寸法
全長×全幅×全高(mm):5130〈5135〉×2035×1725
ホイールベース(mm):3210
トレッド 前/後(mm):1670〈1665〉/1680
車両重量(kg):2880

・フロントモーター
タイプ:交流同期電動機
最高出力(kW/rpm):88/3206〜13874〈135/5344〜8851〉
最大トルク(Nm/rpm):260/0〜3206〈290/0〜4340〉

・リヤモーター
タイプ:交流同期電動機
最高出力(kW/rpm):178/3183~13772〈265/5198~8786〉
最大トルク(Nm/rpm):540/0~3183〈568/0~4340〉

・走行用バッテリー
タイプ:リチウムイオン
総電圧(V):396

・交流電力消費率(WLTCモード、Wh/km):221〈225〉

・シャシー
サスペンション(F/R):4リンク(ダブルウィッシュボーン)/マルチリンク
タイヤサイズ:205/50R20〈225/45R21〉
ブレーキタイプ(F/R):ベンチレーテッドディスク/ベンチレーテッドディスク

この記事の著者

諸星陽一 近影

諸星陽一

1963年東京生まれ。23歳で自動車雑誌の編集部員となるが、その後すぐにフリーランスに転身。29歳より7年間、自費で富士フレッシュマンレース(サバンナRX-7・FC3Sクラス)に参戦。
乗って、感じて、撮って、書くことを基本に自分の意見や理想も大事にするが、読者の立場も十分に考慮した評価を行うことをモットーとする。理想の車生活は、2柱リフトのあるガレージに、ロータス時代のスーパー7かサバンナRX-7(FC3S)とPHV、シティコミューター的EVの3台を持つことだが…。
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