■CX-60・ディーゼルハイブリッドの走りを見る
リアル試乗・CX-60の第2回目は走り編。
CX-60をいつものルート、いつもの走り方で使うと果たしてどのようなキャラクターを見せてくれるのか?
●懐疑心はどこへやら。驚いた仕上がりの6気筒ディーゼルハイブリッド!
ぶったまげました。
CX-60のハンドルを握り、筆者がまず感嘆したのは、新開発6気筒ディーゼルエンジンと8速オートマチックトランスミッションの仕上がりです。
トラック的・音がうるさい・瞬発力がない・振動が多い・黒煙もくもく・アンダーパワー・・・ここ20数年の間にクリーンディーゼルと謳って販売されたいくつかのディーゼル車は、排気ガスがクリーンではあっても、かつてのディーゼルについてまわったこれらネガティブ要素のすべてを消しきれてはいませんでした。それを知っていたので、筆者もCX-60に「どれほどのもんかいね」と懐疑心を抱いていたのですが、乗れば「ディーゼルもここまできたか!」とびっくりのしどおしで、CX-60の直列6気筒のターボ付ディーゼルは、これら欠点をほぼ完全に解消していました。
驚いたのはまず音の静かさで、音止めを相当入念に行ったのか、アイドリング時に聞く室内でのエンジン音にディーゼルの音質はほとんどなく、ディーゼルであることを忘れさせます。ガソリン車に対して劣っているのが通り相場だった、出足やアクセルワークに対する瞬発力は、モーターアシスト分はあるにしても、走り始めればディーゼル車なのかガソリン車なのか判別がつかなくなるほどで、黙ってひとを乗せたり運転させたりすれば、彼or彼女はガソリン車だと思い込んだまま目的地に着くことでしょう。
新開発・直列6気筒DOHC・ターボ付24バルブT3-VPTHディーゼルエンジンの最大出力は254ps/3750rpmにして最大トルクが56.1kgm/1500~2400rpm、モーター側が16.3ps/900rpmの15.6kgm/200rpmで、単純にこれらを足せばいいわけではないのでトータル性能は知りようがありませんが、街乗りでも高速路でもその動力性能は、ほんとお世辞じゃなく、スポーツカーそのものでした。
よく切れる包丁だって正しく使えば怪我はしないし、切れない包丁だってやりそこなえば手を切る・・・ほどほど出力のゆっくり走行を安全と履き違え、周囲状況おかまいなしにのらりくらりと走り続けるクルマをよく見かけますが、これはこれであぶないものです。「高出力=危険」と短絡的に考えるひとがいますが要は使いようなわけで、筆者はこの高出力っぷりを振りかざすのではなく、幹線路での追い越しの時間短縮におおいに役立てました。
筆者はクルマの群れから離れ、常に単独で走りたいと考えている者です。実際にはそうはいかないことのほうが多いのですが、周囲が空いていることを見計らい、アクセルを踏み込めば、お隣り車線のクルマを尻目に追い越しを短時間にやり過ごすことができる。これは高出力車の強みです。その加速性能たるや、羽根をつけたら離陸するんじゃないかと思うくらい・・・なんだかスポーツカーの印象を書いているようですが、実際この感触は、以前乗った、末期時代の336ps旧フェアレディZとまったく同じでした。これをディーゼルでやってのけるのだから、広島県のマツダさんもやってくれたもの。発明したドイツのルドルフ・ディーゼルさんもさぞかし「よくやってくれた」と喜んでいることでしょうよ。
●MT車並みのダイレクト感がある湿式多板クラッチの8AT
走りがやけに小気味いいのは、トランスミッションもおおいに関係しています。筆者は、「クルマはエンジンだけで語るのは短絡的で、トランスミッションとの組み合わせで走る」と何かのリアル試乗で書きましたが、CX-60はそれを証明しています。いまのところ6気筒ディーゼルとともにCX-60専用となる新開発8速ATではトルクコンバーターをやめ、トランスミッションへの動力伝達を湿式多板クラッチに徹していますが、それが効いて、マニュアル車の乾式クラッチ並みのダイレクト感があります。
発進をトルコンから湿式多板クラッチに置き換えたものには、ホンダのミラクルシビック(6代目)、ロゴや初代フィットに前例があります。時代もメーカーも異なるのを承知でフィットを例にすれば、湿式多板クラッチは、ブレーキペダルの開放からクリープ前進までの間に一拍置く空白時間があり、動力伝達&発進に不自然感がありました。それを知ってか知らずか、どうやらCX-60ではこの湿式多板クラッチの油圧コントロールをよほど緻密に設計したようで、発進時、ブレーキを放せばトルコンのクリープと同じようにじり出るし、発進、加速に定速巡航・・・ダイレクト感を損なうシーンは、ある場面を除いて一切ありませんでした。
「ある場面」とは、減速からアクセルを踏み込んで再加速したいシーンで、ここに一瞬の無反応時間があり、唯一もどかしさを感じる場面でした。
アイドリングストップ(マツダ名:i-stop)スタンバイのときは、信号待ちでなくてもアクセルを放せば即エンジン停止、回生充電が始まり、その作動状態がマツダコネクト画面に表示されます。
図を参照してもらいたいのですが、回生のために湿式多板クラッチ2をつないでいるときは、負荷軽減のため、どうやら1番クラッチ(図参照)をフリーないし抜け気味にしていると思われ、アイドリングストップをOFF(エンジンを停止させない)にしたら無反応時間は発生しませんでした。この空白は、エンジン再始動で1番クラッチの油圧を復帰させるための待ち時間なのだろうと推測しています。他のクルマなら「こんなもんだろ」と気にしないし、気に入らないならアイドリングストップを切ればいいだけの話ですが、CX-60は全体の仕上がりがいいだけに、ここだけが余計もったいないと感じた点でした。坂道発進を助けるブレーキホールド(スロープストッパー)と同様、エンジン停止中も油圧保持させられないかというのはできぬ相談か?
●変速ショックがあるから気持ちいい走り
変速をクルマ任せにするATでも、こと加速時のシフトアップに限り、ドライバーのアクセル加減である程度ギヤを選ぶことができます。希望速度に達した「ここかな?」というところで踏み込みをピタッと止めるか、わずかに戻し気味にするとストンッとシフトアップし、回転計の針はスッと下がります。CX-60ではこの「ストンッ」と「スッ」が実に俊敏で、この小気味よさはCVT車では得られないのはもちろんのこと、いま売られているステップAT車にもない、CX-60だけのものです。むしろ変速ショックがあるから気持ちがいいといいかえてもいい。
筆者は変速ショックの有無に執着はなく、ステップATでショックがあればあったでリズミカルだし、なければないでCVTもいいもんだ・・・要はどっちでもいいと思っているのですが、このCX-60ばかりは変速ショックがあったほうがいい。いや、「ショック:shock」とは好ましくないことに使われる言葉なわけで、ここは快い「変速フィーリング」と呼ぶべきか。とにかくこの感覚は他のクルマでももっと採り入れてもいいのではないかと思います。
もっともこれはせっかち気味に加速するときの話で、落ち着いた加速であれば変速ショック・・・じゃなくて変速フィーリングもおだやか。意識していれば感じる程度のものです。そうはいっても段数が8つともなると、わかるのはせいぜい4速あたりまでで、そこから先はおだやか走行ならフィーリングはほとんど無段変速と似たようなものになります。
音の話に戻して。
経験上、アイドリング時にうるさいディーゼルであれ、静かなガソリン車であれ、走り出して街乗り速度・・・40~60km/hあたりに入ればガソリン車もディーゼル車も騒音のほどはほぼ同等になります。この速度域では、たいていはロードノイズのほうが勝ってくるからです。この点、CX-60も同じでした。
さきほどアイドリング時はガソリン車並みと書いたCX-60のディーゼル音も、速度上昇につれて特有の音が少しずつ顔を出し始めますが、エンジンがロードノイズの向こうで騒ぐようになるこの速度域に達してこそ、ディーゼル本来の音に変わります。ガラガラ音に、高速路で横を通り過ぎるトラック野郎のディーゼルと同じキュラキュラ音・・・文字で書くと、まるでいすゞエルフか三菱ふそう、日野プロフィアのようですが、マツダがえらかったのは、真綿でくるんだディーゼルエンジンが、まるではるか遠くでまわっているかのような音質・音量にしつらえたところです。動力性能も去ることながら、音もよくぞここまでに抑えたもんだ! ここでもディーゼルさんの賛辞が聞こえてきそうです。
と、ここまでは車内での音の話。アイドリング時や駐車場速度で車外から聞くディーゼル音は、早朝・深夜の車庫入れでご近所に気兼ねしないほどの音質・音量にはなっていません。エンジンそのものからの音もかつてより低減していると思いますが、多くは遮音に頼っている印象があり、フードを開け、エンジンを覆う樹脂カバーを開閉したら音量はずいぶん変わりました。
となると街乗り巡航時は傍からどう聞こえているのやら。中でハンドルを握る者にわかろうはずはありませんが、試しにコンクリートの壁ぎわを走りながら窓を開け、跳ね返ってくる輻射音からエンジン音だけ耳ですくうと、従来ディーゼル音とそう変わらないように思えました。このあたり、随時改良されていくでしょうし、改良されなければいけません。
●あれこれ考えさせられた電気式シフト
シフトレバーは、カタログでは「エレキシフト」と呼称する電気セレクト式。
このシフトの操作性には良し悪しが混在していました。
まず良しのほう。
第1回の概要で、各種スイッチの操作感がいいと書きましたが、このレバーも同様で、各ポジションに移したときのクリック感が明快なのがいいところです。ついでにいうと、このレバーのグリップに載せた左手首を軸に、空調パネルも扱いやすくなるのもうれしい副作用でしょう。
次、悪しきのほう。
写真を見ればおわかりのとおり、駐車ポジションPから左にR、手前引きで順次N、Dとなっています。在来のATは、ストレート式なら先端がPであり、先端右寄せがPとなるゲート式ならここはRからPに向かう途中の曲がり角地点です。この慣例からすると、ストレート部の先端にRを置くのはどうにも違和感があり、筆者はPに入れたつもりがRだったという間違いを何度も犯しました。ましてやRを越えたら吸い寄せられるようにPに入るゲート式と異なり、CX-60の場合は意識して動かさなければならない。加えてグリップ向こうのボタンをこちら押ししながら右に移動というのは、左手に「握る」と「右移動」という2方向への同時動作を強要していてよくない。
カタログでは「…一般的なAT車と同様の操作方法としつつ、シンプルなシフトパターンと…」とあり、P-R間の「走行←→停止」を横方向に、R-N-D間の「後退←→前進」を縦方向にしてそれぞれを明確化したと強調していますが、はっきりいってこれはアイデア倒れで、Dからの前方ドン突きがRというレイアウトは、いまのATの慣例と対比して決していいものではないと思います。
そもそも電気式にしたのにもかかわらず、エンジンをかけて前進するのに、PからいったんRを通過してからでないとNやDに入れることができない点で在来のATから脱却していません。だからといって、この並びについてマツダを責めるわけにもいきません。なぜならこの順序はJIS規格で定められているからです。
その規定を記すと…
1.中立位置がある場合には、前進位置と後退位置との間になければならない。
2.中立位置から前進位置への操作における変速レバーノブの移動方向は、フロアシフト式の場合には、自動車の前進方向に見て後方とし、コラムシフト及びインストルメントパネル式の場合には、下方とする。
3.駐車位置がある場合には、シフトパターンの最も端にあり、かつ後退位置と隣接していなければならない。
ほかに、NからR、RからP、PからRへの移動には誤操作防止のための阻止装置が作動しなければならないとしています。つまりはリリースボタンやゲジゲジゲートのことです。
阻止装置はともかくとして、この1~3、これもはっきりいわせてもらえば大きなお世話で、こいつが使いやすい配列を生み出す可能性のあるせっかくのエレキシフトを活かすことができない要因です。
では使いやすい配置とは何ぞや。どうせ電気シフトにするなら、異論はあるでしょうが、筆者が常々考えていた、図のようなレイアウトがいいのでないかと考えました。
NとDは現状のまま、ストレート部の前方またはそこから右移動でP・・・とにかく前方ドン突き位置はRではなく、PかPへの通過点にしたい。
そのRの引っ越し先は、Nから枝分かれにした右寄せの手前引きの位置に。これは動きをマニュアルトランスミッションと同じにしたかったため。
JIS規格の1と2は満たしても3だけは豪快に無視していますが、最近増えつつあるボタン式のシフトは、ボタンの並びは規格どおりでも、PからいきなりD押しができるし、Dから直接Rに入れることだってできる・・・従来のゲートどおりにいったんNを押すやつはいないでしょう。
新型セレナのシフトボタンなんて横並びで、もはやJIS規格2の前方後方の概念なんてあったもんじゃない。そもそもこのJIS規格は電気式なんか存在しない1本レバー時代の操作を前提とした規格なわけで、ボタンシフトのすっ飛ばし操作を認めるなら、従来からのポジション配置だって緩めてくれてもいいんじゃないの?
JIS規格を司る日本産業標準調査会にはそろそろ見直しを図ってもらいたいし、自動車工業会総力を挙げて主張してもいいのではないかと思っています。
もしJIS規定が改まったら、従来の4ATないしCVTも図のようにしていただきたいものです。
ところでそのシフト。ポジション配置はマツダだけではどうしようもないし、たぶん配置を考えたひともJIS規格に対して何とも歯がゆい思いをしたであろうと推察しますが、電気シフトなら流行りの(?)ボタン式にできたはずなのにそれを安易にせず、ひきつづきレバー式を残したことに拍手を贈ります。
いまどのポジションにあるのか、目で見なくても手さぐりでわかるのは、ボタン式ではとうてい不可能な話で、このあたりに「マツダのひと、わかってるなあ」と思わせられたところです。
CX-60でヘンなのは、見なくても位置がわかるのに、レバーのストロークや傾きが小さいため、見たときのほうがどの位置にあるのかわからない・・・これがめずらしいところで、このへん、改良してくれれば「見なくてもわかる」「見てすぐわかる」が両立して使いやすくなると思います。ましてやシフトポジション規定が緩和され、電気シフトを活かした使いやすいポジション配列になればパーフェクトな8ATになるでしょう。走りの感触はいいのだから。
………。
6気筒ディーゼルと8速ATの仕上がりが良かったので、街乗り編は何だかエンジンとトランスミッションの話が多くなり、他の点について書ききれませんでした。
ここらでひとまず区切りをつけることにし、走りの話は次回に続けます。
(文:山口尚志 モデル:星沢しおり 写真:山口尚志/マツダ/本田技研工業/日産自動車)
【試乗車主要諸元】
■マツダCX-60 XD-HYBRID Exclusive Modern〔3CA-KH3R3P型・2022(令和4)年8月型・4WD・8AT・ロジウムホワイトプレミアムメタリック〕
★メーカーオプション
・ドライバー・パーソナライゼーション・システムパッケージ 5万5000円(消費税込み)
・パノラマサンルーフ 12万1000円(同)
・ロジウムホワイトプレミアムメタリック特別塗装色 5万5000円(同)
●全長×全幅×全高:4740×1890×1685mm ●ホイールベース:2870mm ●トレッド 前/後:1640/1645mm ●最低地上高:180mm ●車両重量:1940kg ●乗車定員:5名 ●最小回転半径:5.4m ●タイヤサイズ:235/50R20 ●エンジン:T3-VPTH型(水冷直列6気筒DOHC24バルブ直噴ターボ) ●総排気量:3283cc ●圧縮比:15.2 ●最高出力:254ps/3750rpm ●最大トルク:56.1kgm/1500~2400rpm ●燃料供給装置:電子式(コモンレール) ●燃料タンク容量:58L(軽油) ●モーター:MR型 ●最高出力:16.3ps/900rpm ●最大トルク:15.6kgm/200rpm ●動力用電池(個数/容量):リチウムイオン電池 ●WLTC燃料消費率(総合/市街地モード/郊外モード/高速道路モード):21.0/18.0/21.2/22.4km/L ●JC08燃料消費率:- ●サスペンション 前/後:ダブルウィッシュボーン/マルチリンク ●ブレーキ 前/後:ベンチレーテッドディスク/ベンチレーテッドディスク ●車両本体価格:505万4500円(消費税込み・除くメーカーオプション)