スーパーフォーミュラのレースをもっと楽しむための基礎知識。2023年第5戦 スポーツランドSUGOの「レース・フォーマット」

■アップダウンの中にシビアな中高速コーナーが散りばめられたSUGO
その個性に「SF23」の特性を合わせこむ「鍵」は見つかっているか?

2023年、今年のスーパーフォーミュラ全日本選手権も、全9戦の「折り返し地点」を迎えました。6月中旬の週末、第5戦は、前戦の九州から日本列島を一気に北へ、仙台近郊の蔵王連邦から太平洋に向かって下って行く山並みの中、スポーツランドSUGOを舞台に開催されます。

東北にも梅雨入り宣言が出た後、金曜日6月16日の昼過ぎまでは雨が落ちていた菅生エリアですが、レースが行われる土曜日17日・日曜日18日は晴れの予報。梅雨の切れ間とも言うべき好天の下で、マシンとドライバーのパフォーマンスをギリギリまで引き出して競う戦いを楽しめそうです。

去年のSF・SUGOラウンドのスターティンググリッド。後方列になると最終コーナーからの登り10%勾配にかかるので、タイヤの後ろに転がり止めのチョークを置くのもSUGOならでは。今年もお天気が良いといいのですが。(写真:筆者)
去年のSF・SUGOラウンドのスターティンググリッド。後方列になると最終コーナーからの登り10%勾配にかかるので、タイヤの後ろに転がり止めのチョークを置くのもSUGOならでは。今年もお天気が良いといいのですが。(写真:筆者)

SUGOのコースは山並みの斜面に形作られているがゆえに、あるセクションは上り、その先は一気に下り、その中にタイトな屈曲路、そしてSF(スーパーフォーミュラ)レベルのマシンにとっては中速域ともいえるけれども挙動を作り、安定させるのが難しいコーナーが次々に現れる…という基本的なコースの成り立ちは、4週間前に走ったオートポリスと近いものがあります。

その意味では、オートポリスで経験した車両特性、その走行データを解析して見えてきたセットアップの方向性などは、ここSUGOに向けた車両の準備に、とくにそれぞれのチームのファクトリーで細かなところまで正確に計測しながら組み上げてくる「持ち込みセッティング」に反映されているはずです。

しかし、SUGOの特徴はコース後半の下りセクションに、かなり高い速度を保って、ダウンフォースで車体とタイヤを押さえつけて、一気に曲がるコーナーが続くこと。

バックストレートの先の「馬の背」、その先で最も難しくてリスキーな「SP1&2」〜これは左-左と連続する複合コーナーなので、こんな表現をしますが〜、そこから駆け下ったコースで最も標高が低いところに、旋回内側に向けて路面が傾いていて、俗に言う「バンク」が付いたすり鉢状の中を深く曲がり込む「最終コーナー」。ここでは強烈な遠心力とともに、車両が内傾することでその力の一部がクルマとドライバーにとっては縦に押し下げる力としても働くという、肉体的にも、それ以上にタイヤにとっても、とても厳しいコーナリングがしばらく継続する場所になっています。

そうした、速度域がかなり高い…と言ってもスーパーフォーミュラ級の競走自動車にとっては「中速」と言えるコーナーが、3.6kmの1周の後半に、数は決して多くないけれども次々に現れます。このレイアウトによって、SUGOでのスーパーフォーミュラの最速ラップは、平均速度にしてみると208.5km/h。SFが開催される5つのコースの中では、鈴鹿の218km/hに続く「高速コース」です。

ちなみに、富士スピードウェイは、セクター3のつづら折れ区間があるので最速ラップでも平均速度は202km/h程度。オートポリスはジャスト200km/hというところです。しかもSUGOは1周も他より短いので、ラップタイムは1分あまり。あっという間にマシンが戻ってくる、のと、SF23が22台も走ると「混んでいる」状態になるコースです。

リスキーなコーナーが続くだけに競り合いの中ではアクシデントも起こりやすく、しかもコースサイドのエスケープゾーンが狭い場所も多いので、マシンがクラッシュして擱座、セーフティカー導入となるケースも多い。そこから、「SUGOにはマモノが棲む」と言われるようになっているのですが、さて今戦は…

前戦オートポリスでもアクシデントでコースアウトした車両の撤去、コース整備のためにセーフティカーが導入された。さて、ここSUGOでは…(写真:JRP)
前戦オートポリスでもアクシデントでコースアウトした車両の撤去、コース整備のためにセーフティカーが導入された。さて、ここSUGOでは…(写真:JRP)

戦いの前段階として、SFにとっての中速コーナーでダウンフォースの減少が強目に現れることがはっきり見えてきたSF23を、ここSUGOの後半下りセクションのコーナーに対してどうセットアップするか。各チームのエンジニアとドライバーが、このエンジニアリング課題にどう取り組んできたか、そして短い実走確認の中でどう仕上げ、最終的にどうドライビングするのか。ここが最初の見どころと言えるでしょう。

サーキット現地ではこんなふうにマシンセッティングの微調整と確認を行う。タイヤでは変形するので車軸からの高さを合わせ、計測用の面を設けた「アライメントホイール」をこの用途のために製作して装着。4輪を一平面になるように床からの高さを合わせた台の上に荷重計を載せ、そこに車両を乗せる。上のアルミ棒材はそこから車体各部の高さを測る基準。(撮影:筆者)
サーキット現地ではこんなふうにマシンセッティングの微調整と確認を行う。タイヤでは変形するので車軸からの高さを合わせ、計測用の面を設けた「アライメントホイール」をこの用途のために製作して装着。4輪を一平面になるように床からの高さを合わせた台の上に荷重計を載せ、そこに車両を乗せる。上のアルミ棒材はそこから車体各部の高さを測る基準。(撮影:筆者)

何はともあれ、この第5戦はどんな段取り・競技内容で進められるのか、を紹介しておきましょう。

■全日本スーパーフォーミュラ選手権・第5戦「レース・フォーマット」

●レース距離:182.92km (スポーツランドSUGO インターナショナルレーシングコース 3.586570km×51周)
(最大レース時間:75分 中断時間を含む最大総レース時間:120分)

スポーツランドSUGOの1周約3.6kmのコースレイアウトと、その距離と標高の関係(下の線図)。平面図では右側が高く、2-3-4コーナーと下ったところから一気に上る。レインボーコーナーからの直線は下り。微妙な下り勾配面の中を、馬の背〜SPと旋回し、さらに下って最下点(図・左端)でぐるっと深く回り込む最終コーナーの路面は内側に向かって横断勾配=バンクが付けられている。そこからの直線はピットロード分岐の先まで上り10%勾配。ここを駆け上るドライバーの視界は空を向く。(図提供:スポーツランドSUGO)
スポーツランドSUGOの1周約3.6kmのコースレイアウトと、その距離と標高の関係(下の線図)。平面図では右側が高く、2-3-4コーナーと下ったところから一気に上る。レインボーコーナーからの直線は下り。微妙な下り勾配面の中を、馬の背〜SPと旋回し、さらに下って最下点(図・左端)でぐるっと深く回り込む最終コーナーの路面は内側に向かって横断勾配=バンクが付けられている。そこからの直線はピットロード分岐の先まで上り10%勾配。ここを駆け上るドライバーの視界は空を向く。(図提供:スポーツランドSUGO)

*ちなみに、昨年・同地での第5戦よりも2周・7.17km少ない。

●タイムスケジュール:5/20(土) 午後2時00分〜公式予選 5/21(日) 午後2時30分〜決勝レース


動画実況は、


J SPORTS オンデマンド:6/17(土) フリー走行 午前9時00分〜 予選 午後1時50分〜

6/18(日) フリー走行 午前9時45分〜 決勝 午後2時00分〜

J SPORTS BS:6/17(土) 予選 午後1時50分〜(J SPORTS 3)

6/18(日) 決勝 午後2時00分〜(J SPORTS 3)

ABEMA:決勝 午後2時00分〜(SPORTS LIVE 4)

●予選:ノックアウト予選方式/Q1はA、B各組11車→各組上位6車・合計12車がQ2に進出
・公式予選Q1はA組10分間、5分間のインターバルを挟んでB組10分間。その終了から10分間のインターバルを挟んでQ2は7分間の走行
・公式予選Q1のグループ分けは…

第5戦スポーツランドSUGO・予選Q1のA/B各組ドライバー一覧
第5戦スポーツランドSUGO・予選Q1のA/B各組ドライバー一覧

Q2進出を逸した車両は、Q1最速タイムを記録した組の7位が予選13位、もう一方の組の7位が予選14位、以降交互に予選順位が決定される。
Q2の結果順に予選112位が決定する。

●タイヤ:横浜ゴム製ワンメイク ドライ1スペック:今季の仕様は骨格を形作るゴム層に天然素材を配合。ウエット(現状品は昨年までと同じ)1スペック

タイヤ骨格に天然ゴムを混錬した素材を使った、スーパーフォーミュラ2023年向けのドライ路面用タイヤ(写真:筆者)
タイヤ骨格に天然ゴムを混錬した素材を使った、スーパーフォーミュラ2023年向けのドライ路面用タイヤ(写真:筆者)

決勝中のタイヤ交換義務:あり~ただしドライ路面でのレースの場合
・スタート時に装着していた1セット(4本)から、異なる1セットに交換することが義務付けられる。
・先頭車両が10周目の第1セーフティカーラインに到達した時点から、先頭車両が最終周回に入る前までに実施すること。(スポーツランドSUGOの第1SCラインは最終コーナーからの上り直線、ピットロード分岐で道幅が広がり始める少し手前、ピットロードを示す白線開始点と直角に引かれた白線)
・タイヤ交換義務を完了せずにレース終了まで走行した車両は、失格。
・レースが赤旗で中断している中に行ったタイヤ交換は、タイヤ交換義務を消化したものとは見なされない。ただし、中断合図提示の前に第1SCラインを越えてピットロードに進入し、そこでタイヤ交換作業を行った場合はOK。
・レースが(41周を完了して)終了する前に赤旗中断、そのまま終了となった場合、タイヤ交換義務を実施していなかったドライバーには競技結果に40秒加算。
・決勝レースでウェットタイヤを装着した場合、タイヤ交換義務規定は適用されないが、決勝レース中にウェットタイヤが使用できるのは競技長が「WET宣言」を行なった時に限られる。

タイヤ交換義務を消化するためのピットストップについて
・ピットレーン速度制限:60km/h
SUGOは一昨年、ピットロード出口側のレイアウトが大きく変わり、1-2コーナーの内側をタイトに曲がってすぐに本コースに合流していたのを、3コーナーの先までコース外側を走ってから合流するレイアウトにしたのですが、ここで本コースを走ってくる車両を頭を左に向けて見ようとしても、今のフォーミュラカーのコックピット開口部は頭部保護のために側面が盛り上がっていて、さらにヘルメットの動きを最小限にとどめるHANSシステムも装着しているので、斜め後方が見えるところまで頭を振ることができません。

そこで昨年からは、合流点を3コーナーが曲がり込む手前・外側に移しました。そこから3コーナーの外側いっぱいを走って、4コーナー・ヘアピンに向かう姿勢になってようやくフル加速、となリます。

そこで、ピットロードに入って60km/h走行、そして停止・発進、この出口までを走って加速すると、ずっと本コースを走るのに対してどのくらい遅くなるのか、そのロスタイムをラップタイムデータから計算してみると2728秒」になっていました。これに加わるのが、ピット作業のための静止時間、タイヤ4輪交換だけであれば78秒。さらに冷間状態のまま装着したタイヤが粘着状態になるまで、路面温度にもよりますが、上りタイトコーナー連続からバックストレッチを駆け下るセクター2までかかる様子で、ここまででおよそ1秒ほど遅い。

これらを足し算して、最小で35秒、若干のマージンを見て3738秒ほどが、ピットストップに消費される時間となるはずです。 ということは、ピットタイミングが異なる車両同士では、この時間差の中にいるか、もっと差が開いているかで、ピットストップ+タイヤ交換によってどちらが前に出るか、を推測することができるわけです。

タイヤ使用制限
ドライ(スリック)タイヤ

新品・3セット、持ち越し(シーズン前テスト~ここまで3戦の間に供給されたセットの中から)・3セット

今戦ではまず金曜日のフリー走行で、開始時の路面状況によって、ウェットタイヤを履いて走り始めるか、1アタック相当品で出るかが変わりそうです。

いずれにしても路面が乾いてきたら走行履歴のあるドライタイヤでセッティング確認、10周(36km)以上の走行でロングランの状態を確認、走行時間の最後に新品を投入して予選アタック・シミュレーション。予選にはQ1Q2にそれぞれ新品投入。決勝スタートは新品。という使い方が基本になるはず。

ウェットタイヤ:最大6セット
走行前のタイヤ加熱:禁止

決勝レース中の燃料補給:禁止
燃料最大流量(燃料リストリクター):90kg/h123.0L/h
燃料リストリクター、すなわちあるエンジン回転速度から上になると燃料の流量上限が一定に保持される仕組みを使うと、その効果が発生する回転数から上では「出力一定」となります。

出力は「トルク(回転力、すなわち燃焼圧力でクランクを回す力)×回転速度」なので、燃料リストリクター領域では回転上昇に反比例してトルクは低下していきます。一瞬一瞬にクルマを前に押す力は減少しつつ、それを積み重ねた「仕事量」、つまり一定の距離をフル加速するのにかかる時間、到達速度(最高速)が各車同じレベルにコントロールされる、ということになります。

オーバーテイク・システム(OTS
・最大燃料流量10kg/h増量(90kg/h100kg/h)
・作動合計時間上限:決勝レース中に「200秒間」
・一度作動→オフにした瞬間からの作動不能時間(インターバルタイム)は、ここSUGOでは昨年より10秒多い「110秒間」、次の発動まで待たなければならなくなりました。これはレースペースで1周+40秒ほど。つまりその前の周回にOTS作動を止めた地点の10秒前あたりからなら再発動できる、ということになります。

●OTS作動時は、エンジン回転7200rpmあたりで頭打ちになっていた「出力」、ドライバーの体感としてはトルク上昇による加速感が、まず8000rpmまで伸び、そこからエンジンの「力」が11%上乗せされたまま加速が続く。

ドライバーが体感するこの「力」はすなわちエンジン・トルク(回転力)であって、上(燃料リストリクター作動=流量が一定にコントロールされる領域)は、トルクが10%強増え、そのまま回転上限までの「出力一定」状態が燃料増量分=11%だけ維持されますので、概算で出力が60ps近く増える状態になリます。

すなわちその回転域から落ちない速度・ギアポジションでは、コーナーでの脱出加速から最終到達速度まで、この出力増分が加速のための「駆動力」に上乗せされるわけです。

⚫︎ステアリングホイール上のボタンを押して作動開始、もう一度押して作動停止。

⚫︎ロールバー前面の作動表示LEDは当初、緑色。残り作動時間20秒からは赤色。残り時間がなくなると消灯。

⚫︎一度作動させたらその後100秒間は作動しない。この状態にある時は、ロールバー前面のLED表示は「遅い点滅」。なお、エンジンが止まっていると緑赤交互点滅。また予選中に「アタックしている」ことをドライバーが周囲に知らせたい場合、このLEDを点滅させる「Qライト」が使えます。

今季に向けた大きな変更は、OTS作動時にロールバー前面と、車両後端のレインライトとリアウィング翼端板後縁のLEDを点滅させていたのが廃止されたこと。前後のドライバーがそれぞれに接近戦を展開している相手がOTSを使ったのを視認できたので、対抗してOTSを作動させ、結局ポジションが変動しない、という状況が多く生まれたために、「目で見て知る」ことができないようにしました。

ということは観る側もOTS作動をLED点滅で確かめることができなくなります。ですがこちらは、全車のオンボード映像と車両走行状態をほぼリアルタイムで視聴することができるアプリ、「SFgoなら見ることができます。運転操作などと合わせて、OTSの作動、残り時間、インターバルタイムの経過が、表示されるのです。さらに今季からはドライバーとチームの無線交信も聞けます。

SFgo」は、ここまで踏み込んでの観戦には「必須」のツールと言えるでしょう。チームもこのアプリを駆使するようになっていますので、「○○、OTS撃ってるよ」「残り秒数は?」といった無線交信が増えることと思われます。

これらを踏まえつつ、タイトコーナーが続きつつ、それぞれに走るリズムを変えつつ組み立てることが求められるおもしろいサーキット、スポーツランドSUGOを舞台に、SF23×22台が繰り広げる2日間の濃密な自動車競争を、リアルでも、オンラインでも楽しんで下さい!

(文:両角 岳彦/写真:JRP、筆者)

この記事の著者

両角岳彦 近影

両角岳彦

自動車・科学技術評論家。1951年長野県松本市生まれ。日本大学大学院・理工学研究科・機械工学専攻・修士課程修了。研究室時代から『モーターファン』誌ロードテストの実験を担当し、同誌編集部に就職。
独立後、フリーの取材記者、自動車評価者、編集者、評論家として活動、物理や工学に基づく理論的な原稿には定評がある。著書に『ハイブリッドカーは本当にエコなのか?』(宝島社新書)、『図解 自動車のテクノロジー』(三栄)など多数。
続きを見る
閉じる