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■ドイツの博物館でトヨタの歴代モータースポーツ史を堪能
世界を飛び回るクラシックカーの殿堂師・越湖信一さんが、今回降り立ったのはドイツ。目的は、とある博物館で開催されていた、とある特別展を見るため。その内容は、日本人としてとても誇らしいものでありました。
●トヨタのレース史を回顧する企画展@ドイツ
今回はイタリアより少し足を伸ばしてドイツのシンゲンという小都市を訪問しました。ドイツといってもスイス国境と近く、最寄りの大都市はチューリッヒです。このボーデン湖畔の美しい自然に囲まれた市街の中心部に、MAC Museum Art and Carsと称す当地の文化拠点たる自動車博物館があります。自動車のみならずアートや建築、はたまたグルメにも拘った、興味深いこの拠点の訪問が今回のお題なのです。
「日本の自動車メーカーはブランディングの海外への発信が弱いのではないか。スポーツカーやレース活動など少なからぬ挑戦を行なっているのに、その全貌が見えてこない。単発の情報で終わっているように感じます。こんな重要なテーマを発信していない君たち日本のジャーナリストも問題ではないか」と、私に問題提起してくれたのはフランス人クラシックカー・スペシャリストのエマニュエル・バケ。
彼は世界各地でコンクールデレガンスの審査員仲間として出会う旧知の友人なのですが、“いや、まさにその通りです”と頷くしかない私でした。
「だから、パリ在住のトヨタのパワフルな友人、ミスター後藤と一緒に私がキュレーターをしているシンゲンのミュージアムで“レースとイノベーションーートヨタ・モータースポーツ回顧展”という企画を立てたんだよ」と胸を張るエマニュエル。そこまでお膳立てされたのなら行かないワケにはいかないでしょう。
「1957年にトヨペット・クラウンにてオーストラリア一周ラリーに挑戦した年を起点として、トヨタのモータースポーツ65周年を解説するというのが、この展示のテーマです」と後藤氏。トヨタのヨーロッパにおけるレース史をまとめたこの企画はとても面白かった。ヨーロッパ中から、トヨタファンが集まり大盛況であったというのも頷けます。
私の訪問中にも、セリカのラリー仕様を所有するエンスーがグループでやって来て、ディテールについて議論していたのが印象的でした。
●LFA、ル・マンカー、F1マシンといった迫力の展示も
オリジナリティの高い2000GT、人気で品不足中のGRヤリスといった市販スポーツモデル、各レースに参加した実個体などがそれぞれ美しくライティングされ、モダンなミュージアムに映えています。
1973年の世界選手権ラリーデビューしたセリカから、1993年セリカGT-Fourによる世界ラリー選手権での初のマニュファクチャラーズタイトルの獲得、2017年世界ラリー選手権への復帰などのストーリーが説明されており、トヨタのモータースポーツへの取り組みが、ロードカーのヒストリーとリンクしながら総合的にまとめられていました。もちろんWECやル・マン24時間レースの活躍もインパクト大です。
WRCで活躍したGT4-ST165や歴代セリカ、ル・マンに挑戦したGT-One、F1カーのTF105、ニュルブルクリンク24時間を制覇したGAZOO Racing レクサス LFAなど、展示にはなかなか華がありました。
小林可夢偉が2017年にサルトサーキットで史上最速ラップを記録したTS050 HYBRID(シャーシ番号17-06)の展示は、日本人としても誇らしいものでした。トヨタのヨーロッパにおけるコレクション個体を中心にセレクトされたとのことで、LFAは日本から運搬されたそうです。
●日本車メーカーもレースのヘリテージを発信すべし
「欧州では多くのメーカーがブランドのヘリテージを積極的に発信している中で、トヨタも挑戦すべきという問題意識をかねてより強く持っていました。そこへエマニュエルという良き協力者を迎えることができたので、とんとん拍子に企画は進みました。」と後藤氏。
トヨタGAZOO Racingに至るヨーロッパにおけるトヨタのレースに関わる取り組みが系統だって紹介されたことによって、現行のGRブランドのアイデンティティもより明確になると感じました。
ちなみに会期中にはミュージアム主催によるトヨタカーオーナーの為のミーティングも開催され、80台を超えるバラエティに富んだモデルと共に多くのファンが集結したそうです。
「多くの方がトヨタやGRのウェアを着ていてびっくりしました。GRヤリス人気は高く、いろいろなモディファイが行なわれているクルマもありました。懐かしいチェイサーも参加してくれました。マニアの方が日本から中古で輸入した、右ハンドルのマニュアル仕様でした」と後藤氏。
トヨタのコンペティションモデルがヨーロッパ内で系統立てて展示される機会は、これまでほとんど無かったようです。当展示は終了しましたが、これを機会にぜひこういった取り組みを継続して頂きたいものです。
(文&写真:越湖信一)
【MAC Museum Art & Cars概要】
MAC Museum Art & CarsはHermann & Gabriela Unbehaun Maier夫妻によって設立されたもの。総面積4000平方メートルの敷地に2棟のファシリティが並び、1920〜30年代のクラシックから、レーシングカー、フォーミュラカーなどバラエティに富んだコレクションが並び、今回のような企画展も定期的に開催されている。また、アンディ・ウォーホルやジェームズ・フランシス・ギルなどの作品も並ぶし、当地食材を用いたレストランも併設する。ちなみに現在はジウジアーロ・ファミリーのデザイン会社GFGスタイルの特設展を開催中。
住所:PARKSTR. 3, D-78224 SINGEN (HOHENTWIEL)
電話:+49 (0)7731 969 35 10
【関連リンク】
・MAC Museum Art and Cars公式サイト(ドイツ語)
www. museum-art-cars.com