デリカらしさとは何かを徹底的に突き詰める。新型デリカミニは三菱自動車らしさを凝縮したデザイン【特別インタビュー】

■三菱らしさを軽自動車でどう表現するかの試み

実質的にeKクロス スペースの後継として、ボディの多くを共有するが、単に顔違いと思わせないところが肝だ
実質的にeKクロス スペースの後継として、ボディの多くを共有するが、単に顔違いと思わせないところが肝だ

5月25日の販売前から話題沸騰の新型軽スーパーハイトワゴン「デリカミニ」。

すでに多くの媒体で詳細が紹介されていますが、今回はあらためてデザインを担当した松岡氏に、開発のキッカケやスタイリングの意図について話を聞いてみました。


●ダイナミック・シールドはあくまでも概念的なもの

── まず始めに、新型は多くのスケッチを描いた中から生まれた企画だとお聞きしていますが、そもそもどのようなプロジェクトがあったのでしょうか?

「2019年頃から、三菱自動車らしさとは何なのかをしっかり考えて欲しいという話が社内から上がったんです。そこで、デザイナーとパッケージ担当とでさまざまな先行開発を始めました。その中で、歴代の三菱車のエッセンスを軽自動車にどう落とし込めるかについての議論があり、そのひとつにデリカもあったワケです」

今回話を聞いた三菱自動車工業株式会社 デザイン本部 プログラムデザインダイレクター 松岡亮介氏。これまで同社の先行デザインを多く手掛けてきた
今回話を聞いた三菱自動車工業株式会社
デザイン本部 プログラムデザインダイレクター 松岡亮介氏。これまで同社の先行デザインを多く手掛けてきた

── たとえばそのデリカについてはどのような話があったのでしょう?

「そもそもデリカとは何か?からですね。検討の中では「DELICA-NESS」として「DAILY ADVENTURE」というコンセプトが掲げられました。あくまでも日常的な冒険として、たとえば近所を走るだけでも冒険心を感じられるようなクルマではないか……などです」

── そうした検討の中で、新型のオリジナルとなるスケッチが描かれたわけですね

若手デザイナーが描いたキースケッチ。最初の段階でほぼ完成形という例はカーデザインでは決して少なくない
若手デザイナーが描いたキースケッチ。最初の段階でほぼ完成形という例はカーデザインでは決して少なくない

「はい。DELICA-NESSとして『space×highgravity』、つまりハイリフトのしっかりしたボディの上に広い空間が載るという造形テーマが出され、これは軽のスーパーハイトワゴンに合致すると考えました。

そこで若手のデザイナーから、「DELICA MIND」をテーマに提案されたのが新型の原案となるスケッチです。ユニークなのは、特定の世代に限定せず、初代以降のさまざまなエッセンスが盛り込まれた点で、そのまま役員からOKが出ました」

── では次に「ダイナミック・シールド」についてお伺いします。当初は上下2段のランプとガードの組み合わせとしていましたが、デリカミニのようにさまざまな展開があるようですね?

「そうですね。ダイナミック・シールドはあくまで概念的なものですから、三菱車らしい安心・安全を表現するプロテクト感があればいろいろな手法が考えられます。当初の形状はデリカD:5やアウトランダーなど、顔に厚みのあるクルマを想定したものなんですね」

── しかし、コンパクトな軽のeKシリーズでも展開していますよね?

「そこは正直議論があったところなんです(笑)。たとえばeKクロス スペースはスーパーハイトワゴンとして幅広いユーザーを想定していましたが、とりわけ女性には受け入れ辛い面があったかもしれません。やはり表情として厳つさが勝っていました」

── では、デリカミニのダイナミック・シールドはどのような意図があるのでしょう?

「1980年代のRVブームでよく見られたプロテクトバー(カンガルーバンパー)がモチーフで、あえて後付け感を持たせました。フロント正面を見た際、センター部分にボリューム感のあるカタチです。

ちなみに、ダイナミック・シールドについては、2022年に発表した『XFC CONCEPT』ですでに次世代の表現を示していて、今後はより幅広い表現になると思います」

新しいダイナミック・シールドの形状は、正面から見た際のセンター部分のボリューム感を狙ったという
新しいダイナミック・シールドの形状は、正面から見た際のセンター部分のボリューム感を狙ったという

── フロントの表情は「やんちゃ坊主」として半円形のランプが特徴的ですが、なぜ半円としたのですか?

「歴代のデリカを見ると、グリルやプロテクトバーによる横一文字の表情や、初代の丸目などアイコニックな要素が多かった。それらを組み合わせたものとして、オリジナルスケッチの段階ですでに提案されていました。三菱自動車らしさとして可愛すぎるのは避けたかった一方、怖すぎても意味がないので、どこで円を切るかは40~50パターンのスケッチを描いて検討しましたね」

●日常でも使えるファッション性の高いボディカラー

── 塗装によるホイールアーチは若干歪な四角形ですが、たとえば同心円ではダメでしたか?

「実は同心円も含めていろいろ試したんです。ただ、軽ではホイールアーチとドアとの間隔が短く、適度な大きさの円形にするとドア側にはみ出してしまうんですね。逆に、はみ出さない程度にすると黒の面積が狭くボディが大きく見えてしまうし、黒が広過ぎると今度はタイヤが小さく見えてしまう。それらを踏まえてオリジナルスケッチに寄せた格好です」

本来上に置くべき三菱のエンブレムを下げ、車名入りのガーニッシュを上に置いた。異例なことだが、それも国内専用の軽自動車だからこそ
本来上に置くべき三菱のエンブレムを下げ、車名入りのガーニッシュを上に置いた。異例なことだが、それも国内専用の軽自動車だからこそ

── リアビューでeKクロススペースと異なるのは車名が入ったガーニッシュだけですか?

「はい。実は、三菱車では通常スリーダイヤモンドのバッジが上で、車名は下に置くのがブランドのお約束なのですが、今回は車名を上にした。これは異例なことなのですが、今回は国内専用の軽自動車だからこそ、三菱というよりデリカであることを重視したワケです」

── ボディカラーですが、テーマカラーとした「アッシュグリーンメタリック」にはどういった意図がありますか?

「歴代のデリカを振り返ってみると、グリーン系のボディが多かったことがひとつ。また、アウトドアという側面で見ると、少し前のキャンプ道具は明るいオレンジなど目立つ色が主流でしたが、最近は日常生活でも使えるよう、彩度を落とした品のある色が増えました。そうしたファッション性を含めて提案した色です」

内装には新たにライトグレー素材をアクセントとして追加。シートには撥水加工の素材を採用した
内装には新たにライトグレー素材をアクセントとして追加。シートには撥水加工の素材を採用した

── では最後に。今回デリカミニの好評を受けて、今後のデザイン開発に何か影響はありそうですか?

「メインのラインナップではない、軽自動車という枠の中で何ができるかを探ることができました。三菱はクルマを擬人化する「デザイン・パーソナリティ」という開発手法をとっていますが、その点でもユニークな発想ができましたし、ダイナミック・シールドの展開もいろいろできた。そういう意味では今後に期待ができると思います」

── 今後はどのような「三菱自動車らしさ」が実現するか楽しみにしたいと思います。本日はありがとうございました。

(インタビュー・すぎもと たかよし

この記事の著者

すぎもと たかよし 近影

すぎもと たかよし

東京都下の某大学に勤務する「サラリーマン自動車ライター」。大学では美術科で日本画を専攻、車も最初から興味を持ったのは中身よりもとにかくデザイン。自動車メディアではデザインの記事が少ない、じゃあ自分で書いてしまおうと、いつの間にかライターに。
現役サラリーマンとして、ユーザー目線のニュートラルな視点が身上。「デザインは好き嫌いの前に質の問題がある」がモットー。空いた時間は社会人バンドでドラムを叩き、そして美味しい珈琲を探して旅に。愛車は真っ赤ないすゞFFジェミニ・イルムシャー。
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