ホンダ「ビート」138.8万円でデビュー。生産終了後も現存率が非常に高い名車は好景気が生んだ【今日は何の日?5月15日】

■MRレイアウトで軽快な走りを実現したオープンスポーツ

1991年にデビューした2シーターMRオープンカーのビート
1991年にデビューした2シーターMRオープンカーのビート

1991年(平成3年)5月15日、ホンダが軽自動車の2シーター・オープンスポーツ「ビート」を発表、翌日から発売が始まりました。

1980年代後半に迎えたバブル景気は、軽にも高性能・高機能化をもたらし、その象徴的なクルマが、MR(ミッドシップエンジン・リアドライブ)レイアウトに高回転型NA(無過給)エンジンを搭載したビートでした。

●バブル景気で生まれた“ABCトリオ”の先陣を切って登場のビート

1980年代後半に空前のバブル景気を迎え、「ソアラ」や「マークII 3兄弟」(当時のマークII、クレスタ、チェイサーがそう呼ばれた)のような、ハイソカーと呼ばれた高級車が飛ぶように売れ、軽自動車においても高性能、高機能を備えたクルマが人気となりました。

そのような中、1990年代初頭にバブル絶頂期に開発した、3台の軽スポーツカー“ABCトリオ”がデビューしました。

1992年にデビューしたオートザムAZ-1。ガルウイングのMRスポーツ
1992年にデビューしたオートザムAZ-1。ガルウイングのMRスポーツ
1991年にデビューしたスズキカプチーノ。軽量ボディのFRスポーツ
1991年にデビューしたスズキカプチーノ。軽量ボディのFRスポーツ

“A”は、軽唯一のガルウイングを備えたマツダ・オートザム「AZ-1(1992年)」、“B”は「ビート(1991年)」、“C”は軽乗用車唯一のFRスポーツカーのスズキ「カプチーノ(1991年)」です。

衝撃的なデビューを果たしたABCトリオでしたが、開発時期はバブル景気、しかし販売されたのはバブル崩壊時期(1991年~1993年)と重なったため、注目されながらも3つのモデルとも期待されたほど販売は伸びず、短期間で生産は終了しました。

●オープンモノコックに高回転型エンジンを搭載したMRスポーツ誕生

ビートは、MR用プラットフォームとオープンモノコックボディの組み合わせによって、理想的な前後重量配分43:57を実現した、2シーターMRの本格的スポーツカーです。

ビートの車体構造。ミッドシップにエンジンを搭載した後輪駆動のMRレイアウト
ビートの車体構造。ミッドシップにエンジンを搭載した後輪駆動のMRレイアウト

パワートレインは、NAながらレスポンスに優れた新開発の高回転型(最高出力64PS/8100rpm、最大トルク6.1kgm/7000rpm)の3気筒660ccエンジンと5速MTの組み合わせ。これにより、クイックな操縦性と伸びやかな走りを発揮して、スポーツカーファンから高い評価を受けました。

価格は138.8万円でABCトリオの中では最も安価でした。ちなみに、オートザムAZ-1は149.8万円、カプチーノは145.8万円です。

しかし、残念ながらバブル崩壊の影響が明確になった頃、1996年をもって1世代限りで生産中止になってしまいました。

●19年振りにビートのコンセプトを継承したS660登場

ビートの生産終了から19年後の2015年、ビートのコンセプトであるMRレイアウトと低重心を継承した「ホンダS660」がデビューしました。

2015年にデビューしたS660。ビートのコンセプトを継承した軽オープン
2015年にデビューしたS660。ビートのコンセプトを継承した軽オープン

エンジンは、ビートがNAであったのに対して、ターボを装着してトルクを太くし、中高速域の伸びを向上させて走りに磨きを掛けました。トランスミッションは、軽初の6速MTとCVTを用意し、CVTには力強い走りのスポーツモードと標準モードの切替え機構を装備。また、曲がる楽しさを追求して高いコーナリング性能にこだわっているのもS660の特徴でした。

久しぶりのホンダのオープンカーということもあり、発売当初は1年以上の納車待ちとなりましたが、オープン当初の話題が一段落してから販売は徐々に下降、2022年生産終了を発表します。

しかしながら、その発表と同時にファイナルモデルへの人気は沸騰。限定品や無くなるものへ急に飛びつくのは、日本人の特性でしょうか。


ビートは、生産が終了してすでに25年が経ちましたが、今でも根強い人気を誇り、街中で自慢げに走る姿を時々見かけます。生産終了しても現存率が非常に高いモデルだそうです。発売時期がバブル崩壊と重なって生産終了となったとも言えますが、バブルがあったからこそ名車が生まれたと言えるのではないでしょうか。

毎日が何かの記念日。今日がなにかの記念日になるかもしれません。

Mr.ソラン

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Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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