スーパーフォーミュラのレースをもっと楽しむための基礎知識。第3戦 鈴鹿サーキットの「レース・フォーマット」

■3月のテストでは新エアロの特性はまだ見えていなかった…
5週間の”予習”と前戦・富士のデータから「正解」に近づいたのは誰?

鈴鹿サーキットを走るSF23のテストカー「白寅」(ホンダ・エンジン)「赤寅」(トヨタ・エンジン)。今週はチームカラーをまとう22台がここ鈴鹿で初の実戦に臨む。(写真・JRP)
鈴鹿サーキットを走るSF23のテストカー「白寅」(ホンダ・エンジン)「赤寅」(トヨタ・エンジン)。今週はチームカラーをまとう22台がここ鈴鹿で初の実戦に臨む。(写真・JRP)

新たなエアロデザインをまとったスーパーフォーミュラのニュー・バージョン、SF23で戦う初めての実戦は2週間前の富士スピードウェイ。その週末2連戦を前に、富士の長くて勾配のない直線でまずは空力特性の基礎テストから、と誰しも考えていた金曜日の走行枠が、荒天で中止に。ということは事実上「ぶっつけ本番」での開幕緒戦になったわけです。

そんな中で、さまざまなデータ解析を行なってその内容を実車での走行に”落とし込む”エンジニアリング・スタッフの能力と、それを反映してマシンとタイヤを操ることができるドライバー、という組み合わせで、他を一歩リードしつつあるTEAM MUGENが、まずは優勝。ドライバーはF2などでの実績はあっても日本で、スーパーフォーミュラのレースを走るのも、そして富士を走るのも初めてのリーアム・ローソンでした。

続く日曜日には、この2日間とも予選では最速、2連続ポールポジションからスタートした2年連続チャンピオン、野尻智紀が優勝と、「やはり…」と思わせる結果を残しました。

しかしその彼らにしても、空力特性が大きく変わった、とりわけ車体底面で発生するダウンフォース、それは車速=空気流速の高いところでより効率良く働くものを増やし、その分、前後のウィングの空力効果を弱めた(前作SF19に対して)SF23を初めて走らせた3月上旬の鈴鹿テストでは、特性の把握と、鈴鹿というコースへの適合にずいぶん苦しんでいました。

富士は直線、高速コーナー、登り勾配の低速セクションという構成であるのに対して、鈴鹿はS字、デグナーカーブ、スプーンカーブと、この種のクルマにとっては「中速域」、150-200km/hで旋回するコーナーが続くのです。

ここでSF23の底面と前後ウィングのそれぞれをどう使いこなすか? そのための車両姿勢とサスペンション・セッティングは? これらをどこまで解析し、クルマの基本セットアップと、そこから挙動を調整するやり方を、どこまで掘り下げてきたか、そこで「正解」に近づいたのはどのチーム、どのエンジニア、どのドライバーか。それを見守る2日間になるはずです。

では、この鈴鹿での第3戦はどんな段取り・競技内容で進められるのか、を紹介しておきましょう。

■全日本スーパーフォーミュラ選手権・第3戦「レース・フォーマット」

●レース距離:180.017km (鈴鹿サーキット 5.807km×31周)
(最大レース時間: 1時間15分 中断時間を含む最大総レース時間: 1時間35分)

●タイムスケジュール:4/22(土) 午後3時55分〜公式予選
4/23(日) 午後3時45分〜決勝レース
動画実況は、J SPORTS オンデマンド:予選決勝ともリアルタイム
J SPORTS BS:予選・同日午後8時30分〜 決勝・同日午後10時〜
ABEMA Sport3:決勝・リアルタイム

●予選:ノックアウト予選方式 /Q1はA、B各組11車→各組上位6車・合計12車がQ2に進出
・公式予選Q1はA組10分間、5分間のインターバルを挟んでB組10分間。その終了から10分間のインターバルを挟んでQ2は7分間の走行。
・公式予選Q1のグループ分けは…スーパーフォーミュラ第3戦鈴鹿・予選組分け
・Q2進出を逸した車両は、Q1最速タイムを記録した組の7位が予選13位、もう一方の組の7位が予選14位、以降交互に予選順位が決定される。
・Q2の結果順に予選1~12位が決定する。

●タイヤ:横浜ゴム製ワンメイク ドライ1スペック:今季の仕様は骨格を形作るゴム層に天然素材を配合。ウエット(現状品は昨年までと同じ)1スペック

1周あまり”ウォームアップ”ランをしてきた直後の2023年仕様SF用ドライタイヤ。今日のレーシングタイヤのトレッドコンパウンド(ゴム)は発熱によってこの写真に見られるように表層が”溶け”、粘着テープのように路面に貼り付く。(写真・筆者)
1周あまり”ウォームアップ”ランをしてきた直後の2023年仕様SF用ドライタイヤ。今日のレーシングタイヤのトレッドコンパウンド(ゴム)は発熱によってこの写真に見られるように表層が”溶け”、粘着テープのように路面に貼り付く。(写真・筆者)

●決勝中のタイヤ交換義務:あり、ただしドライ路面でのレースの場合
・スタート時に装着していた1セット(4本)から、異なる1セットに交換することが義務付けられる。
・先頭車両が10周目の第1セーフティカーラインに到達した時点から、先頭車両が最終周回に入る前までに実施すること。(鈴鹿サーキットの第1SCラインは最終コーナーを立ち上がり、ピットロードが右に別れる分岐点に引かれた白線)
・タイヤ交換義務を完了せずにレース終了まで走行した車両は、失格。
・レースが赤旗で中断している中に行ったタイヤ交換は、タイヤ交換義務を消化したものとは見なされない。ただし、中断合図提示の前に第1SCラインを越えてピットロードに進入し、そこでタイヤ交換作業を行った場合はOK。
・レースが(41周を完了して)終了する前に赤旗中断、そのまま終了となった場合、タイヤ交換義務を実施していなかったドライバーには競技結果に40秒加算。
・決勝レースでウェットタイヤを装着した場合、タイヤ交換義務規定は適用されないが、決勝レース中にウェットタイヤが使用できるのは競技長が「WET宣言」を行なった時に限られる。

●タイヤ交換義務を消化するためのピットストップについて
・ピットレーン速度制限:60km/h
・鈴鹿の場合、最終コーナーを立ち上がった先でピットロードが分岐しますが、速度制限区間が始まるのは計時ラインの30mほど手前。そこまでエントリーロードをほぼレーシングスピードを保って走ってくることもあり、ピットレーン走行による(ストレートをレーシングスピードで走行するのに対する)ロスタイムは約27〜28秒。これにピット作業のための静止時間、現状のタイヤ4輪交換だけであれば7〜8秒を加え、さらにコールド状態で装着、走り出したタイヤが暖まって粘着状態になるまで、路面温度にもよるが半周、スプーンカーブにかかるあたりまでペースが上がらないことで失うタイム、おおよそ1秒ほどを加えた、最小で35秒、若干のマージンを見て40秒ほどが、ピットストップに”消費”される時間になります。言い換えれば、ピットタイミングが異なる車両同士では、この「ミニマム35〜36秒」のギャップがあるかどうかが、順位変動が起こるかどうかの目安になるわけです。

鈴鹿サーキットの平面レイアウトとエレベーション(標高変化)。右上の小さい図は計時区間(セクター)の区切りを示したもの。(鈴鹿サーキット提供)
鈴鹿サーキットの平面レイアウトとエレベーション(標高変化)。右上の小さい図は計時区間(セクター)の区切りを示したもの。(鈴鹿サーキット提供)

●タイヤ使用制限
●ドライ(スリック)タイヤ
・新品:3セット、持ち越し(シーズン前テスト〜開幕2連戦から):3セット
開幕の富士では金曜日の専有走行が荒天で中止、第1戦・予選もノックアウト方式ではなく計時予選になったので、ほぼ新品で走り出し、1度目のアタック→最終アタックと3セット投入が基本パターンだったはず。

決勝は新品でスタート、新品か1アタック品を交換用に。第2戦でQ2に進出した車両は予選で新品2セットを投入。決勝は第1戦と同様の使い方。それでも2レースを終わって、テストから供給された合計11セットの中でまだ2セットかそれ以上の新品を残している車両がほとんどだと思われます。その場合、今戦ではまず金曜日のフリー走行を1アタック相当品で走り始めてセッティング確認、10周(60km)以上の走行でロングランの状態を確認、走行時間の最後に新品を投入して予選アタック・シミュレーション。予選にはQ1、Q2にそれぞれ新品投入。決勝スタートは新品。という使い方が基本になりそう。
●ウェットタイヤ:最大6セット。今回は使わないで済むかな…

●走行前のタイヤ加熱:禁止 ●決勝レース中の燃料補給:禁止

鈴鹿サーキットを走るSF23のテストカー「白寅」「赤寅」(写真・JRP)
鈴鹿サーキットを走るSF23のテストカー「白寅」「赤寅」(写真・JRP)

●燃料最大流量(燃料リストリクター):90kg/h(119.8L/h)
燃料リストリクター、すなわちあるエンジン回転速度から上になると燃料の流量上限が一定に保持される仕組みを使うと、その効果が発生する回転数から上では「出力一定」となる。出力は「トルク(回転力、すなわち燃焼圧力でクランクを回す力)×回転速度」なので、燃料リストリクター領域では回転上昇に反比例してトルクは低下していきます。一瞬一瞬にクルマを前に押す力は減少しつつ、それを積み重ねた「仕事量」、つまり一定の距離をフル加速するのにかかる時間、到達速度(最高速)が各車同じレベルにコントロールされる、ということになります。

●オーバーテイク・システム(OTS)
・最大燃料流量10kg/h増量(90kg/h→100kg/h)
・作動合計時間上限:決勝レース中に「200秒間」
・一度作動→オフにした瞬間からの作動不能時間(インターバルタイム)は、今季、鈴鹿サーキットでは昨年までと同じ100秒間、次の発動まで待たなければならなくなりました。これはレースペースでほぼ1周に相当します。
●OTS作動時は、エンジン回転7200rpmあたりで頭打ちになっていた「出力」、ドライバーの体感としてはトルク上昇による加速感が、まず8000rpmまで伸び、そこからエンジンの「力」が11%上乗せされたまま加速が続く。ドライバーが体感するこの「力」はすなわちエンジン・トルク(回転力)であって、上(燃料リストリクター作動=流量が一定にコントロールされる領域)は、トルクが10%強増え、そのまま回転上限までの「出力一定」状態が燃料増量分=11%だけ維持されますので、概算で出力が60ps近く増える状態になリます。すなわちその回転域から落ちない速度・ギアポジションでは、コーナーでの脱出加速から最終到達速度まで、この出力増分が加速のための「駆動力」に上乗せされるわけです。
⚫︎ステアリングホイール上のボタンを押して作動開始、もう一度押して作動停止。
⚫︎ロールバー前面の作動表示LEDは当初、緑色。残り作動時間20秒からは赤色。残り時間がなくなると消灯。
⚫︎一度作動させたらその後100秒間は作動しない。この状態にある時は、ロールバー前面のLED表示は「遅い点滅」。なお、エンジンが止まっていると緑赤交互点滅。また予選中に「アタックしている」ことをドライバーが周囲に知らせたい場合、このLEDを黄色に点滅させる「Qライト」が使えます。
●今季に向けた大きな変更は、OTS作動時にロールバー前面と、車両後端のレインライトとリアウィング翼端板後縁のLEDを点滅させていたのが廃止されたこと。前後のドライバーがそれぞれに接近戦を展開している相手がOTSを使ったのを視認できたので、対抗してOTSを作動させ、結局ポジションが変動しない、という状況が多く生まれたために、「目で見て知る」ことができないようにしました。
●ということは観る側もOTS作動をLED点滅で確かめることができなくなる。ここは、全車のオンボード映像と車両走行状態をほぼリアルタイムで視聴することができるアプリ、「SFgo」なら”見る”ことができます。運転操作などと合わせて、OTSの作動、残り時間、インターバルタイムの経過が表示され、さらに今季からはドライバーとチームの無線交信も聞けます。ここまで踏み込んでの観戦には「必須」のツールと言えるでしょう。チームもこのアプリを駆使するようになっていますので、「○○、OTS撃ってるよ」「残り秒数は?」といった無線交信が増えることと思われます。

鈴鹿サーキットを走るSF23のテストカー「赤寅」「白寅」(写真・JRP)
鈴鹿サーキットを走るSF23のテストカー「赤寅」「白寅」(写真・JRP)

これらを踏まえつつ、スーパーフォーミュラ今季早くも3戦目、鈴鹿サーキットで新しいSF23×22台が繰り広げる2日間の濃密な自動車競争を、リアルでも、オンラインでも楽しんで下さい!

(文:両角 岳彦/写真:JRP、筆者)

この記事の著者

両角岳彦 近影

両角岳彦

自動車・科学技術評論家。1951年長野県松本市生まれ。日本大学大学院・理工学研究科・機械工学専攻・修士課程修了。研究室時代から『モーターファン』誌ロードテストの実験を担当し、同誌編集部に就職。
独立後、フリーの取材記者、自動車評価者、編集者、評論家として活動、物理や工学に基づく理論的な原稿には定評がある。著書に『ハイブリッドカーは本当にエコなのか?』(宝島社新書)、『図解 自動車のテクノロジー』(三栄)など多数。
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