■伝統の56番で走るチャンピオン
3月25日(土)、26日(日)に富士スピードウェイで開催されたスーパーGT公式テスト。両日ともに激しく降る雨の中ではありましたが、むしろテストですのでウェットコンディションのデータが取れると、各チーム精力的にスケジュールをこなしていきます。
昨年、2022年のGT300クラスチャンピオンであるリアライズ日産メカニックチャレンジGT-Rも精力的に走行を繰り返していましたが、筆者はちょっとした違和感に気が付きました。
昨年のチャンピオンにもかかわらず、ゼッケンが「56」のままなのです。
スーパーGTの場合、GT300クラスのチャンピオンにはドライバーズチャンピオンのゼッケンとして「0」が用意されているのですが、この「0」をつけるかどうかはチームの任意となっています。
直近の例では、2021年のGT300チャンピオンであるSUBARU BRZ R&D SPORTが「0」ではなく、マシン固有のゼッケンである「61」で2022シーズンを戦っていました。
また、GT500クラスの2021チャンピオンのau TOM’S GR Supraも2022年は「36」のまま参戦しています。
ところで、リアライズ日産メカニックチャレンジGT-Rは何故チャンピオンゼッケン「0」をつけないのでしょうか?
その理由は、ゼッケン自体がマシン固有のものであるため、愛着と伝統を持った「56」を選択した、ということにほかなりません。
リアライズ日産メカニックチャレンジGT-Rの監督であり「KONDO Racing」の代表でもある近藤真彦さんは、昨年の12月4日に富士スピードウェイで開催された、日産自動車と日産モータースポーツ&カスタマイズ(NMC)のファン感謝イベント「ニスモフェスティバル2022」のなかで、「56で行きます」と明言しています。
スーパーGTのゼッケンは、そのチームが出場し続ける場合は数字が固定され定番となります。たとえば、nismoチームは「23」、リアライズ日産メカニックチャレンジGT-Rと同じKONDO RACINGのGT500でのゼッケンは「24」、チームKUNIMITSUは「100」となります。
また、そのチームがマシンのメーカーを変えてもゼッケンは変わることがありません。その例としてはDorago CORSEで2021年まではHONDA NSX GT3でしたが、2022年はNISSAN GT-R NISMO GT3での参戦でも「34」をつけています。
チャンピオンの名誉である「0」か、伝統と愛着の固有ゼッケンを選択するかの議論は、チームの中でも当然あったことでしょう。しかし、チームのメカニックやサポートクルーを、日産自動車大学校の学生が授業の一環として行っているリアライズ日産メカニックチャレンジGT-R。
学生の方々が携わりながら参戦した2018年までのスーパー耐久から、2019年に念願のスーパーGTにステップアップし、そこからつけられている「56」という数字は、携わってきた学生の方や、これから携わるであろう学生の方にとって、特別な愛着と伝統があるようです。それを大切にしたいという思いが、近藤監督の「56で行きます」にこめられているのでしょう。
●チャンピオンチームに新たに加わる若手実力派の名取鉄平選手
この56号車 リアライズ日産メカニックチャレンジGT-Rのドライバーラインナップは、大きく変わりました。
昨年のチャンピオンドライバーであるジョアオ・パオロ・デ・オリベイラ選手とコンビを組むのは、22歳の名取鉄平選手です。少しでもモータースポーツに詳しい方なら、何で?と思われる異例の大抜擢ともいえるラインナップでしょう。
名取選手は2018年にFIA-F4選手権に参戦し、現在F1で活躍する角田裕毅とバトルしあいながら、この年のランキング2位となります。2019年はホンダの育成選手としてヨーロッパのレースに参戦し、2020年に帰国。
フォーミュラー・ライツシリーズに参戦し、2020年にシリーズ4位、2021年にはシリーズチャンピオンを獲得。2021年ではスーパーGTにUP GARAGE NSX GT3での参戦もしています。
こんなホンダ色の強い名取鉄平選手が、NISSAN陣営の中でもGT300チャンピオンとなる有力チームであるリアライズ日産メカニックチャレンジGT-Rとして抜擢されるというのは、かなり異例のことであると言えます。それだけ実力を期待されての抜擢であることは間違いありません。
伝統と愛着の56番をつけ、大抜擢の名取鉄平選手と大ベテランのジョアオ・パオロ・デ・オリベイラ選手にステアリングを託す。56号車 リアライズ日産メカニックチャレンジGT-Rは、本気でGT300クラスの2連覇を狙っていると言っても過言ではないでしょう。
(写真・文:松永 和浩)