日産、BEVとe-POWERの主要部品を共有化した電動パワートレーン「X-in-1」コンセプトを公開

■モジュール化で小型・軽量化だけでなく、生産性やコスト削減などにも寄与する

日産自動車が新開発電動パワートレーンの試作ユニットを公開した
日産自動車が新開発電動パワートレーンの試作ユニットを公開した

SAKURAの販売が好調の日産自動車は、バッテリーEV(BEV)、100%電動駆動であるe-POWER(シリーズハイブリッドに分類できる)を両輪として電動化戦略を進めています。世界初の量産EVである三菱i-MiEVに続き、リーフをいち早く市場に投入してきました。

次世代e-POWERの「5-in-1」
次世代e-POWERの「5-in-1」

2023年3月9日(木)、日産は新開発となる電動パワートレーンの試作ユニットを公開しました。今回、発表されたのは、BEVとe-POWERの主要部品を共有化し、モジュール化された「X-in-1」というコンセプト(考え方)です。2026年までにコスト30%削減(2019年比)を目指す新開発の電動パワートレーンを搭載することで、BEVとe-POWERの価格競争力を高めるのが狙いです。

次世代BEVの「3-in-1」
次世代BEVの「3-in-1」

「X-in-1」は、モーター、インバーター、減速機の3つの部品をモジュール化したBEV用の「3-in-1」、モーターとインバーター、減速機に加えて、発電機と増速機の5つの部品をモジュール化したe-POWER用の「5-in-1」の2本立てになっています。

日産の電動パワートレーンの進化は、BEVでは初代リーフから現行リーフの段階では、モーターとインバーターの一体化、インバーターの直接冷却により-25%を実現。さらに、モジュール化される「3-in-1」では-10%の小型・軽量化が追求されています。

次世代電動パワートレーンでは、EVとe-POWERで主要部品の共有化、モジュール化をさらに推進する
次世代電動パワートレーンでは、EVとe-POWERで主要部品の共有化、モジュール化をさらに推進する

一方のe-POWER車では、第1世代から第2世代の進化でインバーター直接冷却などにより-20%を実現。さらに最新世代の「5-in-1」では、モジュール化により-10%の小型・軽量化を達成し、コスト削減や搭載のしやすさなどのメリットも享受できるようになります。

モジュール化により、小型・軽量化が図られる
モジュール化により、小型・軽量化が図られる

今回、発表された新世代電動パワートレーンは、Cセグメントが想定されているそうですが、技術面では軽自動車(商品性は別にして)からの想定もしているそう。ただし、今回披露された電動パワートレーンは、そのままでは軽自動車のエンジンコンパートメントには当然ながら入らないそう。つまり、商品として成立するかは別にして、軽自動車にも載せられるe-POWERも技術面では視野に入っているようです。


●レアアース使用量を1%以下まで削減したモーターを開発

最新世代の電動パワートレーンは、駆動部品の共有化をはじめ、ユニットのモジュール化により生産効率の向上を図るとともに、小型・軽量化によって走行性能や音・振動性能を向上させることを狙っています。

レアアースの使用量を大幅に削減
レアアースの使用量を大幅に削減

さらに、レアアース(重希土類)の使用を1%以下(重量比)まで削減したモーターが搭載される予定。なお、レアアースは、中国が6割以上のシェアを占め、地政学的リスク、経済安全保障の面からも使用量削減は日米欧などの重要課題。レアメタル、レアアースの確保は、都市鉱山からのリサイクル、リユースも含めて必須という状況になっています。

また、内製で積み上げてきた技術とSiCの採用などにより、出力密度を2倍にすることも目標に掲げています。

平井俊弘専務執行役員
平井俊弘専務執行役員

日産でパワートレーン開発を統括する平井俊弘専務執行役員は、プレス向けの説明会で、「X-in-1の主要部品であるモーター、発電機、インバーター、減速機と増速機は、同一の生産ラインでBEVとe-POWERの混流生産が可能な設計になっています。e-POWERは、2026年までにエンジン車と同等のコストを、BEVは、全固体電池なども含めバッテリーの革新とクルマ全体での取り組みによりコスト削減を目指す」と説明しています。

究極のコスト削減を目指す
究極のコスト削減を目指す

ここからは、e-POWERに目を向けてみます。日産は、初代リーフをベースとしたe-POWER搭載車の試作機を製作。この試作車は、e-POWERを搭載するため、ガソリンの充電リッドを運転席側後方に設置し、リーフにあるフロントの充電リッドを廃止。なお、充電口を新たに助手席側後方に用意。第1世代のe-POWERは、リーフと同時期の早い段階から開発されてきたことになります。

初代リーフを改造したe-POWER試作車
初代リーフを改造したe-POWER試作車

同社は、2030年代早期に主要市場で新型車の100%電動化を掲げていて、27車種の電動車、10車種のBEVを投入する長期ビジョン「Nissan Ambition 2030」を発表済みです。


●e-POWERは、「発電所がクルマの中にあるEV」

日産は、世界でもいち早くBEVの開発を手がけ、BEVに加えe-POWERとの2本柱で電動化を進めてきました。100%電動駆動のメリットをいち早く理解しています。e-POWERのアプローチは、100%モーター駆動を軸として、逆算のアプローチで誕生したそう。

先述したように、リーフとほぼ同じ時期にe-POWERの原形となる試作車を開発。リーフに発電専用エンジンを積んだ試作車が開発されていたのです。技術としては、シリーズハイブリッドではありますが、高効率なエンジン、小さなバッテリーにより「発電所がクルマの中にあるEV」というイメージです。

リーフにガソリンの給油口を用意した
リーフにガソリンの給油口を用意した

ここで、e-POWERがすでに実現しているメリット、そして今後のe-POWERが目指す技術をまとめてみます。

e-POWER車のオーナーなら体感していると思いますが、同パワートレーンは、日常域でのストレスフリーな走りを可能にしているだけでなく、雪上や氷上でも驚くほどスムーズに走行できます。ペダルの踏み替え頻度を減らすなど、潜在的なストレスをゼロにすることも目指しています。

電動化により付加価値を提供する
電動化により付加価値を提供する

e-POWERでは、モーターの駆動力、制動力を緻密に制御することで、ドライバーの加速減速の頻繁な踏み替えの操作を減らし、ドライバーが無意識に行っている細やかな操舵も減らすことができます。

100%モーター駆動の利点
100%モーター駆動の利点

また、100%モーター駆動であるe-POWERは、電気信号のスピードで加速を制御できる利点があり、スムーズな加速を引き出せます。モータートルクをいったん緩めてから振動を抑え、力強いトルクを即座に発生するという同社独自の制御により、素早く力強く、滑らかに加速させることができます。これは、高速道路の合流などで実感できる長所です。

e-POWER制御のあり、なしの違い
e-POWER制御のあり、なしの違い

さらに、悪路などではモーター4WDが活用されています。すでに実用化されている「e-4ORCE」がそれ。ブレーキとモーターの協調により、安定した車両挙動を実現しています。加減速時や旋回時の姿勢が安定しているため、スムーズな走行が可能で、砂地や深雪でもe-POWERの制御「あり」、「なし」では明確な違いが現れるそうです。

ほかにも、ノーズダイブを抑制することで、ドライバーだけでなく、乗員の揺れを抑え、酔いにつながる動きも抑制。ピッチ中心を動かし、ドライバーに近づけ、前後の回生配分を変えることでノーズダイブなどを抑制することができます。

酔いにくさにも寄与する
酔いにくさにも寄与する

さらに、制振制御によりわずかな音も防ぐこともe-POWERの狙いで、巻線界磁式モーターで磁力を自在にコントールすることで、モーター音の抑制も可能になるそう。現在、次世代e-POWERユニットではエンジン単体の熱効率45%も視野に入っており、さらなる進化によりその目標値は50%とアナウンス済みで、燃費の面でもさらなる向上が期待できます。

ガソリンエンジン車と同等のコストを目指す
ガソリンエンジン車と同等のコストを目指す

今回の発表では、具体的な商品(モデル)には言及されませんでしたが、次期リーフや次期ノートなどにはもちろん、新たな電動車両に新開発の電動パワートレーンが搭載されることが期待されます。

(文・写真:塚田勝弘)

この記事の著者

塚田勝弘 近影

塚田勝弘

1997年3月 ステーションワゴン誌『アクティブビークル』、ミニバン専門誌『ミニバンFREX』の各編集部で編集に携わる。主にワゴン、ミニバン、SUVなどの新車記事を担当。2003年1月『ゲットナビ』編集部の乗り物記事担当。
車、カー用品、自転車などを担当。2005年4月独立し、フリーライター、エディターとして活動中。一般誌、自動車誌、WEB媒体などでミニバン、SUVの新車記事、ミニバンやSUVを使った「楽しみ方の提案」などの取材、執筆、編集を行っている。
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