ルノー「カングー」にADAS=先進運転支援機能を搭載。乗り味は乗用車、ユーティリティは商用車の人気モデル【ルノー・カングーとは?】

■ルノー・カングーの歴史:商用モデルにルーツを持つビッグラゲッジの伝統

2023アルピーヌF1
2023アルピーヌF1

かつてはルノー自身が、現在は子会社のアルピーヌがF1でも活躍するなど、ルノーはスポーツモデルを中心に製造するメーカーだと思われることもあります。

しかし、その実態はピックアップトラックやデリバリーバンなど、商用車も製造する総合自動車メーカーです。ルノートラックスというトラックメーカーも存在しますが、現在、同社はボルボグループに属しています。

ルノー4フルゴネット
ルノー4フルゴネット

ルノーは1960年代にルノー4(キャトル)をベースに、荷室部分を拡大した「フルゴネット」というモデルを発売します。その後、1980年代にはシュペール5(サンク)に同様の荷室拡大を施した「エクスプレス」というモデルを発売します。もちろん、荷物を搭載することを重視した商用車としての登場です。

初代カングーのフロントスタイル
初代カングーのフロントスタイル
初代カングーのリヤスタイル
初代カングーのリヤスタイル

そのエクスプレスの後継となるのが、1997年に登場する初代「カングー」です。初代カングーはクリオ(日本名ルーテシア)をベースにしていました。

カングーの日本での販売は2002年3月から始まりました。

当初のモデルは上ヒンジのリヤハッチボディ。ホイールベースは2600mmで、全長×全幅×全高は4035×1675×1810(mm)と、5ナンバーサイズでした。当初のエンジンは1.4リットルの直列4気筒。

2003年8月のマイナーチェンジでは、観音開きドアを追加するとともに、エンジンを1.6リットル直4に変更。2004年には5MTモデルが追加されます。

2代目カングーのフロントスタイル
2代目カングーのフロントスタイル
2代目カングーのリヤスタイル
2代目カングーのリヤスタイル

2007年にフルモデルチェンジして2代目に移行。2代目カングーはセニックをベースとしています。日本では2009年9月から発売されました。

全長×全幅×全高は4215×1830×1930(mm)、ホイールベースは2700mmで堂々とした3ナンバーサイズになります。搭載エンジンは1.6リットルでミッションは4ATと5MTが用意されました。

2013年8月にはマイナーチェンジが行われ5MTを廃止、4ATのみとなりますが、2014年1月には5MTを復活させます。2014年5月には1.2リットル4気筒ターボ&6MTモデルを追加。2016年7月、1.2リットル4気筒ターボに乾式デュアルクラッチ式6速の2ペダルミッション「EDC」が追加となります。

2代目カングーは毎年、多くの特別仕様車を設定、存在しています。2020年には3代目を発表。日本では2023年2月に正式に発表されました。

●カングーの基本概要 パッケージング:メガーヌやエクストレイル、アウトランダーと同一プラットフォームで搭載性を格段に向上

カングーのフロントスタイル
カングーのフロントスタイル

初代のカングーはクリオ(ルーテシア)や日産ノートと同じCFM-Bプラットフォームを採用していましたが、2代目からはメガーヌIIなどと共通性のあるCプラットフォームとなりました。

新型の3代目は、メガーヌIVや現行日産エクストレイル、三菱アウトランダーと同じCFM-C/Dプラットフォームとなりました。従来型よりもホイールベースは15mm、全長が210mm延長、全幅は30mmm拡大されました。

本国のカングーにはロングホイールベースとショートホイールベースが存在しますが、日本に導入されるのはショートホイールベースモデルとなります。

カングーの最大の魅力は、そのユーティリティ性能の高さです。

ラゲッジルーム開口部幅は、従来型よりも131mm広げられ1256mmとなりました。定員乗車状態の奥行きは100mm伸ばされ1020mmに、2名乗車としたときは80mm伸びて1880mm。ラゲッジルーム容量は定員乗車時が+115リットルの775リットル。2名乗車時は+132リットルの2800リットルと大幅に拡大されています。

カングーは商用モデルがベースとなっています。開発時にはフランス郵便など、大手の配送業者からたくさんの意見を聞いて作られていて、開口部をできる限りスクエアにするなど、少しでも多くの荷物を搭載できることが重視されています。

●カングーの基本概要 メカニズム:ガソリンターボとディーゼルターボ、ふたつのパワーユニットを用意。EVやハイブリッドは設定されず

日本仕様のカングーはガソリンエンジンモデルとディーゼルエンジンモデルのみ
日本仕様のカングーはガソリンエンジンモデルとディーゼルエンジンモデルのみ

フランス本国では商用モデルにEVが設定されていますが、日本ではEVの設定はなく、ガソリンエンジンとディーゼルエンジンのみです。

EVの導入についてたずねたところ、「本国でもEVは商用モデルしかない。日本は乗用モデルのみの設定で、日本への導入台数も年間で2000台前後、この台数でEVを日本の急速充電規格である、CHAdeMO規格に合わせるのは難しい」とのことでした。

ガソリンエンジンは1.3リットルの直列4気筒直噴ターボ。スペックは131馬力/240Nmです。この1.3リットルエンジンはルノー、日産、三菱のアライアンスに加えて、メルセデス・ベンツも参加した共同開発となっています。

カングーにはルノーブランドのほかに、メルセデス・ベンツ・シタンという兄弟車も存在するのです。また、余談ではありますが、ダチアブランドのドッカーというモデルも兄弟関係にあり、すべてのモデルが専用工場であるルノー・ブージェ工場で生産されています。ブージェ工場は、カングーとその兄弟車のみを製造する工場です。

カングーに搭載されるガソリンエンジン
カングーに搭載されるガソリンエンジン
カングーに搭載されるディーゼルエンジン
カングーに搭載されるディーゼルエンジン

ディーゼルエンジンは1.5リットルの直4ターボで、スペックは116馬力/270Nm。PMの除去はDPF(ディーゼル・パティキュレート・フィルター)で行い、窒素酸化物はアドブルーの噴射によって約90%除去されます。

ミッションはガソリン、ディーゼルともにデュアルクラッチ式の7速ATとなりました。

先代で採用されていたデュアルクラッチ式は乾式クラッチを用いるものですが、新型は湿式クラッチに変更。ガソリン、ディーゼルともに変速比は同一ですが、最終変速比はディーゼルのほうが小さく(重く)なっています。

インパネからせり出したベースに装備されるATセレクター
インパネからせり出したベースに装備されるATセレクター
ACC関連のスイッチはステアリングスポーク左に装備される
ACC関連のスイッチはステアリングスポーク左に装備される

先代では未装備だったADAS(先進運転支援機能)も装備。ACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)は0~170km/hの範囲で作動するストップ&ゴー機能付き、レーンキープアシストは車線中央維持機能付き、後方から近づくクルマに対しては、ドアミラー内への警告灯表示に加えて、ステアリング操作による接触回避も行うブラインドスポットインターベンションが装備されます。

●カングーのデザイン:ユーティリティ性は高いまま、乗用車ライクなスタイリングを実現

乗用車的スタイルが与えられているカングーのエクステリア
乗用車的スタイルが与えられているカングーのエクステリア

もともとが商用車として生まれたカングーは、そのユーティリティ性を損なうことなく、いかにスタイリッシュに見せるかということが求められました。

カングーにとって、ユーティリティを犠牲にしてまでデザイン性を上げることは絶対にあり得ません。いかに効率よくデザインをよくしたかが注目点です。

リヤサイドドアはスライド、リヤハッチは観音開き
リヤサイドドアはスライド、リヤハッチは観音開き

サイドスタイルではグラスエリアが狭くなったことで、低重心感を強調。Aピラー角度は従来よりも寝かせられ、流線型フォルムとなったことで、ダイナミックな印象が強くなっています。リヤゲートの上方は搭載性に影響のない範囲で角度が付けられています。

フロントはクロームパーツを数多く装着し上級感をアップ。ヘッドライト、CシェイプのデイタイムランプともにLEDを採用。インテンスはボディ同色のバンパー、クレアティフと受注生産となるゼンはブラックバンパーを装備します。

カングーのリヤスタイル
カングーのリヤスタイル

リヤのランプ類もLED。カングーを真後ろから見るとリヤコンビランプはリヤハッチのギリギリからボディいっぱいに配置されています。ちょうどこの部分が膨らませてあり、リヤフェンダーとなっている部分です。リヤハッチを開けるとラゲッジルーム内のサイドは切り立っていて、タイヤハウスの張り出しは一切ありません。

カングーのインパネまわり
カングーのインパネまわり

インテリアは乗用車的で、商用モデルのようなイメージはありません。インパネまわりもクロームパーツが多用されており、安っぽいイメージもありません。

液晶メーターパネルの視認性もよく、タコメーターの中心に速度がデジタル表示されるので、エンジン回転と速度を直感的に読み取ることができます。

●カングーの走り:ガソリン、ディーゼルともにトルク感よし、湿式デュアルクラッチは使い勝手もいい

カングーのガソリンモデル。グレードはクレアティフ
カングーのガソリンモデル。グレードはクレアティフ

ガソリンエンジンモデルを中心に試乗を行いました。

エンジンの吹け上がりは軽快で、気持ちよく走ることができます。デュアルクラッチ式のミッションは、非常にシームレスに変速していき、ストレスを感じることはありません。

カングーのインパネ周り
カングーのインパネ周り

カングーにはノーマル、エコ、ペルフォという3つの走行モードが設定されています。ペルフォモードは荷物をたくさん搭載した際などに使うモードとのことで、走行中に切り替えてみても特に大きな変化は感じられませんでした。

ノーマルモードでの走行時は、アクセルを踏むとタコメーターの針がカクカクと1000回転刻みで動くような演出ですが、エコモードにすると少し連続性をもった動きに演出されます。実際、トルクの出方もゆったりとなる印象です。

デュアルクラッチ式のミッションは、一般的なATのようにトルクコンバーターを介さないので、ダイレクト感が強いと表現されることもあります。が、最近は一般的なAT、そしてCVTであっても十分なダイレクト感を得ているので、大きな差はないといえるでしょう。

デュアルクラッチ式は、車庫入れなどのゆっくりとした動きが苦手なこともあるのですが、カングーに関してはそうした不具合を感じることもありませんでした。

ディーゼルエンジンモデルはミッションのギヤ比は同一ですが、ファイナルギヤのギヤ比が小さく(重く)設定されているので、エンジン回転は低めとなります。こうしたことができるのも、ディーゼルエンジン特有の低回転からの太いトルクがあるからです。

メーター配置は奇をてらわず、誰もが見やすいもの
メーター配置は奇をてらわず、誰もが見やすいもの

ハンドリングはきわめて普通です。コーナーで攻めるような運転をするクルマでもありませんし、それで十分だと判断できます。

ACCの制御も正確で、車線中央維持もしっかりと行ってくれます。車線を維持しようとするときの動きもスムーズで、好感が持てます。

観音開きドアのため、ルームミラーでの後方視界が窓枠で遮られる部分があります。筆者はあまり好きではないのですが、デジタルルームミラーにすればこの問題は解決できるので、ルノーでも考えているそうです。普通のリヤウインドウで視界が遮られないなら光学ミラーのほうが遠近感がわかりやすく、人間のピントも合わせやすいのですが、視界が遮られるデメリットを考慮すればデジタルミラーは有効性が高いといえます。

商用車ベースの大柄なボディであることを考えると、ノイズや振動もよく抑えられている印象です。フロアが平たく広いので、若干フロアに微振動がでますが、大きくは気にならないでしょう。

リヤシートでの試乗もしましたが、大きな荷室を持つわりにはノイジーな印象はありません。ハードタイプのトノカバーが効果的に遮音しているのかもしれません。

●カングーのラインアップと価格:インテンスとクレアティフは同価格、ディーゼルはガソリンの24万円高

ガソリンエンジンモデル、ディーゼルエンジンモデルともにインテンスとクレアティフというグレードが設定されています。加えてガソリンエンジンモデルには、受注生産モデルのゼンが用意されます。

カングー・インテンスのリヤスタイル
カングー・インテンスのリヤスタイル
クレアティフのリヤスタイル
クレアティフのリヤスタイル

インテンスはボディ同色バンパー、コーナリングランプ機能付きのフロントフォグランプ、ボディ同色スライドレールガーニッシュ、LEDドアミラーランプ、フルホイールキャップが装備される乗用イメージが強いグレードです。

クレアティフはハーフホイールキャップを装着する
クレアティフはハーフホイールキャップを装着する
インテンスはフルホイールキャップを装着
インテンスはフルホイールキャップを装着

クレアティフはバンパーとスライドレールガーニッシュがブラック、フォグランプがコーナリングランプ機能レス、ドアミラーランプが電球、ホイールキャップがハーフタイプとなります。

このハーフタイプのホイールキャップは商用モデル用のもので、このホイールキャップを装着する乗用モデルは日本仕様のみです。

こう書くと、クレアティフのほうがリーズナブルな価格設定になっているように思う方も多いでしょうが、グレード間での価格差はなく、インテンスとクレアティフは同価格で、ガソリンエンジンモデルは395万円、ディーゼルエンジンは419万円です。

受注生産モデルのゼンは、エクステリア関連がクレアティフと同様で、メーターがアナログ、エアコンがマニュアル、レーンセンタリングアシストなどが未装備となります。

今回のフルモデルチェンジに合わせて、特別仕様車のプルミエール エディションが設定されました。プルミエール エディションはクレアティフをベースに、クレアティフには設定のないボディカラーのブラウン テラコッタ・メタリック、グリ ハイランド・メタリック、 ブルー ソーダライト・メタリックのボディカラーを設定したモデルで、クレアティフに比べて5万5000円高のガソリンエンジン車が400万5000円、ディーゼルエンジンモデルが424万5000円となります。

●ルノー・カングーのまとめ:ラゲッジルームの搭載力を最重視した考えは、ユーティリティ優先のユーザー向き

カングーのフロントスタイル
カングーのフロントスタイル

国産車で大容量のラゲッジルームを持つモデルを選ぶとなると、ミニバンもしくは1ボックスとなりますが、どちらも視線が高いドライビングポジションとなってしまいます。視線の低いステーションワゴンでは、今度はラゲッジルームの容量は限られてしまいます。

カングーのスタイリングだけを見ると、車高が低めの日本のミニバンとあまり変わらないように感じますが、ラゲッジルームの圧倒的な広さはカングーならではです。カングーがここまでラゲッジルームを大きくできているのは、商用モデルベースだからといえます。

日本のユーティリティ系モデルは商用モデルと決別をしたために、乗用車的性能はアップしてきましたが、引き替えにラゲッジルーム容量などのユーティリティ性は伸ばしきれずにいます。

フロントシートバックテーブルは全車標準装備
フロントシートバックテーブルは全車標準装備

乗用性能、ユーティリティ性能どちらも欲しい…という思いは、日本のミニバンもカングーも同じですが、どちらよりになるか?は、やはりそのルーツに大きく影響します。ユーティリティ優先のユーザーにとって、カングーは他にはない魅力にあふれているのです。

ルームミラーの上にあるのは、車内を見るためのチャイルドミラー
ルームミラーの上にあるのは、車内を見るためのチャイルドミラー

従来モデルのカングーはADAS装備もなく、装備面での競争力は低いものでしたが、それでも人気は高く、多くのファンに支えられてきました。新型はADASが装備され、競争力も向上したことで、またもや人気となること請け合いです。

懸念は大きくなったボディサイズですが、この部分が気にならない方ならば、今まで二の足を踏んでいた方も購入に踏み切ることでしょう。

今後も毎年のように特別仕様車が登場してくるでしょうし、MTモデルの追加も考えられます。カングーが気になる方は、今後の情報も見逃さないようにお気を付けください。

リヤハッチは観音開き式
リヤハッチは観音開き式

(文・写真:諸星陽一)

●ルノー・カングー主要諸元
・寸法
全長×全幅×全高(mm):4490×1860×1810
ホイールベース(mm):2715
トレッド 前/後(mm):1580/1580
車両重量(kg):1560〈1650〉
・エンジン
タイプ:直4DOHCガソリンターボ〈直4 OHCディーゼルターボ〉
排気量(cc):1333〈1460〉
最高出力(kW(ps)/rpm):93(131)/5000〈85(116)/3750〉
最大トルク(Nm(kgm)/rpm):240(24.5)/1600〈270(27.5)/1750〉
・トランスミッション:デュアルクラッチ式7速
・ドライブトレイン:FF
・燃料消費率(FF車、WLTCモード、km):15.3〈17.3〉
・シャシー
サスペンション(F/R):ストラット/トーションビーム
タイヤサイズ:205/60R16
ホイールサイズ:16×6.0J
ブレーキタイプ(F/R):ベンチレーテッドディスク/ベンチレーテッドディスク
※〈 〉内はディーゼルエンジンモデル

●ルノー・カングー バリエーション&価格
ガソリンエンジンモデル
インテンス:395万円
クレアティフ:395万円
ゼン(受注生産車):384万円
プルミエールエディション:400.5万円

ディーゼルエンジンモデル
インテンス:419万円
クレアティフ:419万円
プルミエールエディション:424.5万円

この記事の著者

諸星陽一 近影

諸星陽一

1963年東京生まれ。23歳で自動車雑誌の編集部員となるが、その後すぐにフリーランスに転身。29歳より7年間、自費で富士フレッシュマンレース(サバンナRX-7・FC3Sクラス)に参戦。
乗って、感じて、撮って、書くことを基本に自分の意見や理想も大事にするが、読者の立場も十分に考慮した評価を行うことをモットーとする。理想の車生活は、2柱リフトのあるガレージに、ロータス時代のスーパー7かサバンナRX-7(FC3S)とPHV、シティコミューター的EVの3台を持つことだが…。
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