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■車両価格は税込み440万円ぽっきり!の潔さ
日本市場での乗用車販売へ本格的に乗り出したBYD。その第一弾となる「ATTO 3(アットスリー)」が、2023年1月31日に国内販売をいよいよスタートしました。
電気だけで走るコンパクトサイズの5人乗りSUVは、目下各方面から熱い視線を集めています。その注目の理由とは?
「日本の乗用車市場へ参入します」 最新のEVを3モデル携えて、BYDがそう宣言したのは2022年7月のことでした。
「中国製の電気自動車ってどうなの?」「テスラを脅かす存在って本当?」 期待と不安の入り交じる中、中国発の電動車メーカーとして急成長を遂げる“大型新人”がいよいよ上陸したのです。
日本販売モデルの旗手となるのが、5人乗りコンパクトSUVのATTO 3(アットスリー)です。ちなみに車名のATTOは、物理学で測定可能な最小単位「ATTOSECOND」に由来しているとか。
全長4.4m×全幅1.8m×全高1.6mのボディサイズをもつATTO 3は、日産アリアやトヨタ bZ4X、ヒョンデ アイオニック5、フォルクスワーゲン ID.3といったライバル勢とまっこう勝負する存在です。サイズ感、航続距離、パワーなどを競合と簡単に比較してみると……
●ATTO 3
全長:4455×全幅1875×全高1615m、ホイールベース2720m
車重:1750kg
最小回転半径:5.35m
最高出力:150kW(204ps)/3600〜7400rpm
最大トルク:350Nm/0〜3200rpm
バッテリー総電力量:58.0kWh
サスペンション:前マクファーソンストラット 後マルチリンク
タイヤサイズ:前後235/55R19
一充電走行距離:485km
車両本体価格:440万円
●日産 アリア
全長:4595×全幅1850×全高1655m、ホイールベース2075m
車重:1920kg
最小回転半径:5.4m
最高出力:160kW(218ps)/5950〜13000rpm
最大トルク:300Nm/0〜4392rpm
バッテリー総電力量:66.0kWh
サスペンション:前ストラット 後マルチリンク
タイヤサイズ:前後235/55R19
一充電走行距離:470km
車両本体価格:539万円〜
●トヨタ bZ4X
全長:4690×全幅1860×全高1650m、ホイールベース2850m
車重:1920kg
最小回転半径:5.6m
最高出力:150kW(204ps)
最大トルク:266Nm
バッテリー総電力量:71.40kWh
サスペンション:前マクファーソンストラット 後ダブルウィッシュボーン
タイヤサイズ:前後235/60R18
一充電走行距離:559km
車両本体価格:リース専用車(月額利用料10万6700円※1〜4年目。補助金適用前)
●ヒョンデ アイオニック5
全長:4635×全幅1890×全高1645m、ホイールベース3000m
車重:1870kg
最小回転半径:5.99m
最高出力:125kW(170ps)/3600〜7400rpm
最大トルク:350Nm/0〜3200rpm
バッテリー総電力量:58.0kWh
サスペンション:前マクファーソンストラット 後マルチリンク
タイヤサイズ:前後235/55R19
一充電走行距離:498km
車両本体価格:479万円〜
●フォルクスワーゲン ID.4
全長:4585×全幅1850×全高1640m、ホイールベース2770m
車重:1950kg
最小回転半径:5.4m
最高出力:125kW(170ps)/3851〜15311rpm
最大トルク:310Nm/0〜3851rpm
バッテリー総電力量:52.0kWh
サスペンション:前マクファーソンストラット 後マルチリンク
タイヤサイズ:前後235/60R18
一充電走行距離:435km
車両本体価格:499万円(Lite Launch Edition)〜
ざっと眺めてみると、輸入3モデル(ATTO 3、アイオニック 5、ID.4)の性能や価格帯が非常に拮抗していることがわかります。
ただし、上記車両価格は補助金適用前のもの。ATTO 3とアイオニック5はV2H・V2L、いわゆる車外への給電機能に対応しているので補助金は85万円。対して、給電機能をもたないID.4のそれは65万円となります。
つまり、価格面だけ見ると、ATTO 3とアイオニック5が一頭地抜けてリーズナブルな存在といえるのです。
●魅力的な装備はすべて「標準装備」のモノグレード展開
さらにいえば、ATTO 3は装備てんこ盛りのモノグレードとしているのがポイント。
ボタンひとつでタテ・ヨコに回転する大型タッチスクリーンをはじめ、先進のADASやGPSナビゲーション、ドライブレコーダー、広大なサンルーフ、前席シートヒーター、車外給電機能といった装備・機能類を“全部のせ”して440万円ぽっきり。
「選べるのはボディカラーのみ」という潔いグレード構成としているんです。
アイオニック5もかなり攻めた価格設定といえますが、479万円のエントリーグレードはサンルーフやドラレコが標準化されていないなど、わずかに装備面で上級グレードとの差が見られるようです。
価格の話ばかりしてしまうと、「安かろう、云々なのでは?」と疑念の目をもたれてしまうかもしれません。いえいえ、とんでもない。ATTO 3、見ても乗っても使っても、全方位でかなりの優等生なんです。
●どの乗員の命令かを聞き分ける音声アシスタント
まず、見た目。元アウディのヴォルフガング・エッガーがデザインディレクターを務めているとあって、いかにも最新のSUVらしい流れるようなスタイリングをさらりと“着こなして”います。
ちなみに、車体に使われているプレス金型は、日本の「TATEBAYASHI MOULDING(旧オギハラ館林工場)」が設計・製造しているそう。
BYDの美しいボディ面を日本の技術が支えていると思うと、ちょっぴり嬉しい気持ちになりませんか?
内装の「フィットネスジム&ミュージック」というテーマには、昭和世代はちょっと戸惑いを覚えるものの、なんだか若いエンジニアがアイデアを出し合いながら作り上げていった勢いのようなものを感じます。
ドアポケットに張られた弦は、指で弾くと音程を奏でるという遊び心も。
でも、遊び心満載&ノリ優先かといえば、さにあらず。ソフトパッドを使ったダッシュボードや各部のがっしりとした建て付けなど、作りの良さがそこかしこに窺えます。
タテ・ヨコに回転する大型タッチスクリーンも、見た目だけの派手なギミックではなく、ナビの案内表示のときはタテにすれば行く手の情報が見やすくなるし、リヤビューモニターなどの際はヨコにすると広く視界が確保できるなど、用途別に使い分けられる機能的な意匠なんです。
ところで、日本仕様にはゼンリンの地図をベースにした日本語対応ナビが全車に搭載されていて、タテ・ヨコで表示も適宜調整されるので、非常に扱いやすく感じられました。
日本語対応といえば、音声アシスタント機能も優秀。前後席どこの乗員が話しているのかを認識するので、たとえば運転席のドライバーが「窓を開けて」といえば運転席側のウィンドウが開くし、パッセンジャーが「シートヒーターをつけて」といえば助手席側座席のヒーターがONになるという塩梅になっています。
●「はたらくクルマ」の知見が活きた耐久性・信頼性
ATTO 3の走りは、いい意味でとても自然。加速感、操舵感、制動感といった「走る・曲がる・止まる」を違和感なく行えるように仕上がっています。
電動車には、この3要素のいずれかに「あれ?」と首をひねるような感覚を覚えるクルマに出合う機会がまれにある中で、この素直なフィーリングを実現できているATTO 3にはBYDの底力を感じます。
ところで、BYDは中国で商用車を広く展開してきました。EVバスやEVトラック、EVタクシーといった「はたらくクルマ」が、ヘビーデューティーな現場へ投入され、そこで蓄積された知見は乗用モデルの信頼性や耐久性にもフィードバックされているそうです。
その代表例といえるのが、ATTO 3が搭載するリン酸鉄リチウムイオンバッテリー。強い衝撃や熱に強く、最も過酷とされる釘刺しテストでも熱暴走を引き起こさないという最新のバッテリーで、BYDではこれを“ブレード(=刃)バッテリー”と呼んでいます。
ことほど左様に、ATTO 3は知れば知るほどBYDのポテンシャルの高さをしみじみと感じる実力派SUVに仕上がっていました。このクルマの唯一のウィークポイントといってもいいのが、BYDというブランドの知名度かもしれません。
このあたりの不安を払拭せねばならないということはBYDジャパンもよくよく分かっていて、販売・サービス面ではあくまでリアルな対面にこだわる姿勢を貫く模様。スマホひとつでクルマが買える時代になった今ですが、あえて旧来の販売体制にこだわるようなのです。
お客様の顔をみて、お客様と直接話しをすることで丁寧にBYDを知って貰い、日本のユーザーとの信頼性を構築していく。それが実店舗配備の目的なのでしょう。
BYDは2025年までに全国へ100以上の実店舗を展開する予定で、2023年2月時点で、すでに東名横浜店、大阪堺店がオープンしています。
(文:三代やよい/写真:BYD)