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■東京オートサロンに展示した本気度の高さ
東京オートサロンといえばカスタムカーの祭典であるだけでなく、モータースポーツ活動をアピールする場としても知られています。2023年のオートサロンではホンダが次期GT500マシンとしてシビックタイプRをモチーフとしたマシンを初公開したことが大きな話題となりました。
そんなホンダのブースでは、二輪のモータースポーツ活動の新しい挑戦ともいえるマシンが展示されていたのです。
それが「CRエレクトリック プロトタイプ」です。
ホンダの二輪ファンであれば見ておわかりのように、競技用モトクロッサー「CRF」シリーズの電動バージョンといった趣きに仕上がっています。
バッテリー・モーター・トランスミッションがコンパクトにまとまったパワートレインには『無限』のロゴが刻まれていますが、無限は電動バイクでマン島TTに参戦するなど、モータースポーツ用バイクの電動化については一定の知見を持っています。
さらにラジエターの導風板あたりにはHRCのロゴも確認できます。つまり、これはホンダレーシングによるワークスマシンということです。
●新生HRCで電動プロジェクトが続く意義
電動パワートレインは四輪においてもシングルトランスミッションで一回減速するだけというのがスタンダードな構造といえますが、このCRエレクトリック・プロトについてもクラッチレバーやチェンジレバーが見当たらないため変速操作は不要の仕様になっていると考えられます。
変速操作不要と聞くとアマチュア向け、初心者をターゲットにしているというイメージを持つかもしれませんが、そうではないでしょう。
ホンダのワークスマシンとして、どのレベルをターゲットにしているのかは不明ですが、一般的に変速操作をなくしたほうが駆動ロスは減りますからモーター出力次第ではトップカテゴリーでも勝負権のあるパフォーマンスを目指せるといえそうです。
CRエレクトリック・プロトについては2019年に公開されたことがあるため、今回が初お目見えというわけではありません。むしろHRCが二輪・四輪のモータースポーツ活動をカバーする組織として新体制となっても、電動モトクロッサーへのチャレンジが継続されていることをアピールするのが、今回の展示から感じられるところです。
●右手の操作と発生トルクの関係には知見が必要
全社的にカーボンニュートラルを目指すホンダでは、二輪部門のゼロエミッション化・電動化についても具体的なロードマップを描いています。
とくにビジネス領域ではバッテリー交換型のスクータータイプ(原付二種クラス)を法人向けにローンチするなど、電動化を実際に進めています。
筆者は、原付クラスから大型二輪相当の出力を持つものまで、様々な電動バイクに試乗した経験がありますが、やはり出力が大きくなるほどに制御の緻密さが求められるという印象があります。
モーターの定格出力が600~1000W級までは前提としてパワー不足ですのでアクセル(スロットル)を全開にしても恐怖感はほとんどありませんし、発進トルクが強力なモーター特性もさほど気になりません。
しかし大型二輪クラスの大出力モーターになると、アクセル操作に繊細さが求められる印象もありますし、低速トルクの力強さをうまく制御していかないと乗りづらくなるという印象もあります。一般的なライダーが気持ちよくコントロールするには、右手の操作とトルクの出し方に一定の知見が必要といえます。
HRCが電動モトクロッサーを実戦投入するのか現時点では不明ですし、どのような開発を進めるのかもわかりませんが、モーターのレスポンスを最大限に引き出すようなセッティングではライディングが難しくなるであろうことは想像できます。逆にいうと、ライダーがコントロールしやすい制御ロジックを見つければ、それはファン領域の市販電動バイクにフィードバックできるはずです。
CRエレクトリックが「走る実験室」となって電動バイクの味つけに貢献することを期待したいと思います。