たった2ヶ月半でコンセプトから作り上げた学生パワーの集大成。日産愛知自動車大学校「セレナもくもくキャンパー」【東京オートサロン2023】

■想定ユーザーは30代独身男性!コンセプト作りから始まった

●始まったのは10月から出来上がりはクリスマスと短期間で完成

東京オートサロンには、毎年各種自動車関連の学校からカスタマイズカーの出展があり、時には思いもよらぬその発想、出来栄えが我々の目を驚かせつつも楽しませてくれます。

フロントはシンプルで自然に溶け込むデザイン
フロントはシンプルで自然に溶け込むデザイン
リヤスタイルはセレナらしさを残す
リヤスタイルはセレナらしさを残す

こちら、日産愛知自動車大学校でも、学生さんが手掛けたカスタマイズカーを東京オートサロン2023に出展されています。

一足先に、同校の自動車整備・カーボディマスター科で手掛けたカスタマイズカー「セレナもくもくキャンパー」を見せていただきました。

「セレナもくもくキャンパー」は、C27セレナをベースに、「お一人様の休日を最大限に楽しめる」ことをコンセプトにカスタマイズされました。結果、どこへでも行けて、すぐにキャンプが楽しめる仕様になっています。ちなみに想定ユーザー像も考えられており、30代の独身男性とのこと。

Y33セド/グロのライト周りにキューブのバンパー
Y33セド/グロのライト周りにキューブのバンパー

まず、フロントマスクにはY33セドリック/グロリア用ヘッドライトを移植、フロントバンパーはこれまた日産キューブ用をうまくはめ込んでいます。ボンネットもFRPで作成し、その表面はボディ下回りを塗るのによく使われるシャシーブラックを用いてざらついた感じに塗装してあり、男らしさとワイルドな印象を魅せています。この当たり、板金塗装を学んだ技術がフルに生かされています。

サイドのスライドドアは跳ね上げ式に大改造!
サイドのスライドドアは跳ね上げ式に大改造!

最大のポイントとも言えるのが、右サイドのスライドドアを跳ね上げ式にと変更している部分。乗り降りにはやや中途半端にも見える角度で開いてますが、これはキャンピングカーなどアウトドアシーンで定番に見かけるサイドオーニングとして利用できるように工夫したのだといいます。

サイドオーニングとして使うことを考えた位置で固定可能
サイドオーニングとして使うことを考えた位置で固定可能

もっとも大変だったのはその跳ね上げドアリンク機構部分。校内で学んだ溶接技術を駆使し、鉄板を加工してオリジナルのリンクを作成し、見事に上下して、きっちり開いてきっちり閉じるように仕上がっていました。開閉にややコツが必要だったのは手作りの証といったところでしょう。

跳ね上げドアはあえて斜めの位置で固定する
跳ね上げドアはあえて斜めの位置で固定する

その跳ね上げドアから乗り込むと、木製のベッドが設えてあります。この木製であることも「もくもくキャンパー」のネーミングの由来のひとつですね。もちろん、一人でもくもくとキャンプに集中できる、ということも掛けてあるそうです。

室内には大人一人がゆったり寝られる木製ベッド
室内には大人一人がゆったり寝られる木製ベッド

その木製ベッドは跳ね上げることができ、バイクを積むことも可能となっています。

ルーフにはゴミなどを運ぶためのボックスを完備
ルーフにはゴミなどを運ぶためのボックスを完備

ルーフには木製のキャリアを搭載。ここには車内に置きたくない、BBQなどで生じた生ゴミなどを積んで帰ることを想定。今どきの学生さん、SDGsを意識しているのか、非常に真面目にきっちり作り込みますね。

●セレナの特徴を生かすためラダーは2分割にする

リヤラダーを2分割にするアイデアを思いついた
リヤラダーを2分割にするアイデアを思いついた

アウトドアシーンを意識して、ハイリフト化されたルーフ部分にアプローチするには、バックドアに設置されたラダーが活躍します。ここで問題となるのが、セレナの特徴である、2段構造のバックドア。大きなテールゲート全体だけでなく、上部のリヤウインドウ周辺部分だけを開けることができ、ちょっとした荷物の出し入れに重宝するわけですが、バンパー付近からルーフにかけてのラダーを1本付けちゃうと、このリヤウインドウ開閉に干渉してしまい、特徴を活かすことができなくなりそうです。

セレナの特徴であるリヤハッチの開き方も生かした
セレナの特徴であるリヤハッチの開き方も生かした

そこで考えついたのがラダーも2分割にするというアイデア。2分割にしたことで、その上部パーツで大きな荷重を支えなくてはならず、かつリヤスポイラーを避けるため、これまた学習した溶接技術を駆使してラダーのステーを作製。みごとにスポイラーに干渉せず、シッカリと人の体重を支えられる2分割ラダーに仕上がっておりました。

タイヤはラフロードに入っていけるようブロックパターンを選択
タイヤはラフロードに入っていけるようブロックパターンを選択

さらに、どこへでも行けることを目指したため、車高のリフトアップに加え、ゴツいブロックパターンのオールテレイン系のタイヤを履きたいと考えました。しかし、そうしたタイヤは、セレナのノーマルスチールホイールに対して幅が広い製品ばかりしか見つかりません。

そこで、スチールホイールをぶった切って幅を広げて溶接加工。ここでも溶接技術が活きており、結果的に、変形こそあり得ますが、ラフロードでも決して割れないスチールホイールを履くことが可能になったのです。

運転席周りはウッドシートでドレスアップ
運転席周りはウッドシートでドレスアップ

運転席周りは木目調シートを貼るなどのカスタマイズが施されています。

大掛かりな溶接も含め車両全体に手が加えられた「セレナもくもくキャンパー」ですが、もっとも驚いたのはここまで聞いたその内容が、わずかな時間で完成されたという事実。どんなコンセプトにするかの話し合いから始めたのが2022年10月、それから完成が12月23日とのことなので、わずか2ヶ月半でできあがったということ。てっきり、卒業制作だから一年くらいかけて仕上げてるもんだと思いましたが、そんな事はありませんでした。

セレナもくもくキャンパー製作リーダーの大村航輝クン
セレナもくもくキャンパー製作リーダーの大村航輝クン

リーダーの自動車整備・カーボディマスター科3年の大村航輝クンをリーダーとして、どのような車両に仕上げるか、ベース車はどうするかから始まって、フロント、サイド、リヤ部分などと部位ごとに担当グループ分けを行い、まとめていくことで短期間に仕上げることができたようです。

「セレナもくもくキャンパー」を製作した自動車整備・カーボディメカニック科のメンバー
「セレナもくもくキャンパー」を製作した自動車整備・カーボディメカニック科のメンバー

時間やコストを惜しみなく費やす芸術作品を作るのでなく、ビジネスとしてその任務を時間内に遂行する事も含めて、この卒業制作で学ぶ。その経験を活かしながら、社会へと出ていくんだなと、自然に彼らの卒業風景が目に浮かんできました。


●国籍、性別、世代を超えた価値観の多様性も学んでほしい

松川健一校長が好きなクルマはR30スカイラインとのこと
松川健一校長が好きなクルマはR30スカイラインとのこと

こうした学生によるカスタマイズカーづくりを卒業制作的に続けてこられている日産愛知自動車大学校ですが、その特徴などを、松川健一校長にお聞きしました。

ーー日産自動車大学校は5校ありますが、愛知校の校風の特徴などについて教えてください。

松川校長 自動車の基礎、実践力を養って自動車整備士の国家資格二級や一級の取得を目指すのはもちろんですが、今回見ていただいたカスタマイズカーを製作した3年課程の自動車整備・カーボディマスター科があるのも特徴です。そこでは国家車体整備士資格も目指します。それに、モータースポーツやカート、オートバイも学ぶマスターメカニック科もあります。

ーー学校の雰囲気に特徴はありますか?

松川健一日産愛知自動車大学校校長
松川健一日産愛知自動車大学校校長

松川校長 日産自動車大学校全体にも言えるとは思いますが、特に愛知校は学生と教員の距離感が近いのではないでしょうか。カーボディ科、マスターメカニック科など、車体整備や車両のチューニング、オートバイのことを学びたいという学生さんからのニーズに応えての学科設置につながっていますし、コロナで中断していた学園祭などのイベントも、学生さんからの開催したいという強い思いのプレゼンを受け、十分な感染対策のもと、再び行うことができました。このように、学生の自主性、そしてそれを受け止める教員側の体制が整っているのではないでしょうか。

ーー自動車への基礎技術や資格の取得以外で、愛知校で学んでほしいことはなんでしょう。

松川校長 社会で活躍できる人間力を養うために、何でも自主的、主体的に取り組んでほしいと考えています。また、学校には海外からの留学生、社会人を経験してから入学するひと、中には60歳を過ぎてセカンドキャリアとして入る人もいます。もちろん女子学生もいます。そのように世代や性別や国籍などを超えた価値観を共有してもらい多様性を学んで社会に出てほしいと願っています。

ーーありがとうございます。


日産愛知自動車大学校の校舎は建築賞を受賞
日産愛知自動車大学校の校舎は建築賞を受賞したそう

●必ず必要とされる人材となる

短時間ですが、校内を見せていただき、本当に学生さんと教員のかたの雰囲気が先生・生徒というより、仲のいい先輩・後輩のようにも見えました。聞くところによると、卒業生が教員として働くパターンも多いらしく、学生の気持ちがよくわかった教員が勤めていることも、学生と教員の距離が近く感じられた要因でしょう。愛知校は教室も実習場も食堂も、すべての自動車大学校の機能がひとつの建物に集約していますが、これも一因かもしれません。

校内には日本語学校を卒業した留学生も複数いて、国際的な感覚も学べるんだろうと思いました。

今後、我々の周りから自動車が消えてしまうことも、一切整備が不要になることも考えられません。自動車整備士の国家資格を取得すれば、食いっぱぐれることなどはまずないでしょうし、自動車やオートバイが好きならなおのこと好きを身近にしながら社会人生活ができます。

自動車の整備士の道は、社会人として悪くないなと正直に感じましたし、将来、自動車産業に必ず必要とされる人材となるはずの学生さんを見ると、改めて少し頼もしくも思えてきました。

(文・写真:小林和久)

Sponsored by NISSAN AUTOMOBILE TECHNICAL COLLEGE

この記事の著者

小林和久 近影

小林和久

子供の頃から自動車に興味を持ち、それを作る側になりたくて工学部に進み、某自動車部品メーカへの就職を決めかけていたのに広い視野で車が見られなくなりそうだと思い辞退。他業界へ就職するも、働き出すと出身学部や理系や文系など関係ないと思い、出版社である三栄書房へ。
その後、硬め柔らかめ色々な自動車雑誌を(たらい回しに?)経たおかげで、広く(浅く?)車の知識が身に付くことに。2010年12月のクリッカー「創刊」より編集長を務めた。大きい、小さい、速い、遅いなど極端な車がホントは好き。
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