新型「アトレー」のLEDヘッドライトに潜む、もうひとつの機能とは?【新車リアル試乗6-5 ダイハツアトレー サイドビューランプ編】

■ここにもあった「クラス初」! 新型アトレーに潜むサイドビューランプの効用

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その効用性は実に高い!

「リアル試乗・アトレー」第5回は、第4回のライト回の続き。

前回、ライトの話を進める中、すっとぼけて飛ばした機能があります。

アトレーのランプが、筆者が常日頃「こうであれば」という望みを叶えてくれていることは前回述べたとおりですが、実はもうひとつあるのです。

なかなか使いものになる機能だったので、わざわざ独立させたしだいです。

何かというとですね…

●やはり必要。斜め前方を照らすライト

ヘッドライトは夜間、前方を照らすのが本分ですが、筆者などは、本当はクルマの前後左右、できりゃあ上下も…いっそ全方位360度、クルマを中心に、球の形で昼間の光と同じくらい明るくしてほしいと思っているほどです。まあ、そんなバカなことはないとして、いまのクルマは安全だ、明るいLEDだと叫ぶ割には、夜間に於ける斜め前方照射について希薄というか、冷淡のような気がします。

かつてはターンシグナル点滅と同時に、コーナー位置に配したスモールランプの光を増量し、斜め前方を照射するコーナーリングランプを持つクルマが少なくなかったものですが、いつしか消え去りました。

実はアトレーのヘッドライトユニットには、斜め前方を照射するランプも内蔵しています。

いわく「サイドビューランプ」。

別に新型アトレーに始まったわけではなく、同じダイハツのロッキー、タントなどで実績済みのもので、何もないように見える場所に、こんなライトが隠されているのです。

百聞は一見にしかず。まずは写真をごらんください。

side view lamp 1 we
サイドビューランプは内側に隠すように配置されている

これです。

筆者はこれまで、まずターンシグナル点灯時に灯り、副次的にハンドル操作連動で点灯する、速度制御なんか入っていない、シンプルなコーナーリングランプが望ましいと書いてきました。

右左折先への進入直前のハンドルまわしで初めて点灯するより、ターンシグナル操作の段階で点灯してくれるほうが、進入前から進む先の様子がわかる。山間道でのカーブ走行では、ターンシグナルなしのハンドル操作だけで点灯する。これが理由です。

アトレーのサイドビューランプは、メーター内のADB灯が点灯しているとき、次の3とおりのいずれかのときに点灯します。

・ハンドルを操作したとき(操作した側のサイドビューランプが点灯。)。
→ ロービームを消灯したとき、スイッチをAUTO以外にしたとき、ハンドルをまっすぐに戻したときのいずれかのときに消灯。

・ターンシグナルを点滅させたとき(点滅させた側のサイドビューランプが点灯・)。
→ ロービームを消灯したとき、スイッチをAUTO以外にしたとき、ターンシグナルスイッチを戻したときのいずれかのときに消灯。

・シフトレバーをRにしたとき(左右のサイドビューランプが点灯。)。
→ ロービームを消灯したとき、スイッチをAUTO以外にしたとき、シフトレバーをD、S、Bのいずれかにして車速が約5km/h以上になったとき消灯。

この3つは取扱説明書のとおりの順序で並べましたが、ターンシグナルありき、次にハンドル操作連動という、筆者の希望があるていど実現されていることがわかります。

というわけで、前回と重複気味になりますが、再度各ランプの点灯の様子を示す写真を載せますのでごらんください。

●かなり広い照射範囲

実際、山間道カーブではどうか、ADBでの山間道走りのときに確認しました。これも文章よりは写真で見るほうがわかりやすいと思うので、写真をごらんください。

これらはいずれも停車して運転姿勢で撮ったもの。もちろんカーブに差し掛かるとハンドルをまわすや(点灯するときのハンドル角度の確認は忘れました。ごめん!)、まわした側のサイドビューランプが、他のランプと同じくじわっと点灯。直進になるとじわっと消灯。それまで暗かった部分が「じわっ」の「ポッ」で明るくなるのは、レコード大賞受賞シーンで、大賞歌手を照らすスポットライトのイメージです。

フロントガラスに見る左カーブ先はよしとして、運転席ドアガラスを通してみる右進入先はドアミラーが邪魔をし、照射範囲を遮っていて功罪相半ば。実はアトレーのドアミラーは普通車顔負けの立派なサイズを有しており、ドアミラーのサイズを採るか、サイドビューランプによる視界確保を採るか、悩ましいところです。

車両からどの範囲まで照らしてくれるのか、寒空の下、上州の空っ風に吹かれて寒い…の次元を超え、風に刺されてほっぺたが痛いというシチュエーションの中、クルマの外側から写真を撮りましたのでごらんください。

クルマからかなり離れたところまで照らしているのがわかります。あんなちっちゃなLED素子ひとつでこんな遠くまで照らすとは!

筆者は過去、国産車ではこのランプを現行初期のレクサスLSで試しましたが、LSもこのアトレーも、斜め前方照射ランプはヘッドライトユニットのコーナーではなく内側…人間の目でいうところの涙腺の位置にあります。ことにアトレーのフロント前面はラウンドしていない平面に近いのに斜め先をこれだけ明るくするなんて、光量とリフレクターの設計がよほどうまいのでしょう。

ただ、謎な点もあります。

●車速制御は必要か?

さきほど「筆者の希望をあるていどかなえてくれている」と書きましたが、実はこのサイドビューランプの点灯は、約35km/h以下の速度に限定しています。

なぜ速度条件を入れるのか。

この「約35km/h以下」という条件から、実際の山間道走行では役に立たないのではないかと思ったのですが、意外に(というのもなんですが)点灯条件を満たす速度で走っていたらしく、カーブのたびにほとんど点灯していました。

また、低速であるべき住宅街の中で右左折することを考えると、約35km/h以下という点灯条件は、いっけん理にかなっているように思えます。

問題は高速道路で、実際には大きな大きなカーブであるとはいえ、感覚的には直進に近い走行となる高速路では、夜、車線変更でターンシグナルを発動させても移りたい先の車線を照らしてはくれません。

筆者が使っていた前車の日産ティーダにはAFS(アダプティブフロントライティングシステム)がついていました。停車時でもハンドルを90度弱(だったかな?)まわせばベンディングランプが点灯し、速度が上がれば90度弱未満のまわし量でも点灯というわずかな速度制御も入っていましたが、どちらにしてもハンドルに連動するだけで、ターンシグナル連動ではありませんでした。

side view lamp 7 lane chabge to right at metropolitan expressway
左カーブでの右車線への車線変更でも、ハンドルは左向きとなる図。ここはたまたま首都高で明るい場だが、カーブが多くて真っ暗な中央道のような場では、ターンシグナル点灯で斜め先が明るくなるほうがいいに決まっている

不便だったのは、右左折はまだいいにしても、特に首都高に多い、きつめのカーブでの車線変更。

例えば直進路で右に車線変更したいときはハンドルを右に傾けるのに対し、左カーブで右に車線変更したいときは、右にターンシグナルを出しながらも、ハンドルは全体的には左に向いています。実際は、ハンドルを左から戻し気味にして右車線に移っているわけです。右であれ左であれ、どのみち高速路のカーブ程度のハンドル操作量ではAFSは点灯しませんでしたが、それもあってなお、これがターンシグナルにも連動すればなあと何度思ったことか!

暗い中を走るとき、行きたい先を照らしてほしいのは、低速でも高速でも同じです。これは他社の同種ランプにもいえることですが、わざわざ余計な速度制御を入れているところに、机上の空論を思わせ、開発したのはあまりクルマに乗らないひとなのでは? と勘繰りたくなるところです。

アトレーのサイドビューランプはせっかくターンシグナル連動になっているのですから、ヘンな速度制限は取り去り、もっとシンプルにしてほしいと思います。アダプティブクルーズコントロール(ACC)のほうは「全車速追従型」なのに。

アトレーの後に出たクルマはどうかと、2022年7月の2代目ムーヴキャンバスを調べてみたら、あちらはまだ速度制限を加えながらも一挙に上がり、約90km/h以上で消灯、約80km/h以下で再点灯する、ターンシグナルともハンドル操作とも無縁の常時点灯式ときたもんだ。

ダイハツもまだ迷っているのかも知れません。

もうひとつ。

なんだか「ああすればこういう」「こうすればああいう」のようで気が引けるのですが…

「ビカッ!」「パッ!」の点消灯が目にやさしくないといっている筆者は、アトレーのランプのじんわり点消灯に拍手を贈りましたが、サイドビューランプばかりは「ビカッ」「パッ!」でいいのではないかと思いました。

唐突なLEDの点消灯が嫌なのは、「ビカッ」「パッ!」を真正面に見るからで、サイドビューランプはじんわり点消灯するのが運転視界の端っこであるために逆に認識しにくく、むしろこちらはくっきり明滅がいいのではと思ったわけです。

とはいえ、現状でも「ないよりまし」というレベルにとどまらないサイドビューランプです。速度制御の廃止と「ビカッ!」「パッ!」が採り入れられれば、このランプの存在意義がよし増すことになると思います。

ここから先は、注意点です。

暗闇では思っていた以上に明るいと感じただけに意外だったのですが、街灯が灯る明るめの場所では、サイドビューの光が周囲光に埋もれて目立たず、サイドビューランプの恩恵はあまり感じられませんでした。また、LEDヘッドライトとも共通する弱点ですが、夜の雨天走行では、雨に濡れたアスファルトの黒に光がなお吸収されてしまい、ありがたみの薄いものでした。

いずれもLEDの光が白いためです。これが黄色味を帯びるハロゲン光ならまだましだったでしょう。いますぐとはいきませんが、シームレスでも2段式でもいい、アルトの回で書いたように、色を可変できるLEDの利点を活かし、ハロゲン色と白に切り替えられるようになれば解決するでしょう(いまのところ保安基準ではライト色が変わることを許しても禁じてもいない。)。

●アトレーのライトに関する雑感

自動ハイビームの確実性は高いわ、目に優しい点消灯をするわ、ターンシグナルありき、ハンドル連動のコーナーリングランプはあるわ…

ね? 過去のクルマの「リアル試乗」で書いてきた、筆者のライトに関する要望がおおかた叶っていて、前回「ダイハツのまわし者」と書いた理由がわかったでしょう?

筆者は、新オートライト規制だからと、何もエンジンONで即時点灯する必要はなく、シフトDにしたときか、走りだしてからの点灯でいいじゃないかといっていますが、このライト全体を見ると、何だかダイハツのライト担当者は、ライトに対する筆者の考え方が同じなのではないかと思いました。

メーカーによって多少ばらつきはありますが、他社の新オートライトは、夜間の「AUTO」点灯からの消灯は停車中のみ、発進するや再点灯するロジックになっています。対してアトレーの場合は、約3km/h以下で消灯可能、再点灯も約3km/hを超えたときとなっています。

新オートライト規制反対派の筆者としては、不便極まりないこの規制に必ずしも賛同していないランプ担当者の、せめてもの反発心かも知れないナと思いました。

他と等しくエンジンONで即点灯しはしますが、これもしぶしぶ対応しただけのことと勝手に解釈しています。

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アトレーの各スイッチ照明

最後、夜間照明を灯した内装写真で締めくくります。

夜間のスイッチ照明は、筆者の好みではないオレンジ。それでいてメーターのプロッティング、空調スイッチ部、シフト位置、エンジンスタートボタンの各照明は白…最初、一貫性がないなと思ったのですが、運転席右下にズラリと並ぶスイッチの中で、唯一エンジンスタートボタンだけ白く灯っていてわかりやすかったので、メーカーが意図したかどうかはわかりませんが、意味があるなと思いなおしました。


というわけで、今回はここまで。

次回、「車庫入れ編」でまたお目にかかります。

(文/写真:山口尚志

【試乗車主要諸元】

■ダイハツアトレー RS(3BD-S710V型・2021(令和3)年12月型・4WD・CVT・レーザーブルークリスタルシャイン)

●全長×全幅×全高:3395×1475×1890mm ●ホイールベース:2450mm ●トレッド 前/後:1305/1300mm ●最低地上高:160mm ●車両重量:1020kg ●乗車定員:2名(4名) ●最小回転半径:4.2m ●タイヤサイズ:145/80R12 80/78N LT ●エンジン:KF型(水冷直列3気筒DOHC・インタークーラーターボ) ●総排気量:658cc ●圧縮比:9.0 ●最高出力:64ps/5700rpm ●最大トルク:9.3kgm/2800rpm ●燃料供給装置:EFI(電子制御燃料噴射) ●燃料タンク容量:38L(無鉛レギュラー) ●モーター:- ●最高出力:- ●最大トルク:- ●動力用電池(個数/容量):- ●WLTC燃料消費率(総合/市街地モード/郊外モード/高速道路モード):14.7/13.3/15.7/14.7km/L ●JC08燃料消費率:19.0km/L ●サスペンション 前/後:マクファーソンストラット式/トレーリングリンク車軸式 ●ブレーキ 前/後:ディスク/リーディングトレーリング ●車両本体価格182万6000円(消費税込み・除く、メーカーオプション/ディーラーオプション)