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■パチパチパチパチ…大拍手モノのアトレーのLEDライトに迫る!
過去に、ダイハツに「アプローズ」というクルマがありました。
ひと目3BOXのセダン、使えば5ドアハッチバックというめずらしいボディ形態のクルマで、車名は「拍手喝采」の意味でした。
「リアル試乗・アトレー」の第4回。アトレーのライト性能を見ていきます。
筆者はこれまで、公正中立・不偏不党を念頭に、その新型車の欠点や、「ここがこうであれば」という要望を述べ、今回のアトレーでも、第2回でシートなどについてけっこうなことを書き立てました。
そして過去のライトの回では、その機能性は認めながらも、一部が未点灯になっても全体を交換しなければならないことによるムダっぷり&補修費の高さを心配し、クルマのライトのオールLED化への流れにひとり反発していましたが、どうやら今回ばかりは持論を引っ込めざるを得なさそうです。
いや、引っ込めるどころか、「おまえはダイハツのまわし者か」と疑われかねない内容になることをご了承ください。
というのも、これまで述べてきたライト機能への筆者の要望を、メーカーがほとんど採り入れてくれたかのような仕上がりとなっていたからです。
まさに「拍手喝采」!
両手で拍手、両足での拍手…じゃなくて拍足も加え、全身で「パチパチパチパチ…」と大称賛を贈りたい内容になっていました。
●ADB付LEDランプ、アトレー全機種標準装備!
アトレーは全機種とも、LEDライトが標準であるばかりか、ロー/ハイの2段式ではない、周囲状況に合わせて配光を変えるADB(アダプティブドライビングビーム)機能付きがクラス初で標準装備。これだけでもぶったまげるのに、ハイゼットトラックのジャンボにも標準、一部機種に工場オプションときました。なぜかハイゼットカーゴのほうには標準で与えられる機種はなく、一部機種へのオプションにとどまっていますが、いずれにしても、軽商用の世界も変わったもの。少し前までレクサス級のデバイスだと思っていたものがほどなく下のクラスにまで展開され、軽乗用ばかりか、いまや軽バン、軽トラックにまでつくようになるなんて!
フロントライトの内訳は写真のとおり。
白の発光部分は上下2段式。通常、ロー/ハイがタテ配置のものは、ローが上段、ハイが下段に置かれることが多いのですが、アトレーでは名のとおり、下段ローに2個、上段ハイに4個のLED素子がレイアウトされています。
スモールは下段の外側でLED、さらに外側にターンシグナルが並びますが、こちらは電球となっています。
美術館や博物館、ホテルのロビーや客室には、展示物や設備の裏からぼんやりした光を照らす間接照明がありますが、「光源を見せない」のが間接照明の定義。
実はアトレーのフロントライトも、外から普通の姿勢で見る限りは光源=LED素子は見えません。どこに隠れているのかと思って下から覗いたら、レンズ内で2階建てになっている各部屋の天井に据えられていることがわかりました。ターンシグナルを除き、多面構成のリフレクターに照射した光の反射光で夜間視界を確保する、間接照明の格好になっています。
LEDは光の拡散性が弱く、これが自動車用ライトのLED化が遅れた理由なのですが、間接光で照射するとは!
というわけで、光源が見える位置から撮った写真でもういちどランプレイアウトをお見せします。
余談ですが、リフレクター設計のノウハウはランプメーカーの企業秘密で、実は当の自動車メーカーのランプ担当チームでさえ知りません。
ライトのスイッチポジションは新オートライト規制に則ったもので、エンジンON時、周囲の明るさ如何で自動点消灯する「AUTO」を定位置に、自動戻りの下まわし「○」は、約3km/h以下の自動点灯時のチョン操作でスモール落ち、1秒以上保持で消灯、向こうまわしの「ライト」固定で強制点灯というロジック。明るいときに、定位置「AUTO」から「○」にチョン操作しても保持しても、スモール灯が単独で点灯することはありませんでした。
●早く試したい、ADBの性能は?
さて、このクルマのADBを夜の山間道と高速道で試してきました。
取扱説明書では「遮光ハイビーム」と呼んでいますが、点灯した光を何かで遮るのではなく、ADB用の4つのLEDを点消灯させているので「遮光」は違うような気がします。
ADBの作動条件は次のとおり。
エンジンON、スイッチが「AUTO」&緑色のADB作動点灯中であることを前提に…、
<ロー → 単なるハイ>
1.車速が約30km/h以上。
2.車両前方が暗い。
3.対向車や先行車が存在しない、またはライト点灯していない。
4.前方の街灯が暗い。
<ローまたはハイ → ADB>
1.車速が約30km/h以上。
2.前方にライト点灯した車両がある。
3.車両前方が暗い。
<ハイまたはADB → ロー>
1.車速が約20km/h以下。
2.車両前方が明るい。
3.対向車や先行車の台数が多い。
4.前方の街灯が明るい。
結論からいうと、周囲状況の把握性、ロー/ハイ切り替え、ADB移行…これら作動は、これまで乗ったクルマの中でトップではないかと思うくらい、確実性の高いものでした。
夕方を過ぎ、かつ完全に暗くなる前の明るさの残る住宅街でも、そして周囲にクルマがあろうとなかろうと、ちょいとでも必要とあらば、メーター内に青いハイビーム灯が追加点灯。
筆者は、前方に歩行者だけでなく、のら犬、のら猫がいなければ、街灯が灯っていてもハイビームにするのですが、「ハイビームにするかしないか」の判断基準が筆者とまるで同じで、アトレー君もハイビームなりADBなりにして前方を明るくしてくれます。要するに、わずかな光に過敏に反応し、無難なローを維持するということがないのです。
夜の高速路になるとその働きは顕著で、関越自動車道下り・前橋ICを過ぎると途端に4車線から2車線に減り、道路照明もぐんと減るのですが、これが単純なロー/ハイ2段式だと、(最近は確実性が向上しているにしても)前方に車両がなければ、はるか彼方に見える道路照明を検知しただけでもロービームに切り替えるところです。そのくせ、赤いテールランプや対向車の白い光が見えているにもかかわらず、ハイビームに切り替えることもある…こちらアトレー君はしっかり者で、そのあたりを勘違いすることなく、適当なADB光を照射してくれます。
よって、住宅街であれ高速路であれ、そして後述する山間道であれ、メーター内での青いハイビーム灯の点灯時間も自然と長くなる道理です。
夜の街乗りでも前方のクルマをけっこう明るく照らすので、前方車両への幻惑が心配…ほんとうは対向車ならすれ違った後にUターンして追いかけ、先行車なら次の信号待ちでクルマから降りて、それぞれのドライバーに尋ねなければわからないのですが、対向車からのパッシングも、先行車ドライバーのブチ切れ降車もなかったので、ちゃんとロー以上、ハイ未満の光を放っているのでしょう。
片側4つ、左右で8つのADBランプのうち、どれがどのように点消灯しているのか、乗っている本人にわかろうはずはありませんが、ハンドルを握る者の目には、暗闇に広がる光が、まるでアメーバ-のようにウネウネと形を変える生き物のように見えました。システムが見やすい光にしようと、一生懸命調整している証拠です。
それでいていつまでも落ち着かずに手探りしているわけでもなく、いったんこうと決めたらしばらくはその光の形を保つ…強烈なLED光を受けた標識看板からの反射光を看板内部からの照明と勘違いし(?)、光の形を変えたのはご愛嬌ですが、高速路でのロー/ハイの切り替え判断も筆者と同じ。不満を抱いて手動でハイビームに切り替えたシーンは一度もありませんでした。
いっぽう、ADBの働きは、夜の山間道でのほうが単純でした。いつもこの「リアル試乗」のコースに決めている群馬県の赤城山は、料金所跡を過ぎれば、まずは左右から覆いかぶさる黒い木々の中をくぐり抜けることになります。このような、カラスが目の前にいてもわからないような暗闇の道では、ADBというよりは、ほとんどハイビームフル点灯のままでした。試しに手動でハイビームにしても明るさは同じままだったのがその証。ほんと、ランプ筐体内部の、上からの光を受けた間接反射光だけで、よくもまあこれだけ照らせるものョと感心するやらあきれるやら…
カーブ向こうから対向車光がちょっとでも表れれば、即座にADBに切り替える…青いハイビーム灯は相変わらず点きっぱなしです。
●優れたインターフェースと目にやさしい点消灯
ADBのための操作が最低限なのもいいところで、ADBが、ライト/ターンシグナルスイッチレバーが中立のまま作動するのもありがたい点でした。
レバー向こう押しで作動するタイプは、自前でハイビームにしたいときでもレバーはすでに向こう側にあるため、手動でハイにできないので困ると書いてきましたが、このアトレーは中立位置のままADBが作動しました。
自動切替がレバー中立位置か、前方位置か、いまのところ二分していますが、いずれ中立作動に統一されると筆者は睨んでいます。どう考えても、そのほうが使いやすいからです。
また、筆者は新オートライト規制発効で、ライトがエンジン始動と同時に灯り、かつ光が「ビカッ!」「パッ!」と瞬間的に点消灯するのは人間の目の生理に合わない、ドア開閉時のルームランプ同様、じわっと点消灯してほしいと書いてきましたが、「なぁんだァ、ダイハツは知ってるんじゃん」といいたくなったのは、アトレーのライトはじんわり灯り、じんわり消えるようになっていました。おそらく最新ダイハツ車はみな同じでしょう。もっとゆっくりでもいいョ。
ただのライト点消灯にとどまりません。スモール、ロー、ローにハイ追加、パッシング(ロー/ハイ一斉)のどれもこれもが、ハロゲンを模した点消灯になっていました。
たったこれだけの細かことではありますが、暗がりでいざ接してみれば、外から見ても運転席から見ても、「ビカッ!」「パッ!」なのか、「じわっ」なのかは段違いの大違い! 見る目にちっとも苦になりませんでした。
このへん、よくぞ配慮してくれたと思います。メーカーに声は届かなくても、知らぬ間にやさしい点消灯に目が助けられているひとは多いと思うョ。
●リヤランプ
フロントランプのじんわり点消灯に感激し、こちらはどうなのか、ここまで書いたところで、観察するのをすっかり忘れていたことに気づいたリヤランプについても見ていきましょう。
フロントランプとは対照的に、リヤランプのレイアウトは至って平凡で、外側から順にLEDのテール&ストップ、ターンシグナル(電球)、リバース(電球)が斜線で区分けされながら並び、この3つというか4つをリフレクターが下支えするように一直線に配されています。
テール&ストップは、ハイゼットカーゴが点いても消えても赤いままで、いつでも赤いL字型をなしているのに対し、こちらアトレーは点灯時だけ赤く灯るクリアレンズ。消灯時のリフレクターの赤い一直線だけが浮き彫りになる格好です。ランプ筐体の外形形状、灯火配置が同じである分、アトレーとカーゴとで見てくれに差をつけるにはクリア化しかありません。
リヤランプ各部の点消灯の様子は写真のとおりです。
さあ、「新車リアル試乗」としてはめずらしく褒めてばかりに終始したアトレー第4回ライト編でしたが、もしダイハツのランプチームや、ランプメーカーのひとがこの記事を読んでいるとしたら、相当もどかしい思いをしていることでしょう。
実はもったいぶってあえて触れなかった部分があり、ライト写真にも文章にも抜けがあります。
そう、ほめたいところはまだあるのだ!
なーんだ?
好きなものを食べるのはあとにする。そんな食事をする子どもみたいなやり口で、話は次回につづく…
(文:山口尚志 モデル:城戸ひなの 写真:山口尚志/ダイハツ工業/モーターファン・アーカイブ)
【試乗車主要諸元】
■ダイハツアトレー RS〔3BD-S710V型・2021(令和3)年12月型・4WD・CVT・レーザーブルークリスタルシャイン〕
●全長×全幅×全高:3395×1475×1890mm ●ホイールベース:2450mm ●トレッド 前/後:1305/1300mm ●最低地上高:160mm ●車両重量:1020kg ●乗車定員:2名(4名) ●最小回転半径:4.2m ●タイヤサイズ:145/80R12 80/78N LT ●エンジン:KF型(水冷直列3気筒DOHC・インタークーラーターボ) ●総排気量:658cc ●圧縮比:9.0 ●最高出力:64ps/5700rpm ●最大トルク:9.3kgm/2800rpm ●燃料供給装置:EFI(電子制御燃料噴射) ●燃料タンク容量:38L(無鉛レギュラー) ●モーター:- ●最高出力:- ●最大トルク:- ●動力用電池(個数/容量):- ●WLTC燃料消費率(総合/市街地モード/郊外モード/高速道路モード):14.7/13.3/15.7/14.7km/L ●JC08燃料消費率:19.0km/L ●サスペンション 前/後:マクファーソンストラット式/トレーリングリンク車軸式 ●ブレーキ 前/後:ディスク/リーディングトレーリング ●車両本体価格:182万6000円(消費税込み・除く、メーカーオプション/ディーラーオプション)