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■プロローグ・トヨタ、日産のロングセラーに負けない歴史を誇るダイハツ軽バン
トヨタならクラウン、カローラ、ハイエースワゴンが代表格。「プリンス」に始まったスカイラインも入れなきゃ日産に叱られる…21世紀初頭から、各社それまでの看板ブランドを捨て去ったり、別のクルマに発展させたり置き換えたりを繰り返してきましたが、そのいっぽうで、誕生から今日まで、ただの1日とて、販売もモデルチェンジも途絶えることなく50年、60年存続するクルマもまだかろうじて残っています。
軽自動車の世界はどうかというと、軽の乗用車は皆無。軽商用車となると前述したクルマたちに負けてはいないクルマがあります。
スズキの「キャリイ」にダイハツ「ハイゼット」。キャリイは1961年、ハイゼットはキャリイよりわずかに早い1960年、当初は360ccのボンネットバン&トラックでスタートしましたが、途中でフルキャブオーバー化したり、セミキャブ化したり…どちらも多少の時期を変えながら同じような変遷をたどってきた、軽商用の2大巨頭として走り続ける60年超の長距離ランナーです。
今回の「リアル試乗」の主役は、その2大巨頭のうちの片方、ハイゼットの乗用版、アトレーを採り上げます。
●17年ぶりのフルモデルチェンジ! アトレーにもデッキバン登場
1981年登場の「ハイゼット・アトレー」を初代とすると、アトレーとしては、今回のモデルチェンジで6代目…ダイハツが贈るクリスマスプレゼントかというタイミングの、もうおととしとなる2021年12月20日、新型アトレーが純粋なバン仕様のハイゼットカーゴとともに、17年ぶりにフルモデルチェンジして発表・発売されました。
過去、初代センチュリーや初代デボネアのように30年、21年造り続けた前例はあるし、2004年から販売継続中の現行ハイエースもあるので、アトレー(とハイゼット)だけが格別異例とはいえないのですが、それでも17年ぶりのモデルチェンジは異例の部類に属するでしょう。
1998年の軽規格改正時に発売された先々代は1999年に登場、トラックはフルキャブオーバーのまま、バンのハイゼットカーゴ&アトレーは、それまでのフルキャブ1BOX型から、フロントにクラッシャブルゾーンを設けた、ジウジアーロデザインによるセミキャブオーバーに転身しました。
いつの時代も変わり種はデッキバン。これはフルキャブオーバーの7代目ハイゼット時代、もともと、松下電器(いまのパナソニック)が、4人乗り状態で冷蔵庫を積むことができるクルマはできないかと、確かダイハツの特装車両部に打診されたのが始まりで、荷台部分の屋根、クオーターパネルとバックドアの上半分(つまり窓枠)を取っ払ってオープン化した手づくりのクルマでした。
「手づくり」は嘘じゃなし。ボディをいったん他のレギュラー機種と同じところまで仕上げた段階でラインから降ろし、そのドンガラを専用の治具にセットして不要部分をサンダーでぶった切って荷台をオープン化、後席後ろにバックパネルをはめるという、本当に手づくりで仕上げたクルマだったのです、先々代までは。
というのは、生産を九州工場に移管した先代からはインライン化、他のレギュラーモデルと同じラインで完成までこぎ着けられるようになったので仕上がり精度は向上しているはずで、ゆえに特装車扱いから正式な標準車に格上げとなり、カタログモデルとなっています。
ただ、本来のデッキバンが意味を持っていたのはフルキャブ時代までで、途中の軽規格改定でボディサイズがアップしているとはいえ、限られた全長の中にフロントクラッシャブルゾーンが設けられたしわ寄せでキャビン&荷室が余儀なく短縮化されているため、セミキャブ化して以降のデッキバンは、所期のねらいは薄れています。
そうはいっても、やはり隠れた人気モデルなのでしょう、街で見かける頻度は低いにせよ、今回もデッキバンを継続。新型ではハイゼットデッキバンに加え、アトレーにもデッキバンがラインナップされました。そういえば、2001~2002年頃、三菱もミニキャブで同じボディ構造のクルマで追いかけたことがあったっけ。架装は「タカハシワークス」という名の会社だったと記憶しています。
今回試乗の主役に据えるのは、アトレーの最上級機種・RSの4WD車。デッキバンにも興味があったのですが、まずは標準モデルから始めるのが順当でしょう。
いつものように機種別に眺めてみると…
基本構成は「RS」「X」「アトレーデッキバン」の3機種ですが、カタログ装備表を見るに、アトレーデッキバンの装備類はデッキバン化に伴う要変更部位が異なるくらいで、それ以外はおおかたRSに準じています。したがって新型アトレーは、廉価版「X」、最上級「RS」の実質2機種構成で、アトレーデッキバンは、本来「アトレーRSデッキバン」というべきでしょう。
XもRSも思っているほどの装備差はなく、異なる部分といったらメーター液晶がモノクロかカラーかのほか、RSには与えられるインパネセンターポケットや空調吹出口、シフトレバーの加飾がXでは省かれること、エアコンがオートかマニュアルかが異なること、一部安全デバイスで差異があるのと、RSでは標準となる、ナビorオーディオ装着を前提とする電子機器(バックカメラ、ステアリングスイッチ、GPSアンテナ、テレビアンテナなど)が、Xではパックオプションになるといった違いがあります。
ハイゼットカーゴは純粋なバンですが、このアトレーも内外を乗用仕立てにしながら、その実、商用車カテゴリーのバン登録車。旧乗用アトレーもスズキエブリィの乗用版も、後ろ姿はテールランプ形状でバンと差別化し、乗用版は思いっきり見映えよくデザインするいっぽう、バンはこじんまりとした、意図的に情けない姿に映るランプにしてありました。このアトレーも、テール&ストップ、ターンシグナル、リバースランプの配列はそのままに、輪郭形状はバン型ハイゼットカーゴと同じにしています。
もっかのところ、メーカーはアトレーの乗用モデルを造る気はさらさらないようです。
しかし、旧型と同じ15年超になるかどうかはともかく、今回のアトレーはモデルライフの間、本当に商用タイプ1本で貫くつもりなのでしょうか。新型アトレーは全車ともハイゼットカーゴと同じ12インチタイヤを履いていますが、ホイールハウスを見れば13インチタイヤが収まりそうなこと、後ろのランプが小さいまま続くはずがないと思うこと、そして先々代はハイゼットカーゴと乗用「風」アトレーの発進後に、先代もカーゴの後に乗用アトレーを加えた経緯があることを思うと、いずれ気変わりして新型にも乗用版が加わるかもしれないのですが、ひとまずいまは商用タイプに限られています。
●外観はよりボクシーに
軽自動車だもの、全長×全幅が軽サイズ枠をいっぱいに使った3395×1475mmなのは当然。全高は1890mmで、これは旧型から15mmアップ。なのに全体を見ると、なぜか長さも幅も大きくなったように見えます。
スタイルは旧型をやや角ばらせた程度の違いかなと思いきや、近づけばフロントならフードからフェンダーにかけて、リヤならクオーターからバックドアに至る部分は結構丸みが残されている…要するに、Rを旧型から小さくしたのと、サイドから見たとき、フロントガラス下端はそのままにガラスを起こし、ルーフ前端を前に移動。そのルーフも、旧型ではセンターピラー上あたりからフロントにかけてなだらかにスロープしていましたが、今回は後ろの高さのまま引っ張って立ち上がったフロントガラス上辺に接続しています。
旧型のときでさえ、極限まで確保していたはずの荷室長をさらに延ばすベく、バックドアのわずかな傾斜角も見逃さずおっ立て、ついでにサイドガラスも起こした…結果的に、ボックス感が出て「角ばった」「大きくなった」という印象につながっているわけです。
すべてはハイゼットカーゴに於ける荷室拡大が目的。結果的に乗員肩部分のドアとの距離も増えました。荷室がライバル(といっても、実質スズキエブリイだけですが)より1mmでも大きくないと顧客はあちらに流れてしまう。顧客にしてみれば、荷や商品を積めるか積めないかは荷室の幅や長さの1ミリ差がものをいい、これが買う買わないの決め手になるわけです。荷室&客室の拡大効果は、その成り行きで乗用的ユースのアトレーにまでおよんでいます。
旧型とのもうひとつの相違点は、スライドドア~クオーターにかけてのウインドウグラフィックス。従来昇降していたスライドドアガラスを、クオーターの接着ガラスと面一化し、前ヒンジのフック外し&押し出しで開けられるようにしてあります(ポップアップ機構付リヤガラス)。
昇降式のほうがよかったと思いますが、おそらくは内部の昇降機構や、パワーウインドウ付きに対するモーター廃止、軽量化、コスト安など、もろもろを勘案してのことでしょう。もったいないのは、後席乗員にしか開閉できないことで、電磁式か何かで、これまでのパワーウインドウ同様、運転席から開閉できるようにしてほしかったところです。ヒンジ式なら電磁開閉と手動開閉は両立できるでしょ?
バンパーはぶつかって車体を守るのが本分ですが、フロントに限られるものの、バンパー裾を別体にして、損傷を受けた場合でも別体部分だけ交換できるようにしてあります。
下側だけでなく、より傷を受けやすい角っこ全体も分割構造にしてくれるとよりユーザーによりやさしいでしょう。多少部位は異なりますが、傷を受けやすい部分だけ分割し、補修費用が安くすむようにしたのは旧型後期から受け継いだ美点です。
裾といえば、筆者は長いこと、最近のクルマの前後バンパー下やサイドシルの、地面との距離の小ささを気にしています。
コンビニエンスの駐車場でも車輪止めブロックとバンパー下がスレスレのクルマをよく見かけるし、それを意識してか、最近のブロックは薄くなっているような気がする…これまで筆者は、車両三面写真に全長・全幅・全高、ドアミラー間距離を記すとともに、前後バンパー下の地面との距離も載せてきましたが、中央部だけでした。
よく見りゃあたいていのクルマの前後バンパー下は、中央部と端部とで段差があったりなかったり。コリャコリャ説明不足だったぜということで、今回から車両前後バンパー中央下に加え、タイヤトレッド中心部、サイド視では前後タイヤの前後(ややこしい!)の部分それぞれの地面との距離も計測に加えました。
ついでにフロントガラス中央部で測ったフロントガラス傾斜角も入れることにしたので参考にしてください。
●やや乗用車テイストから遠ざかった内装デザイン
内装は黒1色。クルマの内装は、ガラスへの映り込みがないことを前提に、全体が明るいほうが望ましいのですが、その意味でも黒以外の内装カラーを与えたアトレーワゴン登場に期待したいところです。
基本形状を純粋なバンのハイゼットカーゴと同じにするインストルメントパネルは、全体に低く抑えられている点に好感。圧迫感がないのと、視界のすっきり感向上につながっています。
運転席正面にメーター、その左にハザードスイッチをはさんでフロート風配置のディスプレイオーディオがあり、その下には吹出口、さらに下に空調操作とインパネシフトをレイアウト。これら位置を決めた後、余った空間をもの入れに充当したかのように、中段にトレイ、両脇にドリンク置き場を設置…いま風の要請を満たしてはいますが、全体の造形はどこかトラック的で、旧型のほうが乗用車感は上だったように思います。さきほどから筆者が勝手に追加されると予想している乗用の新型アトレーワゴンがまったくの別形状にするとしたら、こちら乗用風アトレーも同時に共通化し、ハイゼットカーゴとの差を明確にしてくるかもしれません。
メーターは、右に速度計、左にエンジン回転計、その間に縦長のカラー液晶を備えたオーソドックスな2眼式の自発光式。
運転姿勢で見るとき、目盛りと指針先端がずれることを思うと、本当は速度計をドライバー真正面に、その右に回転計、左端に液晶表示を置いてくれた方がありがたいのと、水温表示が低温の青、適温の消灯、高温の赤の3段階表示なのはわかりにくく、燃料計とともに指針式にしてほしいこと、積算距離、区間距離A、Bは同じ位置での切り替え式なのが不親切で、積算距離は常時表示、区間距離もできればA、B同時表示してほしい…メーターに関してはこの3点だけが気になりました。
そうはいっても、ヘンに加飾に凝るような悪ふざけをせず、全体的にまじめにデザインされており、見やすく、好印象のものでした。何よりもよかったのは、あたり前のことですが、前々回、前回のワゴンRスマイル、アルトで指摘した、メーターレンズへ映り込みが、夜はもちろん、昼間でもいっさいなかったことで、連続してスズキ車を採り上げた後だけに、本来あたり前のことでもありがたみが感じられました。体調不良で熱を出したときこそ、日常、健康であることに感謝するようになるのと同じです。治ればまた忘れるのですが…
●海へ、山へ、川へ! に便利なユースフル装備がそこかしこ
商用でありながら乗用風に使うというコンセプトは別にいまに始まったことではなく、アトレーのほか、ホンダならアクティに於けるストリート、三菱はミニキャブに対するブラボー、スバルならサンバーバンをサンバートライに…むしろ1998年の軽規格改正前のフルキャブ軽1BOXは、乗用風ユースの商用車しかありませんでした。商用のほうが排気ガス規制がやや甘いためです。車両価格も安くできる。純乗用5ナンバー軽1BOXが現れたのは、セミキャブ/フルキャブが混在した1998年軽規格車からです。
今回のアトレーは、1998年以前に回帰しただけではなく、特にアウトドアユースに重点を置いているようで、さきに少し触れた手まわり品の収容は前席に集中しているものの、後席から後ろにはレジャーorキャンプユースを意識した装備が見られます。
先述したスライドドアの「ポップアップ機構付リヤガラス」、スリットに販社オプションのラゲッジボードを差しこめば荷室を上下に分けられ、そのボードをテーブル代わりにも使える「デッキサイドトリム」、じゅうたんをやめ、濡れものを放り込んでも気にならず、掃除も楽な荷室床の「イージーケアマット」、販社オプション(に限らないでしょうが)を固定するのに便利な「マルチフック」、RSなら12V電源もある…このキャラクターから推し量るに、案外、新型アトレーのライバルになりそうなのは、スズキエブリイワゴンでもなければ、エブリイバンの最上級JOINでもなく、2022年8月末に現れたスペーシアベースかもしれません。
さて、走行メカの注目は、メーカーが「新開発」と謳うCVT…なのですが、走りの話は次回に持ち越し。
「リアル試乗・アトレー」第2回でお逢いしましょう。
(文:山口尚志 写真:山口尚志/ダイハツ工業/モーターファン・アーカイブ)
【試乗車主要諸元】
■ダイハツアトレー RS〔3BD-S710V型・2021(令和3)年12月型・4WD・CVT・レーザーブルークリスタルシャイン〕
●全長×全幅×全高:3395×1475×1890mm ●ホイールベース:2450mm ●トレッド 前/後:1305/1300mm ●最低地上高:160mm ●車両重量:1020kg ●乗車定員:2名(4名) ●最小回転半径:4.2m ●タイヤサイズ:145/80R12 80/78N LT ●エンジン:KF型(水冷直列3気筒DOHC・インタークーラーターボ) ●総排気量:658cc ●圧縮比:9.0 ●最高出力:64ps/5700rpm ●最大トルク:9.3kgm/2800rpm ●燃料供給装置:EFI(電子制御燃料噴射) ●燃料タンク容量:38L(無鉛レギュラー) ●モーター:- ●最高出力:- ●最大トルク:- ●動力用電池(個数/容量):- ●WLTC燃料消費率(総合/市街地モード/郊外モード/高速道路モード):14.7/13.3/15.7/14.7km/L ●JC08燃料消費率:19.0km/L ●サスペンション 前/後:マクファーソンストラット式/トレーリングリンク車軸式 ●ブレーキ 前/後:ディスク/リーディングトレーリング ●車両本体価格:182万6000円(消費税込み・除く、メーカーオプション/ディーラーオプション)