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■美しく魅力的で、かつ力強いスタイリングを目指す
11月18日に発売されたレクサスの新型「RX」。初代以来、世界累計で362万台を発売した同社のコアモデルとして、今回も新しいデザインにチャレンジしているといいます。
そこで、同社でエクステリアを手掛けた草刈穣太、平井望美両氏に、新型に込めたデザインの意図をお聞きしました。
●先代よりもさらにチャレンジした方向性
── 最初に、先代のデザインについてどのように評価されていたかを教えてください。
「実は先代の開発当時、北米市場で『レクサスのデザインは退屈だ』という声が上がっていたんですね。私たちとしてはしっかり個性を出しているつもりでしたが、もっと強く存在感を主張しなくてはいけないと。そこで、RXのDNAとして機能性とスタイリッシュさを両立させながら『ブレイブ(挑戦する) デザイン』にチャレンジし、一定の成果が残せたと考えています」
── では、新型もその流れを継続する方向で考えたワケですね?
「はい。それが新型のコンセプトである「ALLURING(魅力的な)×VERVE(力強さ)」です。レクサスは次世代デザインとして「機能的本質やパフォーマンスに根差したプロポーションと独自性の追求」を掲げていますが、ではRXの機能性とは何か、どういう美しさや力強さなのか?をあらためて考えたのです」
── 新型は全長とフロントオーバーハングを先代からキープしつつ、Aピラーを後ろに引いたFR的なパッケージが印象的です。
「いや、とくにFRを意識したワケでなく、次世代モデルとして4輪の踏ん張り感や、『eAxle』など高性能パワートレインによって、リアに重心が載ったようなプロポーションを目指したものです。また、60mm延ばしたホイールベースによりリアオーバーハングが短縮され、切れの良いスタンスを得ています」
── では、各パートについて伺います。フロントビューではやはり「スピンドルボディ」が目立ちますが、これは次世代デザインの一環なのでしょうか?
「それについては、まずサイドビューから説明する必要があります。先代は強いウエッジシェイプが特徴でしたが、新型ではカタマリ感のあるリアフェンダーに呼応し、フードを上げて水平基調のボディになっています。この水平の流れがそのままグリルにつながっているんです」
── つまり、フロントグリルもあくまでボディの一部として構成されている?
「そうです。また、レクサスではBEVの「RZ」で電動化によるミニマムなグリル開口部の表現を行いましたが、RXでも本当に必要な部分はどこなのか?を検証した。その結果、グリル部は従来より低くなり、上部をボディ色にすることでフードとの一体感を出し、スピンドルグリルという考えから、より立体的なスピンドルボディへ発展させています 」
●新しいパワーソースをカタチに落とし込む
── サイド面では、二重円の強いホイールアーチが目立ちます。とくに内側は深いラインですが、サイド面の大らかさに影響しませんか?
「いえ、すべてが滑らかな面では逆にダルくなってしまうんです。先代は四角い形状でSUVらしさを出しましたが、新型はより走りをイメージしてこの形状としました。さらに、ホイールハウスの空間をミニマムにしてタイヤとボディの一体感も目指しました。この強いラインと張り出したフェンダーのコントラストは『美しさ』と『力強さ』を両立させているんです」
── その豊かなリアフェンダーですが、張り出し面をサイドシルへ伸ばしたのはなぜですか?
「リアタイヤにトラクションが掛かった表現を模索する中で、サイドシルにつなげることで新しさが出せるのではないかと考えました。「eAxle」をどうカタチにするかですね。ただ、この面の変化は非常に複雑で、担当モデラーはずっとここにへばり付いていたほどです(笑)。その分、ユーザーの方にはいろいろな環境で映り込みを楽しんで欲しいです」
── 先代から継承した「フローティングピラー」は最近よく見かける表現ですが、少々グラフィカルに寄っている気がします。
「先代のときに調査したのですが、下りてくるルーフと、 キックアップしたベルトラインの組み合わせは意外にも他に見当たらなかったんです。そこでRXの強み、アイコンと考えました。もちろん、リアへ『抜ける』ことで室内空間を意識させる機能的な意味もあります。まあ、いま止めたら他社さんに持って行かれてしまうかもしれませんし(笑)」
── リアパネルでは、下に向けて開く「ハの字」ラインが最近のトヨタ車的な表現に見えます。
「いや、とくにトヨタブランドを意識したわけでなく、左右のタイヤに向かって行く動きや安定感を狙ったものですね。また、レクサス車は背面にもスピンドル形状を表現して来ましたが、それをより強くした。通常ライセンスプレート部分はエグられていますが、今回は凸断面として塊感とワイドさを出しているんです」
●カラーデザインでも美しさと力強さを
── インテリアについてですが、新型はメーターフードからドアパネルに回り込む造形が特徴的です。
「内外装の一体感ですね。まず外観を見てから乗り込み、内装を目にする。その際の期待感に沿ったものにしたかった。次世代レクサスでは『NX』をパーソナルな空間としましたが、RXは乗員全員がくつろげる空間としたワケです。また、 空間の広がりを感じさせるためにさまざまな工夫もしています。たとえば、助手席の空調の開口につながるシルバーの加飾ですが、通常はフィンの一部になり部品が分かれるところ、より長さを感じられるように、フィンを奥に入れることで1本の長い部品にしているのです」
── 新色のボディカラー「ソニックカッパー」では「時間軸を意識した色」と謳っていますが、これはどういう意味ですか?
「ソニックカッパーは光の当たり方によって見え方に違いがあります。たとえば、朝と夕方など時の流れによってまったく表情が異なるという意図です。また、モノトーンのよさもありますが、今回は有彩色の金属感にチャレンジしました。RXの大人っぽさ、美しさと強さの融合ですね」
── では、最後に。次世代レクサスの「機能性の本質」と「独自性」はある意味相反する言葉ですが、今回新型の開発を通してどのように感じられましたか?
「レクサス車は常に機能的なチャレンジをしていますので、デザインもそれに沿って進化しています。もちろん、意図はあってもさまざまな要件への対応など実際には難しさはあります。その中で、先のグリルやフェンダーなど、必然性のある機能をレクサスの思想の中に取り込み、独自性を感じさせるものに仕上げることはできると考えています」
──本日はありがとうございました。
(インタビュー・すぎもと たかよし)