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■名車のオークションに参加してみよう!
クラシックカーに造詣の深い越湖信一さんによる、カーオークションへの参加講座第1弾。
サザビーズやボナムスなど、数々の名門競売会社が行っている名車オークションの世界って?実は誰でも参加できるって本当?入札するときの方法は?などなど、気になるアレコレ、基本のイロハについて伝授してもらいます。
●透明でクリーンな取引ができるオークション
ペブルビーチ・コンクールデレガンスなどの自動車イベントへ行くと、大きな存在感を持っているのがカーオークションです。グーディング&カンパニー、RMサザビーズ、そしてボナムスといったオークションハウスはどんどんとビジネスを広げ、主要なカーオークションだけでも全世界で年間1万台余りが出展されているのです(注:業者間のオークションは含まず)。
クラシックカーの売買は素人にとってきわめて難易度が高く、かつてはきわめて閉鎖的なマーケットでした。しかし、近年はオークションハウスが取引の“民主化”に取り組み、誰もが少ないリスクでクラシックカー売買に関われるようになったのです。
個人売買、専門ディーラーによる売買と比較して、取引の透明性がみられるという点が評価されました。かつてのマーケットは騙し合いそのもので、売る方も買う方も疑心暗鬼となっていたのです。それが大手オークションハウスの参入でシステマティックになってきました。
オークション出展車両から偽物がでるということはオークションハウスの信頼問題となりますから、慎重な調査が行われますし、取引金額もオープンにされます。オークションハウスは落札金額をベースとして出展料や落札手数料を儲けとして受け取りますから、これらは基本的にオープンにされ、誰もがその売買の中身を知ることができるのです。
●限られた富裕層だけのものではなくなった
さあ、オークションに参加してみましょう。
事前にオークションハウスのウェブサイトでオークション出展車両に関する詳しい情報が掲示されると共に、得意先には豪華カタログが送られます。そして、私達はこれらの情報を吟味し、めぼしい車を見つけるのです。
彼らに疑問点を問い合わせたりすることももちろんできますし、入札する前にオークション会場に展示されている実車をじっくりとチェックすることもできます。
会場へ行けない場合は信頼できる“目利き”を現地に送り込みチェックを依頼し、オークションハウスの担当と電話での入札を行うというような選択肢もあります。全てではありませんが、オンラインでの入札も可能です。
中でも世界最大のクルマの祭典、モントレーカーウィークにおけるオークションが年間のハイライトです。ペブルビーチ・コンクールデレガンスなど、主要なイベントとのコラボレーション開催のオークション以外にも、モントレー一帯は連日連夜オークションだらけです。
実は年間のオークション落札金額のほぼ半分がここモントレーで決まるのです。そんな盛り上がりを見てみたいと思いませんか?
そう、そんなエンターテインメント的な要素もオークションの追い風となりました。今までは限られた富裕層だけの楽しみだったカーオークションが、身近なものになってきたのです。
オークション会場へ入るには招待がなくとも、通常は少額の入場料を支払えばOKですし、出展車数の増加と共に手頃な金額の個体もけっこう出展されるのですから。
●「ヤレ」が価値になる新しいカテゴリーも
そんな状況を背景に、2000年初頭から2016年にかけてオークションの存在感は大きく高まり、同時に落札金額も急上昇しました。
2010年から2015年の黄金期には落札金額の記録がどんどんと更新され、2018年には1962年フェラーリ250GTOが4800万ドル(約63億3600万円円※1ドル=130円で試算)という世界的な高値を記録したのです。この落札も、もちろんモントレーのRMサザビーズ オークションでした。
こういった趣味性の高いクルマの相場というのは、さまざまな要因に左右されます。たとえばレストレーションの考え方も時代と共に変化します。
かつて、北米ではとにかく全てのパーツを作り替えても新品同様なピカピカの状態に仕上げるのが良いという風潮がありました。一方、クラシックカー文化発祥の地でもある英国では、極力オリジナルの風味を残すのが善という考え方でした。
たとえば、ヤレた革シートを何とかボロボロに裂けないよう裏側かから見えない工夫をするのが英国流とすれば、北米流は問答無用に新しい革を鞣して、張り替えてしまう…。しかし、そんなそれぞれの流儀も、それぞれの文化が同じコンクールデレガンスでぶつかり合ううちに融和してきました。
そして新しく“プリザべーション”というひとつのカテゴリーも誕生しました。つまり、新車からのヤレもそのままに、如何にそのクルマが手を加えられていないかということを競うのです。
●岐阜の納屋で見つかったフェラーリが高値で落札されたワケ
税金未納の為に70年以上も湖の底に沈んでいたブガッティ タイプ13ブレシアが引き揚げられ、オークションに掛けられたというのも話題になりましたし、我が日本からの“納屋物”も話題になりした。納屋物とは長年、人目に触れず忘れ去られていたような個体を意味します。
2017年には、岐阜の納屋に長年保管されていたフェラーリ365GTB/4デイトナが、フェラーリ70周年記念オークションにて180万ユーロ(約2億3300万円-当時のレート)で落札。デイトナの落札記録を更新したという“事件”がありました。
これはRMサザビーズの戦略勝ちといってもよい出来事でした。その個体の希少さもさておき、彼らは岐阜の田舎におかれていたクルマをそのままオークション会場へと運んでいったのです。つまり彼らはクルマに一切手を触れず、岐阜の埃を被ったままオークション会場へ持ち込んだというストーリーを売ったのです。
成熟化し、マーケットが広がって来たクラシックカーオークションの将来はバラ色かと思われました。しかし好事魔多し、突然世界を襲ったのがコロナ禍でした。
多くのリアルイベントが中止を余儀なくされるなか、このマーケットはどうなったのでしょうか。その新しいトレンドを次回お伝えしましょう。(続く)
(文:越湖信一/写真:Ferrari S.p.A、RM SOTHEBY’S、Pebble-Beach-Concours-dElegance)