■たしかにカッコいい
「そういえば、どうして古いクルマを買ったの?」
彼女からそんな質問も当然だろう。ボクの愛車はホンダNSX。現行モデルではなく、初代モデル。デビューは1990年だから、もう30年以上も前だ。
ボク:「30年前くらい前に“日本車ビンテージイヤー”と呼ばれる年があって、スカイラインGT-Rにトヨタ・セルシオの初代モデル、そしてこのNSXが登場したの。
で、その3台が世界をアッと言わせるほどの出来の良さで、今でも伝説になっているというわけ。せっかくだからその時代のクルマに乗ってみたいな…と思って」
彼女:「だからNSXを選んだわけね。たしかにカッコいいし、こだわりが貫かれていることをひしひしと感じるクルマだってことは、なんとなくわかる。今どきのクルマとはオーラが違う気がするわ」
●心構えの問題
初代NSXのボディはアルミでできている。オールアルミ製モノコックボディの量産車は、このNSXが世界初だった。ホンダはそのために専用工場を作ったのだから、投資額も驚くほどだったことだろう。さすがバブルだ。
走りも凄かった。ノーマルでサーキットをガンガン走れるクルマなんて当時の国産車ではまだ珍しかったけれど、NSXはしっかり調律されていたのだ。
でも、世界が衝撃を受けたのはそこじゃない。NSXはシビックのように扱いやすく、ATの設定もあり、誰もが買い物からデートまで日常で不便なく使えるスーパーカーだった。
そこに世界が驚いたのだ。
当時、フェラーリをはじめとするスーパーカーではそうはいかなかった。まるで機嫌を伺うかのように、やさしく丁寧に接しなければいけなかったのだ。
彼女:「NSXは懐が広いのね。まるで私みたいじゃない。私は少しくらいのことじゃ機嫌を悪くなんてしないわ」
ボクは「いつからそんなに優しく…」と言いかけて、その言葉を飲み込んだ。彼女は太平洋のように穏やかな心で、ちょっとくらいのことでは機嫌を壊さない。
そういうことにしておこう。
彼女の表情がいつも以上に意味深な笑みを浮かべているのも見なかったことにして、とりあえず「そうだよね」と答えるのがよさそうだ。
それって、古いクルマを扱うときの心構えと同じように思えるのは、気のせいだろうか?
(文:工藤 貴宏/今回の“彼女”:坂元 誉梨/ヘア&メイク:加藤 紗弥/写真:ダン・アオキ)